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285話 説得 11
しおりを挟む「っ...! それができないからあなたなんですよ! できることなら私がっ...! 」
「はぁ、はぁ...か...桂本、さん...? 」
珍しく冷静さを欠いているような桂本さんが怖くて、恐る恐る呼んでみる。
「はぁっ...。本当に腹が立つ。」
桂本さんは、自分を落ち着けるようにため息をひとつ吐くと、俺のシャツを背中側から捲ってきた。
「ひゃっ!? な、な、何ですか...? 」
背中が外気に晒されて、スースーする。
「力の調節がぶれてしまったので、確認を。ああ、大丈夫そうですね。」
なんだ、びっくりした...。
何をされるのかとヒヤヒヤしたが、すぐにシャツは戻されて、ほっとする。
「あの...今の...。」
「いえ、なんでもありません。それより、さっさと勉強する気になって下さい。」
フルフルと左右に首を振り、拒否の意を伝える。
「なんでもないわけないじゃないですか。今の、詳しく教え...ひっっーー! うぐっ...」
また一発、俺の言葉を遮るように、背中に鞭が叩き込まれた。
背中がひりひりと焼けるように痛む。
何度も同じ場所を重ねて叩かれていると、ダメージが蓄積されてきて、耐えるのがどんどん辛くなってくる。
それにしても...さっきの、なんだったんだろう。
『っ...! それができないからあなたなんですよ! できることなら私がっ...! 』
俺以外の人じゃ旅館坂北屋を継げない?
できるなら、桂本さんが...?
よく分からないけど、尚更父さんと話をしなくちゃいけない気がする。
できれば、桂本さんとも。
俺は、諦めてしまわないよう気持ちを強く保ちながら、歯を食いしばって必死に恐怖と苦痛に耐え続けた。
「っ...ひっく...うっ...南原さんっ...! 」
「泣くくらいならさっさと降伏すればいいでしょう。本当にあなたは面倒ですね。」
「やだっ...! やだっ...! 」
今まで何回打たれただろうか。
繰り返し鞭を振るわれた俺の背中は、余すところなく赤く染まり、所々血が滲んできているらしい。
あとどれだけ耐えればいいんだろう。
暗闇の中で与えられる終わりの見えない苦痛に勝手に涙が溢れ、目隠しの布に滲む。
疲弊しきった体では、立っているのもやっとの状態で、時折ふらついては拘束された両手に体重がズシッとかかってしまい、手首も痛んだ。
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