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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第15話:新たな家族
しおりを挟む「で、なんで?」
興味なさげに問うと、格好はそのまま首だけ引っこ抜いてシェルちゃんが再び振り向く。
意外と頑丈な性格してるよね。実は喜んでるんじゃないだろうな。
「……我が誓約に従って引きこもろうとしてたときに、偶然見つけたのじゃ。其方も一目見てわかったであろ? ――そやつには自我がある」
「――ま、まあね。わかってたともさ。もちろんもちろん。でも自我があるだけで、入れる理由にはならないでしょ?」
嘘です全然気づきませんでした。
ていうか何も喋らないスライムの内面を推し量るとかあ不可能だろ。
シェルちゃん半端な、と初めて思った。
「うむ。傷だらけで息絶える寸前というのもあったんじゃが、何よりも、その……泣いてたからの」
「…………はぇ? 泣いてた? って、このスライムが?」
予想外のその一言に、僕は足元のスライムを見やった。
どこかキョトン、としたような表情はぬいぐるみでも見ているかのような感慨を抱かせるが、同時に殺戮マシーンの一面も持つのだ。はい怖い。気絶しそう。
「む、むぅ。我だって同情することもあるのじゃ。その時がその時じゃったし……それに、泣き方も尋常じゃなかったしの。それで安全な宝物庫に入れておいたのじゃが……なんか進化しておるのじゃ」
なんかって。一応家に他人を入れるような行為なんだから、もっと危機意識を持てよな。もう少し気にかけろよな。
――スライムがドラゴン相手に狼藉を働くとは思わないけども。
仮に自我がなければ彼我の実力差もわからないというか、意識すらしないためあるかもしれないけども。
まぁスライムは雑食とも聞く。要するに何でも食べるのだ。
致命傷さえ回復すれば、財宝も豊富で外敵もいないこの迷宮は生活を送るにもってこいだとは思うけど……、
「いやさすがに、三百年も生きたっけ? スライムって」
「ややや、本来はあり得んじゃろうが……恐らく我の魔力を糧に進化したのであろ。その副産物として寿命が延びたのじゃ。高位の魔物は総じて長寿なものよ。分岐先の進化樹が我の系統であるが故になんとなくわかるのじゃが、恐らくこのスライムの種族は――『ゴールデン・スライム』じゃて」
「うんそんな気してた。だってめっちゃテカってるもん。すごい眩しい」
いやにどや顔で言うシェルちゃんだが、まぁ見た目的にも無難だろう。
どこからどうみても新種だけれど、目にした冒険者の九割はゴールデン・スライムという陳腐な発想になるに違いない。まさにその通りだったわけだし。
「それにしても、なんで僕の足に取りついてるかなんだけど。ねぇねぇ硬かったから呪いかける方面で殺しに来てる感じ? ……って、これは――」
なんだかそのネーミングを改めて口にすると馬鹿らしくなって恐怖が和らいだ。感覚のある左手を地面について上体を起こしたところで――右足が修復していることに気がついた。感覚もしっかりと戻ってきている。
「え、何々、もしかしてこのスライムいい奴だったの?」
「さっきは、その……三百年前に我が言ったからじゃ」
「……なんて?」
「し、侵入者が来たら適当に倒すのじゃぞーって……」
なるほど道理で。ぷるぷる震えてたのは初めての戦闘でスライム君も怖かったんだねきっと。進入禁止の迷宮になってたからいいものの。そんなことできたっけ? という疑問は置いておいて、惨い役目をおしつけるなぁ。
僕が「へぇ」とわざとらしく言うと、シェルちゃんがびくりと肩を跳ねさせた。
「それで僕を侵入者と思って攻撃したわけか。てかやっぱりシェルちゃんのせいだったわけね。次、シェルちゃんが寝てる時に尻毛抜いていじってやろ」
「ひぃいっ!?」
「そうだね、宝箱に入れて保管するなんてどうかな。そしてどこかの迷宮に宝箱を設置するんだよ――【金龍皇シエルリヒト】の尻毛ですって書き置きも入れてね! 腐っても伝説の龍だ。素材としての価値はあるはずさ! 尻毛が武器なんかになったらさすがに笑い死ぬ自身があるよ僕、あはっ、あはははっ」
「ひぇぇええぇ……わ、我、もう其方には逆らわないのじゃぁあ……グズ、ヒック……」
シェルちゃんを虐めつつ、妄想を膨らませてるうちに右腕の感触も戻ってきた。気がつけば吹き飛んだ部品が根こそぎかき集められ、僕の身体に戻ってきている。
おそらく放っておいても散り散りになった鎧は胸の核に集う風に出来ている。
かつて転倒した際に転がっていった頭もそうだったし、いやあの時は効率を重視したのか身体が頭を拾いに来てたけどさ。
つまるところ、修復するのは僕自身の能力だろうね。
このスライム君は分解した鎧のパーツを集め、鎧が速くくっつくように押さえていてくれたのかもしれない。感謝感謝。……いや吹き飛ばしたのこのスライムか。
ナチュラルに感謝してしまったけどさ、僕にも譲れないものがあるわけで。
「すごく複雑だけど、ありがとうとだけ言っておくよゴールデンスライム君。だけどね……」
僕は立ち上がり、元通りになった鎧の身体に不和がないか一通り動かして確認する。
両腕を回す。オッケー。
足踏みし、足首を回す。問題ない。
首をぐるぐる回す。やばいビキっていった。
……うん。正面は凹んで歪になってるけど、多分スキル『武具生成』で治るでしょ。そんなことよりも、だ。
今はやらねばならぬことがある。
「僕は極度の負けず嫌いでね。もう一度、今度は正々堂々と勝負を挑ましてもらうよ」
僕は腰に横一文字に佩いてある短剣の柄に触れ、自然な動作で重心を落とす。
鎧がギシギシ音を立てるも、今の僕には届かない。
いつでの反応出来るように神経を研ぎ澄ました。
負けたまま終わるなんて――魔物としての僕が認めても、前世の僕は認めない。
そんな気がするから。
「びっくりするくらい突拍子もない出会いだったけど、幕引きといこう。どうやら僕と君はそりが合わないようだしね。男同士の戦い、受けてくれるかな――ゴールデンスライム君?」
いざ、尋常に勝負――ッ!!
「え、何言っておるのじゃ。そやつは雌――女の子であろ?」
「可愛いお嬢さん僕の家族になりませんか?」
即座に柄から手を離しゴールデンスライム君――否、ゴールデンスラ子ちゃんに近づき、その黄金の如く美しい肩(多分)を抱き寄せる。
僕とゴールデンスラ子ちゃんでは、僕の方が二割ほど身長が高い。抱きつくような格好で、さらには上から頬をすりすりして一世一代のプロポーズ。
「其方、キレが凄い。掌返しのキレがすご過ぎるのじゃぁあ……」
「いやいや、おっぱい、じゃなかった女の子ならおっぱい、じゃなかった怪我をさせるわけにはいかないでしょ? それに将来人化して美少女になる気がするんだ。なにしろ流動体のスライムだからね、おっぱいの大きさも自由自在ってわけだ。つまり巨乳の美少女になって僕に奉仕する必要があるってわけだ」
いやぁ、夢が広がるね。スライムの身体であればいろんなプレーが出来そうだ。ていうかシェルちゃん言うの遅いよ。女の子ならオールオッケーだよ。
「隠すきある? 隠す気ないよなっ!? 前半は欲望を隠しきれてないまでもどうにか誤魔化してるようじゃったが、後半に至っては本音ダダ漏れなのじゃ! もはや意味不明な本音でしかないのじゃ!!」
うるさいうるさい。僕はゴールデンスラ子ちゃんと話してるんです。
「シェルちゃんは煩いなぁ。ね、いいでしょ? 僕の家族にならない? そしたらこの先、ずっとずっと一緒だよ? ――もう独りぼっちなんかじゃないんだ。寂しいなんて思わなくて、いいんだよ」
「――――――――」
僕の言葉を受けて、ゴールデンスラ子ちゃんはぶるりと大きく震えた。
そしてすぐに、コクリと頷いてみせるのだった。
僕は得体の知れない相手かもしれないけど、そりゃそうか。
僕と同じく、きっとゴールデンスラ子ちゃんも孤独に晒されて擦り切れそうだったんだ。温もりに飢えてるんだ。
それなら、僕が側にいよう。そう思った。
今はまだ個体名を得ていないから、第二の名を共有することはできないけども。
――新たな家族に、ゴールデンスラ子ちゃんが加わりましたとさ。
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