テイマーズライフ ~ダンジョン制覇が目的ではなく、ペットを育てるためだけに潜ってしまうテイマーさんの、苦しくも楽しい異世界生活~

はらくろ

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第四章 ダンジョンへいってみよー

第2話 スパーリングパートナーを求めて

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 そこは天井が二メートルと少しあるくらいに低くなっており、壁の具合もごつごつとした、以前『蛇肉』の元になる大量の蛇をシルダが殲滅したあの洞窟に似ていた。

 あのときと違うのは、肌に感じる緊張感と、あちこちに感じる人の気配。育江はデリックが言っていた言葉が気になったのか、『範囲鑑定』を使ってみることにした。

 まずは目の前にあるシステムメニューの端、『簡易マップ』と書かれたボタンを押す。すると、目の前には、中央に小さな十字があるだけで、あとは何も書かれていないウィンドウが出てくるではないか?

(あ、もしかしてこれって、……『範囲鑑定』)

 育江が予想していた使い方が、一部はピタリとはまった。無数にある赤い点と三つある青い点が見える。

 おそらくは赤い点が魔物、青い点が探索者だと思っていた。中央の十字は育江たちが居る場所で間違いないはずだ。なぜなら、青い点が右下に二つと、すぐ左に一つ存在していた。この二人は、デリックとシンディナで間違いないはず。

(これ、もう一つって? ……あ)

「シルダ、あんた?」
「ぐぎゃ?」

 育江は左を見た。なるほど、もう一つの青い点はおそらくシルダで合っているのだろう。

(この無数にある赤いのって、魔物とあのこと?)

 デリックが言っていた『他の探索者が、何を考えているかがわからないから』という存在のこと。もしかしたら、魔物と味方として確定していない探索者が混ざって表示されている可能性があるわけだ。
 その上、若干使い勝手が悪く感じるのは、点が動いていないということ。リアルタイムで追跡しているわけではないから、ある程度の位置関係しか探ることができないのだろう。

「なんともまぁ、『鑑定』も万能じゃないってことね。あ、そういえば。罠とかって、どうなってるのかな?」

(それじゃ、前に向けて『鑑定』)

 すると、『壁』、『壁』、『天井』、『床』。そう返ってくる。おそらく、視認できる範囲には罠がないということなのだろうか?

「自分のスキルが信じられなくなったら終わりだし、最悪の場合、シルダだけなんとかしたら、あたしはどうにでもなるから。もし何かあったらシルダ、引っ張って逃げてね?」

 灰狼の経験があったからこそ、このような考えに至れる育江。

「ぐあ?」

 シルダには意味がわかっていないようだった。

「今日は様子見だし、何か出てきたら出てきたで、シルダがいるし」
「ぐぎゃっ」

 そうは言っても、準備は必要だろう。インベントリからジョッキを取りだし、そこに濃厚とまじゅーを入れて『ごっきゅごっきゅ』と喉を鳴らして飲み干す。治癒魔法がレベル五に戻って、再び使えるようになった魔力回復補助呪文『パルズマナ』、これにとまじゅー効果で準備完了。

 実のところ、『鑑定』や『範囲鑑定』は呪文行使扱いで魔力を消費する。少し歩いて視認できる範囲を『鑑定』し、ついでに『範囲鑑定』をかけておく。徐々に近くなっていく、赤く光る点。
 それでも育江は町中を行くように、シルダと手をつないで散歩気分で歩いていた。

 少しばかり歩いたあと、十字路のような場所に出たときに、シルダが『ぐぎゃっ』っと声を上げる。『範囲鑑定』をかけ直すと、十字路の右から赤い点が近づいているように見えた。

「えらいね、シルダ。ありがとう」
「ぐあっ」

 そこに姿を現したのは、林でよく見た灰狼にそっくりだが、色味が更に黒い魔物のようだ。すかさず『鑑定』すると、個体名称は『黒狼ブラックウルフ』。レベルはそんなに高くない十だった。だが、灰狼よりも大きく、動きが鈍いように思えた。

「ぐぎゃっ」

 シルダは黒狼に走り寄ると、拳をつくって一発殴った。

「ぐあ?」
「あれ?」

 レベルの高い灰狼なら、一発で倒してるところだったのだが、こいつは平然としていた。もしかしたら、外にいる魔物とダンジョン産と呼ばれる魔物では、防御力が違うのだろうか?

「シルダ、遠慮しなくていいよ。どうせ、経験値入らないし……」
「ぐあっ」

 獲物が噛みついてくるが、シルダは軽々と避けて左拳で叩く。また避けて、そのあと垂直に跳び上がると、身体を反転さえて『飛び回ししっぽ打ち』。多少動きは鈍くなったように思えるが、まだ倒れる感じはない。

「硬いねー」
「ぐあっ」

 もう少しで倒せそうだ、そう思ったときだった。

「いけっ」
「はいよっ」

 そんな声が聞こえたかと思うと、育江は嫌な予感がするのを覚えた。

「シルダ、こっち」

 手を伸ばしてシルダの右手を引っ張る。そのまま彼女を引き寄せて、抱き留めた瞬間。目の前の黒狼に槍のようなものが刺さるのが見えると同時に、獲物は灰になって霧散し、何かが転げ落ちた。

「よし、なんだかあっさり倒せたな」
「手負いだった『はず』だぞ?」
「そうかもな。お、魔石じゃないか。とにかくもうけ」

 育江はシルダの口を手で押さえて、壁際に隠れるように息を潜める。シルダも何かを察したのか、大人しくしてくれた。

 そのまま声の主たちは、育江たちが本来行こうとしていた進行方向へ歩いていく。背中を見る限り、男性の探索者二人組のようだった。

 育江は『関わりたくない』と思ったのだろう。なんとかやりすごすと、シルダの口元を押さえていた手を外し、足下に立たせる。

「ぐあ?」

 シルダは『何かあったの?』のように、首を傾げる。

「なんでもないわ。運が悪かったのよきっと」

 育江は、今のたった一回の戦闘で、ダンジョンと外の討伐の違いがわかってしまった。

(まず、おそらくだけど第一層に罠はないかも。それと、魔物を倒すと、その場で灰になる。そのあと、アイテムドロップする可能性がある。そこで何より、話にだけ聞いていた『横殴り』が発生。これが一番厄介だわ……)

 育江は内心色々思った。育江の言うところの『横殴り』というのは、ダンジョンの場合、通路がここのように狭い場合、魔物しか見えない状況がある。そんなとき、魔物に対処している反対側の『人』が見えない場合がある。

 誰かが対処している魔物がもう少しで倒せたとしても、PWOのようなゲームと違って『誰が倒したか』のような優先権が主張できない。誰が一番ダメージを与えていたかなんて『鑑定』をしながらやらない限り、『わかるきっかけもない』という厄介さ。

 なにより、『誰かが狩ろうとしていたなんて知らなかった』と言われてしまえば、強く主張した方の勝ちになる場合もありうる。

 そういう厄介さがあるのが『横殴り』であり、卑劣とも言えるグレーな行為なのだ。

 ここは、システムメニューがあるとわかっている育江と違い、それがないと思っている可能性がある人にとって、常識という認識のずれが発生する場合がある。
 カナリアに確認する必要性が出てきたと同時に、一番の危険性が出てきた。

(シルダが、魔物と勘違いされて攻撃される可能性……)

「駄目だわ。引き返そう、シルダ」
「ぐあ?」
「あたし、あんたを守れない。ここじゃ駄目だわ……」

 育江は踵を返すと、シルダの右手を握って、引いて歩く。いつもの真逆の状態になる。

「ぐあ? ぐあ?」

 育江に対して『どうしたの? 何かあったの?』と、心配するシルダ。

「そうよ、『何か』があったの。あたしじゃ、どうすることもできないから、とりあえず帰るの。ごめんね、シルダ……」

 育江の進んできた道のりはどうってことない距離だった。すぐにデリックとシンディナのいる場所へ戻ってきた。

「イクエちゃん」

 育江が何か、思い詰めたような表情をしているから、思わず声を掛けたシンディナ。

「イクエさん。俺が懸念したことが、そのまま起きてしまったわけだね?」
「……はい、その通りだと思います」
「デリック、もしかしたら」
「あぁ、もしかする」
「駄目でした。全ての探索者が、敵になり得ますよ、これ……。今のところ、あたしにはどうすることもできません。とりあえず帰ります。ご心配おかけしました」

 デリックも、シンディナも、育江にかける声がみつからない。

 一つ目の門を通り、二つ目の門が見えてくる。そこに、心配そうな表情をするベルギルの姿が。

「イクエさん。何かあったんだね?」
「はい。ごめんなさい。今日のところは帰ります。ご心配おかけしました」
「あぁ、ゆっくり休むといいよ。またおいで」
「はい。ありがとうございます」
「ぐあぁ……」

 寂しそうな、辛そうな育江の背中を見送ることしかできないベルギル。

 育江はそのまま通路を抜け、ギルドへの階段を登っていく。自動ドアが開いた瞬間、悲壮感漂う、育江の表情を見てしまったカナリア。

「ちょっとごめんなさい。悪いけど、代わりにお願い」

 受付のカウンターを飛び越え、育江に駆け寄るカナリア。そのまま倒れてしまいそうな、育江を抱きしめ。何も言わずに、医務室へ連れて行く。

「イクエちゃん」
「カナリアさぁん……」

 カナリアの胸に飛び込んで、泣きじゃくる育江。

「ぐあ……」

 心配そうに見守るシルダと、ただ、抱きしめてあげることしかできないカナリア。

 ややあって、育江が落ち着く。彼女がゆっくりと口にする、その物騒な言葉。

「カナリアさん、あたし、あたし」
「わかってる、ほら、無理しないでぶちまけてしまいなさい」
「あたし、他の探索者を、……シルダを害そうとする探索者を、殺してしまうか……」
「やっぱり、そうなっちゃったのね」
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