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第三章:潮目
それぞれの思惑(2)
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「貴様らの狙いは、手薄になったポーラニア帝国の国境を攻め落とすこと……だな?」
オースティンの指摘を受けて、女性は我が意を得たりとばかりに指を立てる。
「さすがは殿下、聡明でいらっしゃる」
「だが、帝都騎士団さえいなければ帝国の国境を破れるという勝算はあるのか?」
「それはこちらにお任せを。主力不在の国境を攻め落とし、帝国に侵攻さえできればこちらのもの。平和ボケした帝国を我が軍が蹂躙し、帝国が降伏した暁には皇帝と皇太子を処刑してステラリア令嬢はイクリプス王国に返還しましょう」
「ああ、その点は貴様らに任せる。これで頼んだぞ」
オースティンは懐から革袋を取り出し、女性に差し出す。女性が中身を改めると、フード越しの頭がくつくつと揺れる。
「ええ、たしかに頂戴いたしました。表面上、今回の動乱はルナリア王国の独断で行われ、イクリプス王国は一切関与していないものとしましょう。その代わり、事が成ったら以降は『よきお付き合い』をさせていただけますよう、お願いいたしますよ……?」
「イクリプス王国王太子、オースティン・イクリプスが宣誓しよう。こちらの要求をルナリア王国が満たしてくれるのならば、イクリプス王国はルナリア王国と友誼を結ぶと」
両者は互いに手を差し出し、軽く触れるように握る。
この密約が成就し、互いの理想を実現できると信じて。
「では、俺は戻らせてもらう。貴様の方が拠点まで遠いだろう、気を付けて戻るんだな」
「ほっほっほ、お優しいことで。言われずとも、戻りは馬を使わせていただきますよ」
オースティンは再びローブを身にまとい、密談用の部屋から出る。そして、外側からも固く扉を固定した。
---
「王宮直下まで奴らを引き込むのは危険もあったが、そのおかげで計画を進めることができた」
長い土階段を、今度はゆっくりと上っていく。最初は筋肉痛に悩まされたこの往復も、何度となく繰り返しているうちにすっかり慣れてしまった。
ルナリア王国側が本気を出せば、扉を破るとか部屋を迂回して掘り進めるといった方法でイクリプス王国中枢部に侵攻することも可能だろう。だがそうしないのは、表立って進行すれば国内の騎士団と帝国騎士団が一斉に襲ってくるとわかっているからだ。だからこそ、ルナリア王国は先に帝国から落とすと決めた。
もしかしたら、すでに帝国制圧後のことまで考えて地下通路を作り上げているかもしれない。だが、俺にとってはもうそんなことはどうでもよかった。
「くっくっく……これで俺の手を汚すことなくポーラニア帝国に復讐できる」
俺が立てた計画。それは、王国と国境を接するもうひとつの国であるルナリア王国の力を借りてポーラニア帝国を侵略するというものだった。成功すればステラリアの婚約者であるレイジを処刑し、帝国から解放するという名目でイクリプス王国に連れ戻す。そして、改めて俺がステラリアの婚約者となり、結婚すればいい。
考えたくはないが、もし失敗してステラリアが手に入らないことが確定してしまったら……その時は生きる意味を失った自分が計画を明かし、責任を取って自害すればいい。ステラリアと共に歩めない人生になんて、意味がないのだから。
「待っていてくれよ、ステラリア」
足元は薄暗くとも、ためらうことなく進み続ける。なぜなら、俺はもうなにも恐れていないから。
ランプの灯に揺らめいたその瞳は、狂気に満ちていた。
オースティンの指摘を受けて、女性は我が意を得たりとばかりに指を立てる。
「さすがは殿下、聡明でいらっしゃる」
「だが、帝都騎士団さえいなければ帝国の国境を破れるという勝算はあるのか?」
「それはこちらにお任せを。主力不在の国境を攻め落とし、帝国に侵攻さえできればこちらのもの。平和ボケした帝国を我が軍が蹂躙し、帝国が降伏した暁には皇帝と皇太子を処刑してステラリア令嬢はイクリプス王国に返還しましょう」
「ああ、その点は貴様らに任せる。これで頼んだぞ」
オースティンは懐から革袋を取り出し、女性に差し出す。女性が中身を改めると、フード越しの頭がくつくつと揺れる。
「ええ、たしかに頂戴いたしました。表面上、今回の動乱はルナリア王国の独断で行われ、イクリプス王国は一切関与していないものとしましょう。その代わり、事が成ったら以降は『よきお付き合い』をさせていただけますよう、お願いいたしますよ……?」
「イクリプス王国王太子、オースティン・イクリプスが宣誓しよう。こちらの要求をルナリア王国が満たしてくれるのならば、イクリプス王国はルナリア王国と友誼を結ぶと」
両者は互いに手を差し出し、軽く触れるように握る。
この密約が成就し、互いの理想を実現できると信じて。
「では、俺は戻らせてもらう。貴様の方が拠点まで遠いだろう、気を付けて戻るんだな」
「ほっほっほ、お優しいことで。言われずとも、戻りは馬を使わせていただきますよ」
オースティンは再びローブを身にまとい、密談用の部屋から出る。そして、外側からも固く扉を固定した。
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「王宮直下まで奴らを引き込むのは危険もあったが、そのおかげで計画を進めることができた」
長い土階段を、今度はゆっくりと上っていく。最初は筋肉痛に悩まされたこの往復も、何度となく繰り返しているうちにすっかり慣れてしまった。
ルナリア王国側が本気を出せば、扉を破るとか部屋を迂回して掘り進めるといった方法でイクリプス王国中枢部に侵攻することも可能だろう。だがそうしないのは、表立って進行すれば国内の騎士団と帝国騎士団が一斉に襲ってくるとわかっているからだ。だからこそ、ルナリア王国は先に帝国から落とすと決めた。
もしかしたら、すでに帝国制圧後のことまで考えて地下通路を作り上げているかもしれない。だが、俺にとってはもうそんなことはどうでもよかった。
「くっくっく……これで俺の手を汚すことなくポーラニア帝国に復讐できる」
俺が立てた計画。それは、王国と国境を接するもうひとつの国であるルナリア王国の力を借りてポーラニア帝国を侵略するというものだった。成功すればステラリアの婚約者であるレイジを処刑し、帝国から解放するという名目でイクリプス王国に連れ戻す。そして、改めて俺がステラリアの婚約者となり、結婚すればいい。
考えたくはないが、もし失敗してステラリアが手に入らないことが確定してしまったら……その時は生きる意味を失った自分が計画を明かし、責任を取って自害すればいい。ステラリアと共に歩めない人生になんて、意味がないのだから。
「待っていてくれよ、ステラリア」
足元は薄暗くとも、ためらうことなく進み続ける。なぜなら、俺はもうなにも恐れていないから。
ランプの灯に揺らめいたその瞳は、狂気に満ちていた。
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