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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第16話:君の名は
しおりを挟む僕は心が広い男だ。
常々そのような評価を自分に下してきた。要するに自画自賛である。
【金龍皇シエルリヒト】が迷宮核を用いて創り出した《金龍の迷宮》宝物庫にて、ゴールデンスラ子ちゃんの卑劣極まりない不意打ちを食らったにもかかわらず、心の広い男である僕はそれを水に流すことにした。
その前に卑猥な触り方をした僕も悪かったしね。反省はしてない。
え? 何?
スライムが男の子だった場合? そんな野暮なこと聞かないでくれよ撲殺だ。
女の子は正義。おっぱいは正義。とりあえず柔らかいって正義。
「それじゃあさっそく外に出ようよ。ゴールデンスラ子ちゃんも家族になったことだしさ! はい、シェルちゃんよろしく。迷宮ぶっ壊しちゃって」
僕が理想とする『僕に奉仕するためのハーレム一家』へと順当に加わってくれたゴールデンスラ子ちゃんを正面から抱きしめ、ふにふにとその柔らかさを堪能しながら適当にシェルちゃんに言うと、腕の中で眼を細めていたゴールデンスラ子ちゃんがビクリと震えた。
まるで「え、この迷宮壊すの?」とでも言っているかのように目を見開く。
眼を細めていた段階で気づいたんだけど、蒼宝石みたいなカチカチの宝石が眼になってるわけじゃなくて、その肉体同様に青眼も流動体なのらしい。
眼を大きくすることも点みたいに小さくすることも、弓なりに細めることもできる。この分だと即座に眼を後ろに回して、振り向くことなく背後の敵に対応したりだとかできるんじゃないかな。視野が広いって大事。
「それは、まぁ予備の迷宮核ももっておるし、其方がいればここにある物全て持って行けるだろうから構わんのじゃが……その、ゴールデンスライムに名前はつけなくていいのかえ?」
「え? ゴールデンスラ子ちゃんじゃだめ?」
「いや長すぎじゃろうて」
シェルちゃんはそう言う。けど、大事なのは本人の思うところなのだ!
僕は腕に抱いたゴールデンスラ子ちゃんをじっと見つめた。ふにふにと籠手先は動かす。うん。なんていうか、けしからん弾力をしておる。
僕はその名を呼ぶ。優しく、これでもかと慈愛を込めて。
「…………ゴールデンスラ子ちゃん」
「…………(ふりふり)」
……今いっちょ前にイヤイヤと頭を振ったような気がする。
いやまさか。気のせいに決まってる。
僕の完璧すぎるネーミングを受けて嬉しくないはずがないじゃないか。きっと見間違い。さっきの体当たりのダメージで脳が揺れて錯覚を見てるだけだ。
僕は両腕に力を込めて、ゴールデンスラ子ちゃんが微塵も身体を動かせないようにがっちりとホールド。
そして優しく笑いかける。
「…………君の名前は、ゴールデンスラ子ちゃん。それでいいね……?」
「…………――――~~~~~~っっ!?」
しかし、次には蒼宝石の瞳が肥大化、そして輪郭があやふやになり波打ったと思ったら――大泣きし始めた。それもアンリーズナブルに。
「~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」
大粒の涙が滂沱の如く溢れ出て……って溢れ出るとかそんな域じゃないから! 地脈から源泉を掘り当てた時みたいになってるから! 間欠泉みたくぶひゃーって勢いで噴出してるから! もはや虹がかかってるから! 綺麗だなおい!
「うわ……其方、泣かせたのじゃ。いけないんじゃ~」
「ぶべぶばぶぶ……ぷはっ! いやいやいや、これ泣いてるってレベルじゃないからねこのままだと宝物庫が水浸しになる勢いだから! そんな悠長なこといってないでどうにか――ぶべぶぶばぶぶべ」
間延びした物言いで僕を責めてくるシェルちゃん。
僕は降り注ぐ滝のような雨に打たれながらも、時々隙間を見つけて顔を出し、必死に宥めるように要求した。お宝が錆びちゃうから、ねぇ錆びちゃうから。
「だから我は言ったであろ。尋常でない泣き方をしておったと。その時そこら一帯の森は水浸しだったのじゃ……まぁ、我は其方が悪いと思う」
「ぶぶぶべば、ぷはっ、尻毛! 引っこ抜くばぶばばばば……」
「ごめんなさいなのじゃ其方がもっとマシな名前を考えるべきではないかと思うのじゃ」
無駄に早口で捲し立てたシェルちゃん。
でも、そうか。ゴールデンスラ子ちゃんが泣き始めたのは僕がナイスなネーミングを強引に認めさせようとしたのが原因。ということは彼女が納得するような名前を考えればいいのだ。
――いやなんで拾ってきたシェルちゃんがつけないんだよ。
なんて無粋な突っ込みはご退場願おう。
いやでもゴールデンスラ子ちゃんも悪くないと思うんだけどなぁ。ゴールデンスラ子ちゃんゴールデンスラ子ちゃん――冗談抜きで室内に水が溜まり始めたので真面目に考えようと思う。
「ぼべべべべべ、ぷはぁっ! わ、わかった、わかったからゴールデンスラ子ちゃん! 別の君の名前を考えた! ナイスなセンスがびりびり感じられる一級品のやつをばぶぅ!!」
「~~~~――――…………(ぷるぷる)」
半ば自棄になりながらそう叫ぶと、ゴールデンスラ子ちゃんの癇癪が収まった。両目は元の大きさに戻り、溢れ出る水量は激減。その蒼目はじっと抱きついたままだった僕を見据えている。
――空気がピリリと張り詰める。
場の緊張が高まり、誰もが僕の次の一言に全神経を集中させていた。
まぁ僕の他にはちょろごんとゴールデンスラ子ちゃん癇癪バージョンしかいないんだけどね。
一度、深呼吸。
息を大きく吸い(何も吸えてない)、ゆっくりと吐き出す(何も吐けてない)。
涙をガードしていた面甲をガチャコンッと上にスライド。
これで僕は無防備。何が無防備なのかしらないけど、僕なりの礼儀。挨拶時に帽子を取るような感じ。
紫紺の双眸をキリッと細めて告げた。
「君の名前は――おっぱいボールスラ子ちゃんだ」
「!? ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」
ぐべらぁばばばばばばば――ッ!?
眼から発する間欠泉もかくやの涙が僕を直撃する!
何でだよ。言いじゃんかおっぱいボールスラ子ちゃん。何が嫌なんだよ何が気にいらなんだよ! 我が儘か! 三百年も生きてるらしいのに、いい年して我が儘か! このおっぱいだけが取り柄の雌スライムめ! なにそれ最高僕の宝物にします一生大切にします。
「うわぁ、それはないのじゃ。其方はほんとにいい性格しとるのぉ……女の子だというのに可哀想。目も当てられないのじゃぁあ……」
その女の子を三百年独りぼっちにさせていた君がそれを言うなよ。
突っ込むとともに、仕方なく次の候補を考える僕。もちろん洪水のような惨状は続いているし、大物量の涙は僕を強かに打ち付けている。
……良い感触だなぁ。
僕はそれでもなお、おっぱいボールすら子ちゃんを離さないのであった。
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