5 / 57
第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第4話:あれ、このドラゴン……
しおりを挟む「って、い、いかん……我ともあろう者が些か呑まれておった……其方は変なヤツじゃ、ではなくて、我の質問に答えよと言っておる。――放浪の鎧系譜の魔物がどうしてこんな場所におるのじゃ?」
僕の身体が自動的に鎧身を起こし、再びガシャンガシャンと歩みを進める。
唐突に出会いを果たした黄金のドラゴンは少しばかり生じた混乱を振り払うように頭を振ると、再度僕に鼻先を向けて問うてきた。その表情は真剣だ。
でも僕は正直、何も聞こえちゃいなかった。
正常な思考が回っていなかった。
血液ならぬ魔力が頭に巡っていなかった。
超久しぶりに見た生物。
人間じゃない? 最強の魔物? 気にするもんか!
無機物でないだけ嬉しい! 雑草に次ぐ有機物であることが喜ばしい!
纏めると命ってすばらしぃぃいい!
おおう、寂しかったよぉぉおおおっ!!
僕は今、感極まって絶賛号泣中である。
無駄にハイテンションで。
(おおおぉおおぉおううううう友よぉぉおおぉおおおぉッ!?)
「き、気持ち悪っ!? 身体を押しつけるでないわ! な、なんなんじゃ其方は! ここまで我の言葉に耳を傾けないヤツは初めて――や、あの男以来であろ!! ええい! 離れよ! 近寄るでないのじゃっ!」
もう一度言うが無駄にハイになった衝動のまま鼻先にひしりと抱きつく僕に、黄金のドラゴンが嫌悪感を全開にする。冷や汗を掻いているのか金の鱗が湿ってきたぞ。
違うんです違うんです。
なんか僕が急に友達申請して身体を押しつけてくる変態みたいな感じになってるけど。現にそういう汚らわしいものを見る目で見られてるわけだけど。
脚が勝手に進むんだからしょうがなくないですか?
ドラゴンさんが進路方向にいる限り、永遠にトライさせていただきます!
はい本当に申し訳ありません!
「しつこいぞっ!? 次近寄ったら容赦は――ひぃぃいぃいっ何度向かってくるんじゃぁあ! 『竜の息吹』ッ!?」
(ぐべぇぇええらぁああぁっ!?)
「――あ」
四度目のトライに、ついにドラゴンさんがキレたらしい。
視界に収まりきらない顎が開かれ、鋭利な牙と赤い口内を露見させる。次には喉の奥から迫り上がる金の息吹が吹き荒び、吹っ飛ばされた僕は玩具のようにゴロゴロと転がっていった。
金属がガチャガチャなる音は今にも砕け散ってしまいそうで心臓に悪い。
しかし存外にも外傷はなく、僕は自然むくりと起き上がる。咄嗟にスキル『硬化』を発動してなかったらやばかったかもしれない。ナイス判断僕!
「ちょ、ちょっとやりすぎちゃったのじゃ――ひぃっ!? どうして無事なのじゃぁああああぁあっ!?」
それを見た黄金のドラゴンが再び悲鳴を漏らした。
魔物の頂点、世界の覇者、様々な異名を冠する最強生物のドラゴンだというのに、実に表情豊かな個体だ。三十センチ程しかない相手に腰が引けているその姿はどこか女々しいまである。
――はっ、もしや雌だろか?
というより、さっきの息吹に殺意は感じられなかった。
いや正直死ぬかと思ったけども。
洞窟内の結晶が粉々に成って吹き飛ぶくらいの威力はあったのだけども。
僕自身ゴミのように小さいのが功を奏したのだろうか。誰がゴミや。
幸運値に甚大な下方補正がかかっている僕にしては、残っていた雀の涙ほどの運を使い果たしてしまった感が否めない。つまり次は死ぬ。
ねぇお願い。止まって? 僕の足。
って、まぁ動くんだから仕方ないよな!
ドラゴンさんもキレたというか、よくわからない生物に恐れをなしたのだろう。
僕も自分のことがよくわからない! ふはははもういいやけくそだっ! ひゃははドラゴンともあろう者が情けないなぁ!!
「そ、其方はっ、どんな肝っ玉をしておるのじゃ……っ」
絶え間なく脚をガシャンガシャンと動かし続け接触を図ろうとする僕を、右腕の巨大な爪先で押しとどめ、再び戦いたような表情をするドラゴンに、僕は内心朗らかに笑いかけた。
(やぁこんにちは、お嬢さん。僕は放浪の鎧。名前はまだない。別にこれは美しい君を見て欲情が爆発してるわけじゃなくてね、魔物としての性なのか足が勝手に動いて困ってるんだ。よろしく! 家族になろうよ!!)
ノリだ。もはやテンションのなすがまま、その場のノリ全開である。
凄いなぁ。僕ってばドラゴン相手に全然びびってないよ。我ながらすげー。
「お、お嬢さ……ッ!? う、ううううううううう美しいッ!? 家族ぅっ!?」
っていうかこのドラゴン、最初に僕が友達になってくれって言ったら「うむ」って頷いたよな? あはは、なんだなんだ、もうマブダチじゃん。よろよろ~。
「な、なななななななな何を言うておるのじゃ気が早いであろぉっ!?」
(ぐべらぁぁあぁふぅっ!?)
再び吹き荒れた『竜の息吹』。
黄金色の風。
――硬化硬化硬化ぁぁぁぁあああッ!?
強風が毒々しい草を大きくたなびかせ、茂る結晶の林を粉砕し砂塵と化す。洞窟全体がをズズン、と振動するような尋常じゃない威力だ。
死ぬって。これ死ぬって。
もちろん僕も軽々と転がっていき、なんとか無事であったことにほっと安堵しつつも、再びドラゴンに向かって歩き始めた自分の身体を酷く呪いたくなった。
ていうか、今のは何の息吹だよ。
僕の目が節穴じゃなければだけど、朱に染まった頬を両手で抑えながらブレスってたよね今。何、照れたら一々破壊の嵐をまき散らすのこの子? やばくない? 間違いなくやばいよねこのままだと僕はいつか死ぬ! そんな衝動の余波で死んじゃったら空しさの余りアンデットになるわ!
くしゃみで世界を滅ぼせるんじゃなかろうな……そんなことを考えつつ、大きく吹き飛ばされた距離を縮める。もちろん僕の意志じゃない。
するとドラゴンはやはり頬を手で押さえ、腰をくねくねさせていた。きもい。
「な、何を心にもないことをペラペラと……っ! そ、そうだ! 最強種たる我を前にして頭が狂ったのであろ? そうだ、そうに違いない。そうでなければ、我のことを、可愛いなどと……言わぬよな……そうだよなぁ……グスン」
……何だこいつ。
よくわからないが自分の言葉でダメージを受けてるのか徐々にシュンとし始めたぞ。なんかすごく小さく見えてきた。そもそも可愛いなんて言ってないし、最後には涙まで浮かべてやがります。
あれか? もしかして駄竜なのか? そうなのか?
僕は急に素面に戻った。
(ソウダネ、カワイイトオモウ)
極度の棒読みである。
そんなこと思ってないが、いやもしかしたらドラゴンの中では可愛い方なのかもしれないけどさ。顔とかわかんないし。というか心の中ではお嬢様じゃなくて雌だなんて呼んでましたごめんなさい。
興奮が一気に冷め素面に戻ったことで、正常な判断が出来るようになった。
つまるところ、ドラゴンの機嫌を損ねてはならぬ。これ、常識。
冒険者ギルド職員募集の際の試験に出るよ。ていうか誰でも知ってるよ。ドラゴンに抱きつきに行く奴なんかどんな強国にも、どんな辺鄙な村にもいないだろ。いたらぜひとも顔を拝んでみたいくらいだね。
――ハッ、残念だったね! 僕の顔はフルフェイスなので見えませーんっ!
「かっ、かっ、可愛い……そ、そうか。そうじゃったのか……我、可愛いのか……む、良かろう。其方の罪を許してやろうて……こんなに嬉しいことを言われたのは、本当にあの男に会った時以来じゃ……ぽっ」
おいおいおいおい、ちょろいな。
僕が内心一人芝居をしている間に、どうやらドラゴンさんは僕を許す方向で結論を出したようだ。
っていうか、
(……あの男?)
あの男って、もしかして僕の他にもドラゴン相手に馬鹿をしでかした狂人がいたのか? そういえばさっきもあの男って言ってたし。すごいな、どんな神経してるんだよ……ああ、僕みたいな神経か。
「そうじゃ。今より三百と八十六年前じゃったであろ。かつて世界最強の名を欲しいままにした馬鹿がおったのじゃ。そやつは脳天気というか、阿呆というか、自由気ままなヤツでのぉ。我に可愛いと言ったのも其方の前にはあやつだけであったのじゃ。仕方がないからの。仕方がないから、我はそやつと愛の契約を――きゃっ、我、何を赤裸々と話しておるのじゃ! 恥ずかしい! あ、でもでも、そやつはな――」
……何だこれ。
年寄りの「昔はのぅ」で始まる無駄に長い話なのか?
それとも過去の想い人とのなれそめを告白する女子トークってやつなのか?
あ、ものすごく興味ないです。耳が腐りそう。
流れとはいえ、そんな変人と同じ扱いをされるのは不本意ではあるが、まぁいい。僕は死にたくないのだ。なにより、この黄金のドラゴンと友達になりたいと思ってることは本当だし。
孤独は精神を蝕む毒だ。ぼっちは命ある者の天敵だ。
寂しかった。辛かった。
例えかつての敵だったであろうドラゴンといえど、生命体であり会話が成り立つのであれば問題はない。これで気が変わって殺されたとしても、まぁいっかって思えた。
――なんていうか、そうだな。
きっと歩き疲れたんだ。
長い、それはそれは長い一人旅だったから。
(――会えてうれしいよ)
僕は心の底からそう思った。
でもドラゴン相手に可愛いだなんて言う奴もいるのなぁ。世も末だぜ。
「――とにかく、其方のように巫山戯たヤツだったのじゃ。ん……なんじゃ。今何か、すごく失礼なことを考えなかったかえ?」
(イエナニモ)
自分の話に夢中で僕の感謝の言葉を聞き逃したくせに、内心で思った悪口は察知するとかどうなの。
0
あなたにおすすめの小説
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる