劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ

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第七十五話 このまま順調にいけば。

「ビル」
「はい、姉さん」
「一日も早く、ヴェンダドールに戻るようにしなさい。いいかしら?」
「俺は別に、いつでも戻れますがね。そうだよな? ヘイルウッド」

 口調からして、ヘイルウッドはビルフォードの弟弟子にあたるのだろう。おそらく年齢的に、ガルドランが生まれる前のようで、だからヘイルウッドことは彼は知らないかもしれない。

「奥様が確かあちらの生まれでしたよね?」
「うちの家内は関係ないだろう?」
「こちらに来て十年。ご一緒されてからすぐにこちらの筆頭になったではありませんか?」
「ま、まぁそうなんだがな」

 確かビルフォードの奥さんはガルドランの五歳ほど年上。若いといえば若いのだろう。ということは奥さんが十八か、十九のときに、こちらへ連れてきたということになるわけだ。

「それでも、現役で銀の序列ですから、退屈ではなかったらしいですけどね。今回の調査は留守番になったみたいですが」
「元々駄目に決まってただろう? 最悪、り合うことになる恐れもあったんだからな。それにあれはほら、家内は討伐依頼は一切受けてないんだ。戦闘は不慣れだから結局連れて行けないんだよ」
「受付業務をしながら、採取までこなしていた優秀な探索者でもあるんですよ」
「そうなんですね。凄いです」
「えぇ。師匠のから手ほどきを受けて、十年の間採取だけで銀の序列に上がったんです」
「それで銀に、確かに凄いなー」
「そ、そうか。アーシェリヲン君が褒めてたって伝えてやるかな」
「同じ建物に今もいるんですから、すぐに伝えてあげたらいいのにと思いますけど」
「いいんだよ。家に帰ってからでもな」

 ビルフォードへ、遠慮なしにツッコミを入れているヘイルウッド。やはり彼はガルドランからみても兄弟子なんだなと、改めて感心する。

「ビル、家に戻ったら彼女と旅支度をしておきなさいね」
「はい、姉さん」
「ヘイルウッドも、引き継ぎを早めに終えること。いいわね?」
「はい、わかっています。師匠」

 メリルージュはガルドランをじっと見て、ニヤリと口角を上げた。

「そういえばアーシェ君も聞いてるんでしょ? イレイナアリーアちゃんのこと」
「はい」
「ちょっとアーシェの坊主。あれは秘密だって」
「いいでしょう別に。ガルはアーシェ君の護衛騎士でお兄さんなんでしょう?」
「はい、そうですね」
「いやその、それはまだ照れるんだって……」
「ガルにお嫁さんができたら、新しいお姉さんもできるのよ? 優しくて綺麗な子なの。あたしも一度だけ会ったことがあるわ」
「え? 師匠、いつの間に」
「弟子のためだもの。調査くらいはするわ。帰りにちょっとだけ寄るつもりだから」
「はい、早く会いたいです」
「ちょっと俺まだ、こ、心の準備がっ……」

 ▼

 エリクアラード王国、第三位のオズエルド伯爵家の長子であるラーズリエル。彼は誘拐犯組織の主犯格として取り調べを受けた。

 あの場所にいた理由として、攫われて仕方なく、という言い訳は通らない。なぜなら、捕縛されたときにオズエルド伯爵家の食堂にいたからである。攫われていたのなら、そこにいられるはずがない。

 もし違う理由があったとしたらそれは、オズエルド伯爵家が犯罪組織と秘密裏に取引をしたか、誰かが内通していた。そう考えるのが妥当であるから。

 この世界にも、いわゆる司法取引に似たものがある。ラーズリエルが全て正直に供述する代わりに、罪が確定してもオズエルド伯爵家に罪はない。連座として扱わない。そういう約束が交わされていた。

 だからラーズリエルは素直に取り調べに応じたのだろう。そうでなければ、黙秘するはずだ。だが、証拠として彼の左手の親指が提示されてしまっては逃げ場はない。

 彼があの場に、無事帰ってしまってさえいなければ、このようなことにはならなかったはずだ。だが、あのとき失った指が、まさか探査魔法の触媒として使われるとは思っていなかったはずだ。だから油断して、あの場に居合わせてしまったとも考えられる。

 探索者協会へ取り調べの報告が、第一報として入ってきたそうだ。もちろん全ての探索者へはまだ教えるわけにはいかない情報であるため、朝早くからヘイルウッドの私室にて話されることになった。

「それで? どんな面白い話が出てきたのかしら?」

 ヘイルウッド、ビルフォード、ガルドラン、アーシェリヲン。彼らの師匠であるメリルージュがヘイルウッドに問う。ヘイルウッドは報告書にある内容を読み上げる。するとこう記載されていた。

 ラーズリエルの自白により、共犯者の名前が出てきた。それは人規模的にも資金的にも、売り上げ的に、近年、この国でも一番伸びてきていた商会。その商会長もすでに捕らえられている。

 裏で奴隷商を営んでいて、ラーズリエルが後ろ盾をしていたとのことだ。そのほか、オズエルド家の寄子となっている子爵の次男や男爵の三男なども捕縛された。跡継ぎとなれないその二人は、ラーズリエルが手下として使っていた。やたらと羽振りのよい二人の姿が、歓楽街で目撃されることもあったとのこと。

 ラーズリエルは商会とだけ直接の関わりを持っていたが、誘拐犯となった実行役の盗賊たちと直接の関わりは少なかった。基本的に誘拐犯を率いていたのは手下の二人。その二人にラーズリエルが、直接指示を出していたらしい。

 なぜラーズリエルがあのときあの場にいたのか? それは、あの宿場町の地下に奴隷商の拠点の一つがあったことと、ここ数年で一番の利益を生むとされた、アーシェリヲンとリルメイヤーに逃げられたことがあげられる。

 二人をこの大陸へ輸送する際にかかった薬などはけっして安くないものだった。それらの赤字をどうやって回収するか、二人に任せておいたら余計な金が出てしまう。だから直接指示を出すために、偶然あの場にいたということらしい。

 あの指輪は魔道具だった。一般的に出回っているものではなく、それこそ非売品に近いものだった。かなりの金銭を積んで手に入れたからか、あの魔道具に精通しており、あの魔道具があったからこそ、あの場にいられたというのもあるのだろう。

「我々はアーシェリヲン君に手が及ばなくなるのであれば、ラーズリエルがどうなろうと知ったことではないんです」
「それはそうね。あたしも別に、どうでもいいことだと思ってるわ。この国がどうなろうと興味はないもの」
「師匠は相変わらずですね。あとは、ヴェルミナ様がどうされるか、ですね。私はこれから、ヴェルミナ様にお伺いをたててきますね」

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