『人外×少女』:人ならざる魔物に転生した僕は、可愛い少女とあれこれする運命にあると思う。

栗乃拓実

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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』

第8話:進化を経た変化

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 ――「個体情報提示エクセ・ステータス

 くぐもった肉声が地底湖に響く。

 併せて、兜の口と目の部分にあたる部位、面甲ベンテールの長方形の隙間から気泡が立ち上っていく。小さな泡がたちまち背後に流れていくのは、僕が黄金のドラゴン――シェルちゃんの角の付け根に掴まり、かつ彼女がゆっくりと水中を泳いでいるからだ。

 進化を経て肌代わりの鎧が敏感になっているのか、少し肌寒い感じがする。

 身の丈ほどの長さになったショートソードは白と金の意匠が施された鞘に収まり、僕の腰当たりに横一文字に取り付けられている。取り付ける場所がちゃんとあるあたり、この身体への興味は尽きない。面白いよね。

「ふんふふんふふん~ふんふんふんなのじゃ~♩」

 シェルちゃんが下手くそな鼻歌を刻む。糞糞うるさくて困るよ。

 何やら機嫌のいいシェルちゃん。
 どうやら彼女は本当に高位のドラゴンだったらしい。

 食事や排泄を始め、生命たる存在が生きる上で欠かせない要素が悉く不必要なのだとか。酸素もいらないため、水中も苦もなく進むことが出来る。

 だがしかし。
 それだけの理由で、僕がこの駄龍を認めたわけじゃない。
 だって排泄と食事、酸素が必要ないのは僕も同じだし。
 全然凄くないし! まだ僕と対等だしぃ! 

 だが、どうしても認めなければいけない要素が、なんと僕の中にあったのだ。
 脳裏に浮かび上がる文字群。これが今のステータスだ。
 あ、やっぱり脳はないんだけどね。

――――――――――――――――――――――――――
 個体名:なし
  種族:流浪るろう白鎧はくがい(変異種)
  Levelレベル:1
種族等級:E
  階級:E⁺
  技能:『硬化』『金剛化』
     『武具生成』『鎧の中は異次元ストレージ・アーマー
     『真龍ノ覇気』『六道』
  耐性:『全属性耐性(小)』
  加護:《金龍の加護》
  称号:《金龍のともがら
状態異常:■■■■■の呪縛
――――――――――――――――――――――――――

 いろいろ突っ込みたいところはあるが、まず注目したいのは加護についてだ。

 ――《金龍の加護》

 これはおそらくシェルちゃんが与えてくれたものだろう。
 何をいうでもなく、知らん顔で与えてくれる当たり、このドラゴンは駄龍であってもいいヤツなのは間違いない。友達になってよかった。得したぜ。

 二日ほど前に気づき、お礼を言った際には「気にすることでもないのじゃ。ほ、褒めたかったら褒めてもいいのじゃ」などと無駄なヒロインっぷりを発揮しようとするものだから、黙って頭の産毛を数本引き抜いてやったんだけどね。

 涙目になった所で軽く撫でてあげた僕は優しい。
 まさしく主人公の鏡。罪な男である。

――――――――――――――――――――――――――
加護――《金龍の加護》
 始まりのドラゴン『始祖龍』が一柱――太陽を司る【金龍皇シエルリヒト】の齎す加護。
 防御力と魔力値、全属性耐性に極大の上方補正。炎属性無効、吸収。
 その加護を受けし者は防御値の秀でた方向へ成長しやすいとされる。進化の過程で【金龍皇】のスキルを継承することも稀にあるが、特別金運が上がるわけではない。お金は大事に使おう。
――――――――――――――――――――――――――

 なんだか最後にいらん補足があるが、これが詳細である。

 僕の場合兜を被ってるから、というより全身鎧だからポーカーフェイスがバッチリ実行されてたんだけど、これを見たときは流石に度肝を抜かした。心臓ならぬ魔石が喉から飛び出るかと思った。

 面甲ベンテールが激しく開閉してガシャンガシャン煩かったためにシェルちゃんに訝しげな目で見られたのはご愛敬。あれ、バレバレだね。ポーカーフェイスできてないね。どうしてだろ。

 ――始祖龍。

 それは神代、秩序神アルバトリオンの手によって創造された、二体の『始まりのドラゴン』につけられた敬称だ。

 僕の記憶はただでさえあやふやだが、彼の存在は嫌でも知っている。
 逆に今の今までその名前が出てこなかったことが不思議なくらいだ。
 冒険者を育てる学校でも当然の如く出てくるのに。

 ……いっそ外部からの圧力で記憶が消されてると言われた方が納得できる。

 まぁ教科書の一ページ目に厚紙で出てくるような、半ば飾りのようなものでもあるだめ、【金龍皇シエルリヒト】と言われてパッと思い浮かぶ人間は少ないかもしれないけれど。

「まさかシェルちゃんが始祖龍だとはなぁ……」

「む、またそれか。譫言うわごとのように呟いておるが、そうたいしたものでもないぞ? 長き時を生きているというだけじゃて。ふふ、こそばゆいからあまり言わないで欲しいのじゃ」

 そうは言うものの、シェルちゃんはどこか嬉しそうだ。

「まさかこんなちょろいヤツが、始祖龍だとはなぁ……子供の頃から抱いていた夢が壊された気分だよ」

「だからそう褒めるでな――褒めてないのじゃぁあっ!? 何でじゃ何でじゃ、其方は我のことをそんな風に思っておったのか!? 失敬であろ! 不遜であろっ! 友達として失格であろぉっ!?」

白髭サンタさんは変装した両親なんだよって教えて貰った事の次に衝撃的だ」

「しかも白髭のじじいに負けるレベルの扱い!? 酷いのじゃ、我の扱いが酷いのじゃっ! 対等な友達であると言ったであろぉおぉぉ……っ!?」

 涙を流しながらわめき立てる始祖龍さん。おかげでぐあんぐあん揺れる。
 ここが空中だったら間違いなく放り出されてるな。危ない危ない。
 水中といえど、気を抜くと波にさらわれるんだけどね。

「いやいやいや、何を今更。元からこういう態度だったでしょ?」

「……あ、確かに」

 いや、そこで納得するのもどうかと思う。

「それに僕とシェルちゃんは友達なんだから、こんな冗談のやり取り当たり前さ! 気にしない気にしない!」

「冗談、冗談なのじゃな……? むぅ、まぁよいのじゃ」

 しかもちょろい。扱いやすくて助かります。
 シェルちゃんは水中を雪のように舞う青白い魔素マナをかき分け、地上を目指した。

 魔物の魔素マナは黒いのだが、本体から離れて長期間経つとこうして色とりどりの色彩を放つようになる。それも個人差はあるのだが、シェルちゃんの魔力の質的に淡い青色が七割を占めている。魔結晶が青白く見えるのもこれが原因だ。理由は不明。

 ステータス上の他の変化としては、称号に《金龍の輩》がついたり、耐性の欄に『全属性耐性(小)』がついたりと、着々と強くなっていることが見て取れる。

 全属性耐性に関してはシェルちゃんの特性なのだとか。
 この始祖龍さん何しても死ななそうだよね。全身金属みたいななりしてるし。
 実際に触れてみると存外に暖かいのだが、やはり触感はえげつなく堅い。

 技能スキル欄に関しては、『硬化』から『金剛化』が派生。
 まったく新しい系譜のスキルとして『真龍ノ覇気』を手に入れた。

 前者の権能としては馬鹿みたいに堅くなるスキル。
 後者の権能は凄い威圧でがきるだけのスキル。
 文字だけ見れば地味な感じはするけれど、その効能は凄まじいだろうと予想する。

 一度暇すぎてフェルちゃんと一緒に耐久力テストをしてみたのだが、『金剛化』を使うと全身が黄金色になって尋常でない硬度の鎧と化したのだ。
 その硬度はフェルちゃんの五十メートル先までズタズタに切り裂く爪の一振りさえ耐えて見せたほど。素晴らしい。

 正直生きた心地はしなかったけれど、それでも「わ、我としては手加減した方なのじゃぁあ……」と泣きべそをかき始めるから許してあげた。
 でもこんなことしてたらいつか死にそう。そうだ友達やめようかな。

 強力なスキルではあるけど、そこでネックになるのは消費魔力量が激しいこと。
 フェルちゃんが言うには、最大限に威力を抑えた息吹を耐えた最初の段階で僕は相当な硬度らしく、それは洞窟内に漂う濃密な魔力を浴び続けたからだろうということ。

 必然魔力値も同じ等級ランクの魔物とは比肩できないほど高くなっており、さらには《金龍の加護》の影響で魔力最大値も上昇しているにも関わらず、三秒で魔力が枯渇してぶっ倒れた。ありえない。

 よっぽどのピンチが訪れない限り、しばらくは『硬化』をメインに使うことになりそうだ。

 そんなこんなで『真龍ノ覇気』は使ってない。ぶっ倒れたくなもん。
 魔力枯渇は状態異常に分類される衰弱のようなもので、無理に無理を重ねると死ぬおそれすらある。少女といちゃこらする前に死ぬなんて嫌。

 ドラゴンの力など今の僕には身に余る。余りすぎる。
 容易に使ったら僕の命の灯火など一瞬で吹き消えるだろう。種火にすらなれていないかもしれない。とにかく危ないのだ。危険。ダメ。絶対。

 あ、そうそう。
 相も変わらず意味深な呪いは消えてないんだけどさ、なにより嬉しいのは名前が『放浪の~』じゃなくなってること!

 ――『流浪の白鎧』

 フェルちゃんが言うには新種。表記も『通常種』から『変異種』になってるね。
 種族等級レイスランクはワンランク、階級レートは三段階ずつアップしている。

 正直放浪と流浪にそこまでの違いはないだろなんて思ったりもしたが、今の僕には『人間の少女に出会う』以外に、これといった目的もあるわけじゃないのでそこまでで否定は出来ない。

 足が勝手に動かないだけ幸せだ。
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