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322話 脱走 24
しおりを挟む「だけ、とおっしゃいますけどね。全てを投げ出し、その責任から逃れるなど、坂北屋の次期当主として、あってはならないことです。西村家のご子息であられるあなたなら、分かるのではないですか? 」
...そうだ。
元不良高校の亜奈月になぜか通ってはいるけれど、西村さんも名家の御曹司。
普段は、南原さんの次くらいに気まぐれのやりたい放題な振る舞いで過ごしている西村さんだけど、俺みたいに家のしがらみのようなものはあったりするのだろうか。
「...さぁね。ウチはその辺、緩いから。」
気になって聞き耳を立てていたが、スーツケースの外から聞こえた声は、意外とあっさりしたものだった。
西村さんの家の人は、あんまり干渉しない人達なのかな。
...いいな...。
ちょっと...いや、正直かなり羨ましい。
羨ましがったって俺の状況はなにも変わらないし、西村さんには西村さんなりの苦労があったかもしれないのに、こんな風に思ってしまうなんて、そんな自分が嫌だ。
それに、違うのはきっと家の環境だけじゃない。西村さんには、自分のやりたいことをやれるだけの力がある。桂本さんに対峙してもこうして堂々とやりあえたり、あの南原さんと生徒会を運営してるあたり、この人もかなりデキるのだろう。
対して俺は、そんな力はない。
俺じゃ、桂本さんと戦うどころか、怯えて何もできなくなってしまうのに。
西村さんだったら、例え坂北家に生まれていたとしても、自由に生きていたのではないだろうか。
そう考えると、こんな状況になったのは、俺自身の弱さも原因の一つなのかもしれない。
南原さんは俺を強いと言ってくれたけど、俺はまだその意味が分からないよ...。
色んな気持ちがぐるぐると頭の中を巡って、ただでさえ空気の薄い密閉空間の中が、更に息苦しくなってきた。
駄目だ、今は落ち込んでる場合じゃないのに...。
「坂北透くん、早く見つかるといいですね。そろそろ行ってもいいですか? 」
っ...!
酸欠気味なせいもあって、少しぼーっと考え込んでしまっていた俺は、西村さんの声にはっとする。
スーツケースに詰め込まれた俺のことを気遣ってか、西村さんはどうやら早々にここを出ようとしてくれているらしい。
普通ならここで客を引き留めるなんてことはしないはずだ。俺は、これでもう外に出られるかもしれないと期待したのだけれど...。
「お待ち下さい。実は、誘拐の可能性も視野に入れて探そうと考えているんですよ。」
桂本さんは更なる手を打ってきた。
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