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第一章
第十三話 水槽設置完了
しおりを挟む「完成っ、やったー」
タコのいた海から、海水をあらかじめ汲んでおいたのは正解だった。おかげでそのまま準備が完了していた。海水魚専用のフィルターなども設置してあり、ちょっとした水族館になっている。ただ、ぱっと見は『何もいない水槽』に見えていたのだった。
そのとき、隣の部屋から千鶴が入ってくる。一八を背後から抱きしめて、後ろから頬ずりしたり、匂いを嗅いだりやりたい放題。そこは慣れたもので、一八もスルーしていた。
「あら? やーくん。お魚はどうしたの?」
予想したとおりのリアクションに、一八はくすっと笑いがこみ上げてくる。
「あのねお姉ちゃん、ちょっと見てて」
いつものようにするりと、千鶴の腕から抜け出ると、一八は水槽の近くに立ち優しく水槽の上部分を叩いてみせた。すると、タコは二匹とも姿を現す。
黒いタコと白いタコが姿を現して、千鶴は呆然としていた。ややあって、
「……え? え? た、蛸、だったの?」
千鶴が覗き込もうとして近寄ると、タコは消えてしまう。
「あれ? どうなってるの? 消えちゃった、……やーくん」
少し離れると、またタコの姿が現れる。千鶴は怖くなったのか後ずさり、一八の腕にしがみついてしまう。彼女の表情でわかるが、わざとらしいリアクションではなく、本当に驚いているようだ。
「可愛いでしょ?」
「……やーくんの好みだからあれだけどね、お姉ちゃん、気持ち悪いのはちょっと……」
「お姉ちゃん、メンダコとか可愛いって言ってなかった?」
「あれはあれ、これはこれ、なのよ……」
そう言いながら、千鶴は戦略的撤退のように自分の部屋へ戻っていった。
ちなみに日登美は、千鶴からタコだと聞いていたから、あえて見に来ることはなかった。一八が気を悪くしてしまわないようにとの、気遣いだったのか? それとも単にタコが苦手だったのかはわからない。
晩ごはんまで暇になり、タコの餌はなにがいいのかネットで検索すると、何を捕食しているかはあっても、エサとしてはあまり出てこない。
(そういえば、ペットショップのエサコーナーにもなかったような?)
甲殻類がいいとあったので、色々考えた結果、近くのスーパーで買い物をしてきた。
「一八くん、それはどうするんだい?」
キッチンで揚げ物をしていた隆二が一八に問う。
「これ、買ってきたんだ」
一八がマイバッグの中を見せると、隆二は納得した。
「なるほどね。これなら腐ることもないだろうし。……とりあえずそうだな。必要な分だけ解凍して、あとは一階にある冷凍ストッカーに入れておくといいよ」
隆二の言うストッカーとは、冷凍庫だけの機能を持つ比較的大きなもの。よくスーパーなどでブロックアイスを入れているところもある、ドアが上に開くタイプのものである。
「えっと、ちょっと横使ってもいい?」
「あぁ、構わないよ」
キッチンの隅から、一八専用に用意されている踏み台を持ってくる。シンクの前に置いて踏み台の上に立つと、シンクの上にはもう、どんぶりが用意されていた。
「お父さんありがと、それ、いい匂いだね」
「釣り立てのミジュンをフライにしたからね。明日のランチもミジュンのフライにするつもりなんだよ」
喫茶室『碧』のランチメニューはミジュンのフライだそうだ。実に美味しそうである。
一八がマイバッグから出したのは、ビニールパッケージにも記載のあるように、一キロほどありそうな冷凍のむき海老。それを小さなどんぶりに少量入れると、残りを一階へ持って行き、すぐにこちらへ戻ってくる。
どんぶりを電子レンジに入れて解凍のボタンを押す。チン、と音が鳴って解凍は完了。
「ちょっと待って一八くん」
「どうしたの?」
「それはさ、生食用じゃないんだ。だからね少し湯がいたほうがいいんだけど、あ、電子レンジでもいいか。んっと、本来なら水とお酒と塩なんだけど、塩はいいとしてお酒は入れないから、……水と塩と出し昆布。これでいいだろう」
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