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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第3話:黄金のドラゴンはオトモダチ
しおりを挟む地底湖からジメジメとした岩肌に上陸し、さらに奥へ。
それからどれほど経過したのか定かではない。
僕は酷く無口になっていた。
もうね、心の中で喋ってる元気もなくなってきたの。よく考えたら独り言とかクソ虚しいし。何してるんだろうなって。
頭が身体の比率に比べて異常に大きく、不細工な僕がよろよろと歩く様は、いっそ死にかけのゾンビのようだ。は? うるさい死ね。
ひんやりと冷たい暗闇と雑な自虐ネタを切って進む。
呪いに関しては、そういえば人外の主人公もしくはヒロインが呪われてるって定番だよなぁ、と思い至ったため、けっこう簡単に割り切れた。
これはきっと『少女』と『僕』を結ぶ、重要なファクターなのさ。……多分。
それはそうと、最近気づいた事を一つ挙げたい。
僕の頭はフルフェイスの兜なんだけど、本題は目元に当たる部分のことだ。
縦に細長い長方形の隙間が横にずらっと並んで編み編みを作って、如何にも視界確保、呼吸確保用ですよ的なガシャコンッて、それはもう凄い勢いで開閉するヤツがあるの。
左右についた同軸で開くようになってるんだけどね、それっぽい正確な言葉を使うなら『面甲』のことさ。
それで、恥ずかしながら僕は一度そこらの結晶の隙間に生えてる草を毟って食べようとしたことがあるのだ。いやね、そういう貧乏趣味があるわけじゃなくて、ただひたすらに暇すぎて。
まぁ理由なんてどうでもいい。
とにかく、なんでお腹空かないんだろ~ってふわふわした調子で考えてた僕は、ふと目に入った毒々しい草をこんなにおいしそうな草が生えてるのに~的な悪ノリ感覚で口元に運んでみたら――ガチャコンッシュンッて!
……あれぇ、これじゃ何言ってるかわかんないな。頭沸いてきた?
つまりだね、面甲が度肝を抜くくらい高速で開いたと思ったら、次の瞬間には毒々しい草が手元から消えてたんだよ。
勿論だが、僕が高速で食べたわけじゃない。
草を食べた言い訳をしているわけじゃない。
でも草は消えたわけで、面甲は無駄に格好良くキメながら閉まるし、身体に異常はないしで。
まぁ、気になってステータス確認してみたんだよね。
そしたらなんと、新スキル『鎧の中は異次元』を獲得していたのでありますれば!
――――――――――――――――――――――――――
固有スキル――『鎧の中は異次元』
放浪の鎧種の鎧の中身がどうなっているか、君は知っているかい?
誰もが知らぬ……というより興味を抱かぬその内部。答えはまさしく――未知なる異次元なあのである!
専門学者もお手上げの構造は不可思議極まりないが、その実用性は非情に高く、なんと物体の規模と質量を度外視した収納能力も持つのだ! 異次元に収まる容量は存在の格に伴い変化するぞ! さあ詰め込め詰め込め~い!
――――――――――――――――――――――――――
へえ、便利だなぁ……っていうのが第一の感想。
第二の感想は、というより冷静に考えるまでもなくいやお前誰の語り口調だよ!?
あれ? スキル詳細ってこんなフレンドリーというか、博士が鼻高に語るようなノリで書かれるものだったっけ? 違和感というか、気持ち悪さが半端ないわ! 誰だよお前! キモッ!? 詰め込め詰め込め~じゃないわっ!
っていうのが、総体的な感想かな。
まぁ便利な能力には違いないので、それ以来僕は手の届く範囲で毒々しい草や魔結晶等を収納し続けている。その総量は尋常じゃなさそうだが、未だ吸い込めているため恐らく容量は大丈夫そう。
薬剤師や植物学者などではなかったのだろう、この草は何の草かわからないけれど、魔結晶は使い道が豊富な鉱石だ。集めていて損はないはず。あーだこーだと煩い理屈なんて二の次。大事なのは金金金カネかね。
歩みを止めることなく右手の壁からぶちっと遠慮無く草を引きちぎった僕は、再び口元に当てて異次元へと収納した。うん、便利。超便利。そぉれ、詰め込め詰め込め~い。
そしていつもの如くステップを刻むのさ。
さあさあ、今日も一日るんるんるん。
勝手に脚が動くよるんるんるん。
どこまでいってもぼっちだるんるんるん。
ガシャン、ガシャン、ガツゥォン――ッ!!
(んぎゃーッ! い、いったぁ……また何かにぶつかった!?)
せっかくぎこちない雑音もリズムに乗ってきたというのに、金属に硬質な物体が衝突したとき特有の高音と衝撃に、僕は勢いよく尻餅をついた。
高い音が洞窟内に反響する。衝撃と振動で鎧がビリビリと震えた。
(あーあーあぁー! 絶対欠けた! 今ね絶対お尻の鎧欠けたから! 穴開いちゃってるから! もぉももーう!)
最悪……と双眸の紫の光を点滅させながら、いたた……と前を見た瞬間。
「――其方、なぜこのような場所におるのじゃ?」
僕はこれでもかというくらいあんぐりと、大口を開けた。といっても面甲がガチャコンッて盛大に上にスライドされただけなんだけど。
とにかく心底驚愕した。
目玉があったら飛び出てる。あ、紫の光球が、目玉がほんとに飛び出てる。
というのも、だ。
僕の目の前には、それはそれは巨大な黄金色に輝く一匹の蜥蜴の顔があったのだから。
見間違えようがない。
それは数多なる魔物達の頂点に君臨する最強の存在。
種族等級は他の追随を許さないSS。
――ドラゴン。
その威容は全長何メートルあるのか目測では計り知れない。
地面に伏せた龍の頭の鼻先に、僕はちょんと当たったらしい。突風のような鼻息が鎧の隙間を抜け、か細い音が生じる。
恐怖は不思議となかった。
長い一人旅で感覚が麻痺していたのか、はたまた恐れが一周回って違う感情と化したのか。それとも僕の頭がくるくるぱーになっているのか? うんそれが一番確率が高いな。
当たったというか、いやあれは金属にぶつかった音でしょどんだけ鱗が堅いんだよなんて思う暇もなく、僕は超久しぶりに聞いた他人の『声』に刺激されて、ついつい衝動的に叫んでしまった。
(ふぇえええええオトモダチになってくださぁぁぁぁああああいっっ!?)
「――――――――へ?」
(僕のっ! オトモダチにっ! なってぇええええええっっ!?)
「え……あ、うむ。い、いいぞ? ……ふぁっ?」
(やっだぁああああああああああああああッ!?)
「な、ななななななななんじゃこやつ……っ!?」
色々問題はあるけれど。
――僕は黄金のドラゴンのオトモダチになった。
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