『人外×少女』:人ならざる魔物に転生した僕は、可愛い少女とあれこれする運命にあると思う。

栗乃拓実

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第一章『人外×幻想の魔物使い』

第15話:首なし王子様、ここに参上!

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 北門近くの噴水広場。その数十メートル上空。
 四足に炎を灯した幻獣とその尻尾に巻かれた小さな鎧が、円を描くように周辺の上空を駆け回っていた。

 はい、僕です。僕とフラム先輩です。
 目が回って気持ち悪くなってきたので、そんなにくるくるしないで下さいと切実にお伝えしたい。ただでさえ尻尾に捕まれている僕は移動中に振り回され、鎧の身体にあるかわからない三半規管も滅茶苦茶だ。吐きそう。うぇっぷ。

 でも言えない。言えないんだよぉ。
 フラム先輩、さっきから本当に焦ってるみたいだからさ。多分エルウェが相当やばいことになってるんだと思う。

「どこだ、どこだ、どこだァ……ッ、――いたぞォ!!」

「えっ、どこどこ? うぇっ、フ、フラム先輩、目ぇいいなぁー。うぷっ、ぼ、僕ってば何もっ、見えないよ……僕が吐いたら、何が出るんだろうぉえッ」

 と、くだらない疑問を提議したところで、ついに発見した模様。
 僕は暗くて全然見えないというか、吐き気と戦ってて探す余裕がないというか、とにかくフラム先輩は物凄いスピードで降下しつつ夜空を駆け抜けた。

 すると前方、確かに一人の少女が三人の男に囲まれているのが見えてくる。
 どうやらまだコトはすまされていないようだが、それも時間の問題だろう。本当にギリギリだった。坊主頭の男が下半身裸で毛むくじゃらのナニカを晒している。

「~~~~~~~~~っっ!?」

 そして男の手がエルウェの胸元の服を強く掴む。そして次にはビリビリィッ、というあまり耳当たりのよろしくない裂音を響かせて、彼女の豊満な胸の脂肪とそれを支える可愛らしい下着が晒された。

 エルウェの声にならない悲鳴。
 男達が卑猥な目つきをギラギラと血走らせて興奮した声を上げる。

 坊主頭の伸ばした厭らしい動きをする掌が、今にもエルウェの柔いそれに触れる――と思われた、その瞬間。

 ――ブチィッ!!

 と、何かが千切れる音がした。
 エルウェのおっぱいはおっきいなぁと暢気に構えていた僕は、その生々しい音にぎょっとする。
 
 と併せて、猛烈に嫌な予感がした。
 ぶん……ぶん……ぶん、ぶん、ぶんぶんぶんぶんぶん――僕の世界が歪んでいく。

 そしてその予感は、奇しくも的中することになった。
 フラム先輩が街全体に轟くような、裂帛の咆哮をあげたのだ。

「おッ前らァアあああああああァッ!! 主に触るんじゃねェそれ以上なにかしてみろォ人間の挽肉にし%&#$&#%&ッッ!? ぶッ殺ォォおおぉおぉおぉすゥッッ!!」

 狂気に満ちた理解不能の言語を喚き散らしたカーバンクルが、僕を引っつかんだまま高速回転させていた尻尾を一際大きくしならせて――、


「えっ、ちょ、フラム先輩っ!! まさかっっ!?」


 ――エルウェ達の元へ投擲した。


「いやなんでぇぇぇええええぇえぇええええ――っっ!?」

 その威力隕石の如し。
 全力も全力だ。冷風を裂き、砲弾と化す僕。

 しかしそこは天才たる僕。
 前世から引き継いだであろう戦闘勘を駆使し瞬時に戦況を把握。ぐわんぐわん揺れる視界を意志の力で固定、焦点をフラム先輩の咆哮に驚き上を見上げている坊主頭の男に合わせる。

 ――ロックオン。完璧に捉えた。

 男の手はすんでのところでエルウェの胸に触れていないが、彼女の白銀の瞳からは涙が溢れていた。それまで必死に堪えていたのか、決壊したその涙は滂沱の如く溢れて顔を汚していく。

 少女の涙に濡れた、掠れるような声が聞こえた。

「小さ、な……騎士……さぁん……っっ」

 まぁね、僕はこれで元人間だ。雀の涙ほどの良心はあるつもり。
 だから、うん。だからさぁ。

 ――とりあえず、こいつらは殺すかぁ。

 内心ニヒルな笑みを浮かべ、力強く面甲ベンテールを閉じた僕。
 あまりの風圧に、腰に取り付けていた剣を抜く暇はない。
 けれど僕は才気煥発の機転を利かせ、右腕で自分の兜をがっしりと掴んだ。

 風を切る悲鳴。
 男達の誰何する汚声。
 背中を押すフラム先輩の罵声。

 彼我の距離が近づく。
 溜まった鬱憤を爆発させる瞬間が近づく!
 美しい少女の『王子様』になる瞬間が近づく!!

 あと二十、あと十、あと五――――そして。


「そのおっぱいは僕のですからぁああああぁああアァアッッ!?」
 

 憎たらしい冒険者の坊主頭を、僕はおもっくそ自分のあたまで殴りつけた。



 ****** ******



「てっ、てめぇ何言ってんぶちゅぅあぁああぁあああぁ――ッッ!?」

 奇天烈な悲鳴の尾を引いて、坊主頭の男は地面と水平に吹っ飛んでいった。

 それはまさしくクリティカルの一撃だった。
 ミシミシミシィッ、と決定的な一打が入った感触がする。

「――――」

 凶器として用いたあたまに感じる激痛は計り知れず、視界に眩い火花が散った。
 ぐらり、とないはずの脳味噌が揺さぶられた感じがして、すぐ側のエルウェの輪郭が二重ダブってに見える。これはやばい……と本能が警鐘を鳴らしていた。

 数瞬の間を置き、左方で粉砕音。
 兜を同じ方向へ振り抜いていたため、偶然面甲めんこうの奥から捉えたのは――男が坊主頭から壁へと華麗に突っ込み、上半身が埋まる姿。ひどく間抜けだ。

 兜を振り抜いた格好の首なしの鎧――僕は、飛来した勢いの大部分を坊主頭の男に注ぎ込んだとはいえ、高所から低所への落下は止められず、無論そのままエルウェの隣のゴミ箱に積んであったゴミ袋の山に突っ込んだ。

「ッ!? 小さな騎士さん!?」

 舞い上がる白雪。目を引く血飛沫。四方へと飛散する大量のゴミ。
 路地裏に大きく反響する爆音のような衝撃と振動に、エルウェが悲鳴を上げた。

「な、なな、なななななななななんだぁてめぇいらぁっ!?」

「キャープテェーンッ!? んな馬鹿なっ、キャプテンが一撃でぇ……っ!?」

 キャプテン? 何かしらの頭であったらしい男の有様に、狼狽する仲間二人は未だ現実を認識できていないよう。ここが戦場であれば立て続けに殺されているぞ、冒険者失格だ。いや、女の子を強姦しようとしている時点で人間失格だ。僕も誘ってくれれば……混ざるとは言ってない。

 落下のダメージはそれほどでもなかったので、生じた隙にこの男達をぶちのめしても良かったのだけど――今の僕は諸事情により、微塵も動けなかった。

「――なァお前らァ、何か弁明はあるかァ」

 その代わりと言っては何だが、僕をぶん投げた張本人であるフラム先輩が子猫の体躯を轟々と燃え上がらせて路地裏に着地。今にも爆発寸前といった可愛い面持ち――フラム先輩は凶悪な面持ちのつもりだと思う――でトコトコ歩み、男達との距離を埋める。

「あぇ? なんだ、こ、子猫!? おい見てみろよ、子猫が燃えてんぞぉ! 誰かの召喚獣かぁ?」

 目まぐるしい状況の変化について行くことを諦めたのか、背の小さい方の男が歯を剥くフラム先輩を指さす。
 
「ほ、ほんとだな、血が上ってる頭が癒やされるくらい可愛い……っていや待て、待て待て待てっ! その額の紅い宝石……まさか、まさかカーバンクル……っ?」

 ひょろひょろと身長の長い方の男は、不思議そうな顔をしながらも同意を示した。が、すぐに気づく。眼前の存在が力を持たない一端の召喚獣ではなく、幸を呼ぶ幻の魔物であると。

「はぁ!? カーバンクルって、あの種族等級レイスランクBの!? まさかっ、なんでこんな所にいんだよ? なんにしてもありがてぇ! こりゃ明日は良いことあるかもしれねぇな!」

「おまっ、確かにカーバンクルはレアだが、今の状況はまずいって! 俺は聞いたことがあるぞ、確か『テューミア支部』にカーバンクルを使役する少女がいるって……」

 そこでピンときたのか顔を見合わせた男二人は、仲良く同じ動作で振り返る。
 そんな彼らの濁った瞳には、服が破られ素肌と可愛い下着を晒した美少女が――それも、泣き腫らした目で睨みつけるエルウェの姿が映っていることだろう。

「おィ、それ以上その汚物のような眼球で主を見るなァ、こっちを向けェ」

「「ひっ!?」」

 フラム先輩の低重音が、その身に纏う焔の火力を一段と上げる。轟、という揺らめきに肩を跳ね上げる男二人は、すぐにエルウェから目を離した。
 ナイスだフラム先輩。エルウェの下着姿を拝んで良いのは僕だけなのだ。

「最後に一人ずつ、遺言を聞いてやるゥ。戦士として矜持はなのある言葉を残せよォ」

 と、小さい男の足元にまで近づき、歩みを止めてちょこんと座るフラム先輩。
 もうぶっ飛ばすことは決定事項のようで、せめてもの情けとして言葉を残すことを勧めた。

 ゴクリ、と生唾を呑み込む音。
 背が小さい男は足元で迸るその気迫に身震いしながらも、なんとか言葉を絞り出した。

「そ、その、えっと……く、くく黒のブラジャーって、すごい興奮するでっす」

「死ィぃいいいねェぇええええぇえええェ――ッッ!!」

「どひゃぇええ~~っっ!?」

 いや馬鹿かよ。そこで煽ってどうすんだよ。
 土壇場の状況を前にしてテンパっていたのか、それとも元々痛い頭をしているのか定かではないが、背丈の低い男は爆発した火炎に吹き飛ばされ、最初に僕が吹っ飛ばした坊主頭の隣に頭から突っ込んだ。

 ピクピク、と壁から生えたおしりが痙攣している男を一瞥し、フラム先輩はもう一人の男に向き直る。恐ろしい。なんて恐ろしい子猫だろうか。

「…………」

 次、お前の番だとでも言いたげな視線で残った一人を見るフラム先輩。言葉を発しなかったのは、一種の予感があったのかもしれない。

 そしてひょろ長の男は足元から迫り上がる無言の圧力に耐えきれなくなったのか、目をぐるぐると回し、汗を大量に流しながら叫んだ。

「ぇ……あの、そ……ぱ、ぱぱぱパンツも黒だったら、すごい嬉しいでっす」

「ぶゥッッ殺ォおおぉおおぉぉおおおおすゥ――ッッ!!」

「んぎゃぇえええ~~っっ!?」

 いや馬鹿かよ。やっぱり馬鹿かよ。逆に凄いよ君達。
 その状況でさらに煽っていけるとかどれだけ図太い根性してるんだよ天才かよ。

 再びの爆発。物凄い熱波が伝わってくる。
 背丈の長い男も他二人と同じく壁に埋まった。三人のケツが壁から生えてるなんていう、通りすがった人が見たら悲鳴を上げて通報するレベルの光景がそこにはある。まぁ自業自得だから放っておくけど。

 かくして、柄の悪い冒険者三人の討伐は成されたのだった――

 地面に背中をつけながらその一部始終を見届けた僕は、手元を操作して兜を上向きにする。面甲ベンテールを開き、紫紺の瞳で建物に狭められた夜空を見上げた。
 
 フラム先輩が無事を喜び、エルウェが遅いじゃないのと唇を尖らせながらも、互いに讃え合う仲よさげな声を聞きながら。

 僕は静かに、目を閉じた――
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