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279話 説得 5
しおりを挟む「そうじゃなくて、直接会って話がしたいんです。お願いします...! 」
桂本さんから話して貰っても、本当に伝えたいことは、伝えられないから。もし、父さんが俺のことを、少しでも家族と認めてくれているのなら、ちゃんと気持ちを話せば分かってくれるはずだ。
それに俺も、父さんが考えていることを、ちゃんと知りたい。それで、見えてくるものがあるかもしれないから。何も知らないままじゃ、説得できないと思うから。
だから、直接話さなければ、意味がない。
「はぁっ...。どうせ転校のことが納得できないからと文句でも言いに行くつもりなのでしょう? 」
「そ、それは......そうですけど...。」
「全くあなたは...無駄なことばかり考えて...。茂さんはご多忙な方です。こんな急に話したいとおっしゃられても都合が合いません。第一、透さんの我が儘には耳を貸すなと言われておりますので。」
「っ...! 」
やっぱり一筋縄ではいかない桂本さんに、俺は肩を落とした。
我が儘には耳を貸すな、か...。
父さんにそう言われているのなら、多分余程のことがない限り、桂本さんはその通りにするのだろう。
そう、余程のことがない限りは。
考えはある。けれど一瞬、あまりの恐怖に躊躇った。でも、方法があるのに試さないなんて選択肢は、俺にはない。
服の下の星をぎゅっと握って、俺は真っ直ぐ前を見た。
「だったら...だったら俺は、父さんと話をさせて貰えるまで、一切勉強しません。」
「っ... 」
桂本さんは、驚いたように僅かに目を見開くと、すぐに鋭い視線で俺を射抜いた。
「透さん、あなた何を言っているのか分かっているのですか? 私がそれを許すとお思いで? 」
冷たく、低い声。
怖くて、寒くもないのに体が小刻みに震える。
分かってる。
きっと、拷問のような体罰で、桂本さんは俺に勉強をさせようとするだろう。
俺の選択は、かなりの苦痛を伴うし、逃げる為の体力も持っていかれてしまう。でも、もともとここから逃げ出すなんて不可能に近いし、説得するにはこれしかない。
やむを得ない事情を作って、強引にでも話をさせて貰うしかないんだ。
「...わかってます。何をされても...父さんに会わせてくれるまで、絶対勉強しませんからっ...! 」
幸い、諦めの悪さだけは南原さんのお墨付きだ。自信はある。
でも、ボロボロの体で帰ったら、南原さんは怒るかなぁ...。
覚悟を決めた俺は、襲い来る恐怖の中で、そんな事を考えていた。
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