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第ゼロ章『人外×金龍の迷宮オロ・アウルム』
第18話:金ガ為ノ太陽
しおりを挟む「…………(ぷるぷる)」
「「…………」」
ぷるるん。ぷるるん。激しく震えるゴールデンスライム。
眩しそうに目をしぼめてゴールデンスライム見つめる、小さな白鎧と巨大な黄金のドラゴン。一匹はそもそも口がなく、一匹は口らしきものはあるが形状は変えられず、最後の一匹は凶悪な牙が見えないように口を引き結び、三者は同様に沈黙する。
「…………(ぷるぷるぷるぷる)」
このままでは埒があかないと、僕は隣で渋い顔をしていたシェルちゃんに問うてみる。先の内容が上手く呑み込めず、内心動揺のあまり少し早口だ。
「…………ねぇシェルちゃん。ルイぷるぷるしてるよ、すごいぷるぷるしてる。逆に言えばぷるぷるしかしてない。なんて言ってんの?」
「な、なんで我に聞くのじゃ……む、わかるわかるぞ……なになに、ふむ……『おいしかった』と言っているのじゃ」
それを聞いた僕は顔色ならぬ兜を蒼白にさせて、いや元から白いんだった。愕然とルイに近づくとその柔らかなボディを両手で掴み、ガクガクと揺すった。
「ほんとにっ、ほんとに食べたのかルイっ!? 吐け、今すぐ吐き出せぇぇえ! あれは金にしたら物凄い額になるんだっ、お前のおやつじゃないんだぞ僕のものなんだぞぉおぉおっ!?」
「そ、其方のじゃなくて我の宝具なんじゃが……」
うるさいよドラゴン。うるさい。静かに。シャラップ。
「…………(ぷるぷるっ)」
僕の手から離れた黄金のおっぱいが、たぷんたぷんと元気よく跳ねる。
何やらルイが言ってるらしい。シェルちゃんが自然と翻訳。
謝罪か? 誠心誠意、謝罪をするのか? それで贖えるわけじゃないけど、全く以て許すわけじゃないけど、それ相応の態度を取るのであればせめてもの慈悲をくれてやらんでも、
「え? なになに……『おかわりが欲しい』と言っておるのじゃ」
「ルイちゃぁあああぁああんッ!? おかわりっ、おかわりてっ!? そんなものはありませんあなたの腹の中にあるそれが最初で最後の神域武装なんですぅうっ!? おら吐け、今すぐ吐いて贖罪しろ!! ていうかなんでシェルちゃんルイの言葉わかるんだよぉおお!?」
「其方、少し落ち着くのじゃ、一息に喋りすぎて何言ってるかわからんであろ。むむ、しかし……我の系統に進化しつつある、からかの? なんとなくしかわからぬが」
そんなこと聞いてない。いや聞いたけど、聞いてない!!
ぬぁあああぁぁあああぁ――という僕の虚しい嘆きが、空っぽになった宝物庫にしばし響く。莫大なる損失のあまり、僕が床に激しく頭をガンガンと打ち付ける金属質の音も響く。ぽよんぽよんというえっちぃ音も合間合間に響く。なんで楽しそうなんだこのスライムは。揉みしだくぞ。
シェルちゃんのやれやれという嘆息。
苛つきのままにその豊満な身体を揉みしだいてやろうと、僕がルイの元へ一歩踏み出した――その時だった。
「…………っっ!? (びくんっ!)」
ルイの黄金色の楕円形が一際大きく震えたと気づいた直後、一瞬のうちにその身体の真ん中から細剣が伸びて僕の兜へと向かってきたのは。
肉体と同じく黄金色の色合いが強いその長く細い剣は、僕の眉間に触れるか触れないかの距離でピタリと止まる。僕があと一歩でも動いていれば確実に脳天を貫いていただろう。
数瞬の間、心臓たる核の脈動が停止したような錯覚。
漂白された無が脳裏をぶん殴る感覚。
一拍おいて、状況へと理解が追いつく。思考が息を吹き返す。
「――――ひぇひぇっ」
僕が情けない声で腰を抜かし尻餅をつき、シェルちゃんは「――まさか」と驚愕のあまり目を見開いた。ドラゴン特有の細い瞳孔が小さく、そしてさらに細まる。
一方で僕は漏れそうである。変な声出た。何だ今の声。マジで漏れそうだ。膀胱爆発三秒前。膀胱ないんだった。核の脈動が早鐘を打って痛いくらいだ。
「…………もっ、もういやだよぅ何なんだよぅ、ねぇこれなにぃっ?」
数十分前にルイにこっぴどくやられたばかりで、あの時の光景が鮮明にフラッシュバックしたのだ。酷く情けないが、僕は今にも泣き出しそうな子供のような声でシェルちゃんに急き立てる。
いやいやだってさ、おかしいよ、なんでそんなに不意打ちしてくるのルイちゃん? そんなに僕のこと嫌いなの君? とりあえず揉ませて。
瞠目していたシェルちゃんだが、一度生唾をゴクリと飲むと簡潔に告げた。
「間違いないのじゃ。我の宝具――《金ガ為ノ太陽》であろ」
「あ、やっぱり? やっぱりかぁそっかぁそうだよねぇ……ひぇひぇっ」
ひぇひぇって何だよぅ……正直、テンパっていた僕は納得したつもりの言葉を投げるだけで精一杯だ。言語が退行しているのは見て見ぬ振りをして頂きたいところ。
しかし、やはりシェルちゃんの『神域武装』は雑食のルイが捕食したみたい。
いや世界最高峰の武装を喰えるの? なんて無粋な疑問は百歩譲っていいとして、よくないけど置いておくとして、でもなんでそれがルイの身体から生えてくるんだよ? 僕さ、金色のおっぱいの時点でついていくのギリギリだったのに、意味わかんないよもう……。あああああ。
「……しかしこれは……もしやスライムの固有スキル――『餓鬼故二雑食』で食べられた《金ガ為ノ太陽》が、我と同じ金龍系統にすすみつつあるルイの身体に適応したんじゃないかえ? う、うむ、多少無理はあるかもしれんが、スライムに食べられたくらいで我の宝具が消滅するはずもないしの。うむ、そうじゃそうじゃ。そうに違いないであろ」
「…………(ぷるぷるぷる)」
驚愕の表情(多分)のままぷるぷると震えるルイちゃんを放置し、何やら一人で納得した様子のシェルちゃん。
僕のこの胸(核)のドキドキが収まったら、是非とも幼児でもわかるように噛み砕いて、懇切丁寧に教えてもらうことにしよう。
でも今は少し、休ませて?
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