『人外×少女』:人ならざる魔物に転生した僕は、可愛い少女とあれこれする運命にあると思う。

栗乃拓実

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第一章『人外×幻想の魔物使い』

第13話:さぁ序章を始めよう

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 放浪の鎧という魔物は、覚束ない足取りで彷徨うしか能のない魔物だ。

 手足をばたつかせて早歩きじみた真似は可能だけれど、『やばいヤツやんこいつ』と見る者に思われるだけ。綺麗なフォームで『ああ、走ってるなこいつ』と思わせるような動きは出来ないのだ。

 それはシェルちゃんの莫大な魔力を受けて半ば強制的な進化を経た僕に、新種の『流浪の白鎧』となった僕に、『走る』という行為に対して苦手意識を持たせる要因となっている。

 偶に大通りを横切り街の人間を脅かせながら、路地裏をバタバタと不格好な姿で駆ける。
 結晶の明かりが道を照らしているため、夜眼を持っていない僕でも特別問題はなかった。けども……

「ひぃぃいい待って、待ってよフラム先輩――っ!! 僕をおいて行かないでぇー!?」

 僕の倍はあろうかという速度で先を行くフラム先輩。
 このままでは見失ってしまい、再びの迷子――じゃなかった、街を放浪することになってしまうと、僕は情けない悲鳴を上げていた。

「くそっ、これはまずいなァ、もっと急ぐぞ新入りィ……ッ! 本気を出せ、お前を置いていったら本末転倒なんだよォ!!」

「ひぇぇえだからこれが全力なんだよぉー! 」

 くそぉ、サイクロプスに追われてたときは火事場の馬鹿力でも発動してたのか、もっと速く走れていたような気はするんだけどなぁ。

 なんて言い訳をしている間に、先端が尖っているはずの結晶の上を絶妙な足裁きで踏み込み、ぴょんぴょんと身軽に超えていくフラム先輩。格好いいですぅ。

「ったく仕方ねぇなァ、マジで時間がなィ。無駄に疲れるから嫌だがァ――本気を出す、、、、、、オレの尻尾につかまれェ」

 と、見かねたフラム先輩が僕の元まで引き返しお尻を向けたかと思うと、先端に小さな紅炎の灯った尻尾をふりふりとさせながらそんなことを言った。

 出し抜けすぎて「ふぇ?」と間抜けな声を零した僕に一つ舌打ち、フラム先輩は尻尾――ある程度は伸縮自在らしい――で僕の胴体をぐるぐる巻きにすると、「飛ぶぞ」とだけ告げて勢いよく石畳を蹴り砕く。

「――ぅぅううううああああああああああッッ!?」

 瞬間、視界一杯に闇が広がった。

 上ではあまねく星々が燐光を散らし、満月から奔る月明かりを遮る僕たちの影が落ちる地上では、仕事から解放されて血気盛んな人々の行き交う街明かりが見える。

 ――つまり、僕は空を飛んでいた。

幸を呼ぶ幻獣カーバンクルの固有スキル――『火渡り』。どうだァ新入りィ、ヒースヴァルムの夜景は綺麗だろォ!?」

「はぃぃい滝から落ちた時を思い出しますぅぅぅううっ!?」

 正確には飛行船のように浮いているわけでも、ドラゴンのように魔力を纏った翼で飛翔しているわけでもなく、『空を蹴っている』。

 フラム先輩の愛らしいほど小さな猫足四足の先端には炎が灯り、原理なんかこれっぽっちもわかんないけどとにかく空を蹴って空中を移動していた。

 確かに夜景は綺麗だ。日が落ちて静まり返る訳ではなく、逆に火を掲げた人々は日中よりも活発になっている気さえする。海底に散る宝石のような光景だ。

 でも正直、僕は先日滝から落ちた光景が蘇って来て、楽しめそうになかった。

「…………どうしてわかるの?」

 それから少しして、どうにか落ち着き夜景を楽しむ余裕の出てきた僕は先輩に問うてみる。フラム先輩は立て続けに空を蹴りつつ、ちゃんと答えてくれた。やっぱり良い先輩だ。

「魔物使いと契約を結んだ眷属ってのはァ、絆が深まると主との念話が可能になるんだァ。オレの背中に『契約の刻印』があるだろォ? 流石に距離が離れると無理だがァ、ここから主との間に見えない魔素の紡糸マナラインが繋がってるんだァ」

 魔素の紡糸マナライン――シェルちゃんを固有スキル『鎧の中は異次元ストレージ・アーマー』で収納した時の光景を思い出した。あれは魔力消費は少ない分、ある程度の技術が必要だったわけだが、魔物使いと眷属との間にはそれと似たような繋がりがあるらしい。

「そういうことかぁ。それならエルウェと離れててもある程度は安心だね。それで……我らがご主人様は何て?」

 フラム先輩は一度深々と溜息をついてから、面倒くさそうに答えた。

「お前を見つけたときに、北門近くの噴水広場で待ち合わせって連絡を入れておいたんだがなァ……ついさっきの念話でだ、『変な男に絡まれてるから早く戻って来なさい、こいつらの眼は小さな騎士さんと同じ、いやそれ以上の変態の目よ』――だとよォ」

「それは心外。随分な第一印象をご主人様の脳裏にこびりつけてしまったようだ」

 くっそー、失敗だった。美少女エルウェに最悪な印象を抱かれている模様。
 まぁ無理して猫被るよりマシだと思うけどね。僕が人間の美少女好きだってどのみち気づかれることなんだ。遅いか速いかの違いである。気にしたら負け。

「そらァあんなこと言やァな。自業自得――っと、ヤバイなァ、野蛮な男共が強硬手段に出たらしィ。今まさに、路地裏に連れ込まれそうだとよォ。『速く助けなさい』ってんだァ、急ぐぜェ、っとォッ!!」

「うひゃん!!」

 足に灯る火炎が勢いを増し、フラム先輩はさらに加速する。
 夜空を駆け抜ける紅い軌跡は、地上から見る者からすれば流星のように見えているんじゃないだろうか。

 僕は強烈な風圧に吹っ飛びかけた兜を両手で掴んで、奇怪な声を上げつつも耐え忍ぶ。
 
 しかしながら、考え方によって、これはチャンスでもある。
 エルウェに根付いてしまった僕の最悪な印象を一夜にして覆すことができる、最大の機会。これを逃したら次はないぞ!

 これこそ夢にまで見た王道的展開。
 誰もが一撃でときめくような格好良い登場を果たし、悪役たる男共の股間を潰しまくってイカした台詞を呟き、可愛い姫様との物語を始める序章プロローグとなる――実にいい。心躍る。これぞ『人外×少女』! 最高だ!
 
 ――待ってろよ、エルウェ。

 今、僕が――未来の王子様が迎えに行くからね!!

「もっと飛ばすぞォ!!」

「うひゃぁぁああんっっ!!」
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