劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ

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第二十一話 ヴェンダドール王国。

 旅の目的地ヴェンダドール王国は、港から更に馬車で二日の距離にある。海沿いを走っているわけではなく、比較的高地へ向かっている。

 これまで海の近くで育ってきたから、内陸地に行くのも生まれて初めて。森の木々の香りが開けた窓から感じられる。知識では持っていたが、初めての匂いに感動するアーシェリヲン。

「いい匂い」
「そうね。胸がすっとするわ」
「レイラお姉ちゃんも初めてなの?」
「そうよ。わたしはずっと王都だったんだもの」
「俺は何度も来てるぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ。物資の輸送と護衛が俺の仕事だからね」

 神官というのは、神殿の中だけで働くわけではない。アーシェリヲンは勉強になるなと思っただろう。

 今日で四日目。アーシェリヲンにとって初めての長旅だ。ユカリコ教の客車は変わった機構を持ち合わせているようで、あまり揺れない。それでも彼には疲れが溜まっている。だから少し辛そうな表情になっていたのだろう。

 レイラリースはアーシェリヲンの隣に座り直した。何をするんだろうとぽかんと見ていたところ、彼女はぽんぽんと自分の太ももを叩く。

「アーシェくん。ここに頭を乗せていいわよ。少し横になりなさい」
「いいんですか?」
「わたしはお姉ちゃんなのよ? 弟に優しくするのは当たり前でしょう?」

 アーシェリヲンの姉、テレジアは素直になれない性格、いわゆるツンデレだった。だから彼は姉にこのようなことをしてもらった記憶がない。だから少々戸惑っているのかもしれない。

「……ほんとうにいいんですか?」
「ほら、遠慮しないの」

 無理矢理アーシェリヲンを抱き寄せるようにして寝かせる。すると御者席からエルフォードのぼやきが聞こえてくる。

「あ、いいなぁ……」
「してあげましょうか?」
「い、いいのか?」
「もちろん有料ですよ」
「お金取るのかい」
「あははは」

 エルフォードとレイラリースのやりとりがおかしくてつい、声に出して笑ってしまった。

 ▼

 気持ちよさそうに眠るアーシェリヲンを、優しくするレイラリース。

「アーシェくん、起きて。ほら、見えてきたわ」

 アーシェリヲンはパチッと目を覚まして飛び起きる。

「ほんと? レイラお姉ちゃん、どこどこ?」

 アーシェリヲンは窓に張り付いて外を見回す。左に湾曲している街道。両側は林だから海沿いと違って景色の変化がわかりにくい。

「ほら、あそこ。小さく見えるでしょう?」

 レイラリースが指さす場所。徐々に大きく見えてくる、町というより壁のようなもの。近づくにつれてそれは防護壁だとわかってくる。城壁のような壁が国を取り囲むように建てられているようだ。

「うわぁ」

 文字で読んで想像するのとは違う。目で見て驚いて理解するほうが何倍もリアルだ。

 街道沿いにある宿場町は、拠点から拠点まで馬車で移動するものだ。どこへ行くにも夜になる前に到着できる場所にあるのはおそらく、危険を避けるだめに考えられているのだろう。
 ここにある防護壁は、獣やなんらかの外敵が国へ侵入することを防ぐためのものと考えられる。馬車が明るいうちに到着したのも理由があるのだろう。アーシェリヲンはなるほどと思ったはずだ。

 壁を前にして馬車が停車する。エルフォードが歩いて行く場所には正門があり、そこに彼よりも身体の大きな男性が二人立っている。この門を守っている者なのだろう。

「ユカリコ教の方ですね? 何か証明するものをお持ちですか?」

 エルフォードは胸元から細い革紐で繋がったものをかざしてみせる。

「これでいいですか?」
「はい。間違いありませんね。道中お疲れ様です。どうぞお入りください」

 審査もなく通される。それだけユカリコ教は信頼されているのだろう。

 ゆっくりと観音開きに門が開く。エルフォードは御者席に戻ると馬車をゆっくりと走らせる。

 門をくぐるとそこは別世界。人が歩くところと馬車が通るところが分けられている。グランダーグはそれだけ、馬車の往来が多いのだろう。

 防壁の門から離れると、人の姿が多くなっていく。寒くなってきているのに、歩いている人が多い。

 十数分、馬車が進んだかと思うと、見覚えのある建物が見えてくる。それはグランダーグの王都にもあったところ。沢山のお客さんが列をなして順番を待つ姿。そう、それは『れすとらん』だった。

 馬車は『れすとらん』のある区画の裏に回る。そこには先ほどのものではないが、馬車が通れるくらいの門。中に入ると裏庭のような場所。そこで馬車が停まる。

「さぁ着いたわ。降りましょう」
「はいっ」

 馬車を降りると、もう、エルフォードは荷下ろしをしている。

「アーシェくん」
「はい、エルフォードさん」
「俺はね、今回も荷物の輸送と君たちの護衛が任務なんだ。だから荷の入れ替えが終わったらまたすぐに発たなきゃならない」
「そうなんですね。ありがとうございました。道中お元気で」
「アーシェくんも頑張るんだぞ」
「はいっ」

 アーシェリヲンとエルフォードは握手を交わす。レイラリースは彼に何やら手紙のようなものを渡した。

「レイラお姉ちゃん、今のは?」
「アーシェくんが無事着いたという知らせよ。グランダーグの神殿に届けてもらうの」
「そうなんですね。あ、僕も。ちょっと待ってください、エルフォードさん」
「大丈夫、慌てなくていいから」

 エルフォードは笑っていた。アーシェリヲンは慌てて鞄からメモのとれる紙とペンをと取り出す。『無事着いた、心配しないでほしい』という内容の文を書いて折りたたむ。

「アーシェくん。これに入れるといいわ」

 レイラリースは封筒のような紙袋を手渡す。

「ありがとうございます。えっとこうして、うん。エルフォードさん、お願いします」
「はいよ。確かに預かった。間違いなく神殿に届けておくよ」
「はい。ありがとうございます」

 アーシェリヲンから受け取った文を鞄にしまうと、荷卸しを再開するエルフォード。じゃましてはいけないと、レイラリースが促す。

「さぁ、いきましょうか」
「うんっ」

 神殿に入ったところで正面に巫女が立っていた。一つ会釈をして笑顔で迎えてくれる。

「アーシェくん」
「はい?」
「わたしね、今日からここで働くことになってるの。準備があるからわたしはこっち」

 巫女が立っているところは左右に分かれる丁字路ていじろになっている。レイラリースは左側を指さしていた。

「アーシェくんは彼女と一緒にあっちね」

 同じようにレイラリースは右側を指さす。

「それじゃまた会いましょう。さて忙しい、忙しいっと」

 振り返らずに早歩きで行ってしまう。アーシェリヲンは挨拶をすることができずにしばしの間呆然としてしまった。

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