『人外×少女』:人ならざる魔物に転生した僕は、可愛い少女とあれこれする運命にあると思う。

栗乃拓実

文字の大きさ
37 / 57
第一章『人外×幻想の魔物使い』

第16話:初めての○○は血の味がした

しおりを挟む

 荒くれ者達に襲われた少女を格好良く救い出した鎧の王子様とその従者こねこ
 語呂だけ見れば完璧だ。めでたしめでたし――と爽快な気分で終われればどれだけよかったか。

「小さな騎士さん……小さな騎士さん、ど、どこか……痛むの?」

「…………」

  重い鎧を引きずるようにして上体を起こし、ひび割れた壁に背中をつく。
 魚の骨を面甲ベンテールの隙間から生やし、茶色く変色したバナナの皮を被った兜を、僕はよろよろとした手つきで首の上にのせた。

 動く度に響く金属の擦過音が、その場に漂う寂寥感に拍車をかけていた。

「…………ふぅ――」

 深く、深く息をつく。

 そうだね。今の僕の状態は……『燃え尽きた』とでも表現すれば良いだろうか。
 絵に表すとするならば、今の僕はさぞかし灰のような白黒で塗られているだろう。無彩色の世界にどっぷりと浸かり、顔には縦の線が幾本も奔っているだろう。

 露骨に深く俯き、消沈した佇まいを晒す僕の前では、何やら事態を深刻に受け止めているらしいエルウェが目尻に涙を溜めながら自分を責めていた。

「ごめんねっ、まだ契約もしてないのに、命がけで私を守ってくれて……ありがとう。でも、全部全部、わたっ、私のせいね、本当にっ、ごめんなさいぃ……ッ」

「…………」

 正直わからない。どうして『今にも息を引き取る寸前の眷属と嘆き悲しむ魔物使い』のような系図になっているのか、こんなに重たい空気が流れているのか、全く以て判然としない。え、なんかごめん。

 ああそうか。僕がギギギ……と効果音がつきそうな動きで壁にもたれかかり、厳かな面持ちで天を仰いでいるからだろうか? 知らぬ所ではあるけれど、鎧の魔物が死ぬ時ってそんな感じなのかな。

 ……少しだけ罪悪感はあるが、放っておこう。

 常の僕であれば感謝するエルウェに無理なお礼をせびって、あんなことやこんなことをするのだけれど。ていうかフラム先輩絶対わかってやってるだろ、今の状況を面白がってるだろ。真面目な顔してるけど髭がピクピク動いてるぞ。

 もちろん疲労や痛みがあるのは本当だ。
 出し抜けすぎてスキル『硬化』を使う暇がなかったため、いくら鋼鉄のような材質の鎧といえど人間の頭蓋と衝突すれば痛みは奔る。ビリビリと震える籠手が、今でもその威力と衝撃を物語っていた。

 だけど、今の僕はそれどころじゃない。
 そう、正真正銘『燃え尽きて』いるのだ。

 その理由は、今より少し前――キャプテンと呼ばれていた頬に入れ墨をした坊主頭をぶっ飛ばすシーンまで遡らなければならない。

 それは偶然だった。

 たまたま、腰に佩く短剣を抜く余裕がなかった。

 思いがけず、咄嗟に武器になりそうな物として閃いのが、僕のあたまだった。

 折好おりよく、的の姿を捉えていなければ直撃させることができないからと、振り抜かれる僕の顔は正面をむいてた。

 折悪しく、フラム先輩の悪魔の如く咆哮に戦いた坊主頭の男は上を向いて硬直していた。

 そう。それら一連の流れの全ては、偶然だった。
 そして、僕と坊主頭の男はそのまま――

「…………」

「……小さな、騎士さん……?」

 心配げな表情で覗き込んでくるエルウェ。
 やっぱりべらぼうに可愛い少女だなぁ、と僕は内心微笑んだ。

 嗚呼――と、忘却の彼方へ消し去りたいその光景を、思い出す。


『てっ、てめぇ何言ってんぶちゅぅあぁああぁあああぁ――ッッ!?』


 ここで注目して欲しいのは『ぶちゅぅ』である。
 
 え、何の音? いやに生々しいこれは何の音? ぼく、わかんない。









「――僕のファーストキッスがぁぁああぁぁあぁああぁぁあああああぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁああああああああぁぁあぁぁぁあああぁぁああッッ!?」

「ひゃっ!? ち、ちちち小さな騎士さん!? ファースト、何ですってっ? や、やっぱりどこか痛むのね!?」

 おもむろにジタバタと床を転げ回る僕。その姿は大きさも相俟って癇癪を起こした子供のようだ。ガシャンガシャンという音が耳障り、近所迷惑も甚だしいけど。

 しかしというか、やはりというか、とにかくエルウェの眼には藻掻き苦しむ眷属の姿に映ってしまったようでオロオロとしている。

「死にたい、切実に死にたいっ! もうやだぁ死にたいよぉぉおおぉおおお!?」

 僕はそんな少女の様子に構わず、接触したであろう面甲ベンテールを石畳に押しつけて削る削る削る。

 最悪だ。最悪すぎる。最悪なんて言葉で終わらせていいもんじゃない。
 そう、その音の正体は。ぶちゅうっと怖気が奔りそうな生々しい音の正体は。

 ――僕の面甲ベンテールと坊主頭の男の肉厚な唇が正面衝突した音だ。

 ええ、そうです。それは紛うことなき――接吻。

 人間という愛を育む種族が、親愛の印として交わす神聖なる儀式だ。
 なのに、それを、それを、それをそれをそれをぉぉおぉ……ッ!!

 もうだめ。ほんとにダメ。ショックすぎて生きていけない。
 死にたい。本心から死にたい。誰か僕を殺してくれ。男に穢された僕を今すぐ殺してくれ。例えその愛の接触の後、ベキバキッという悍ましい破壊音とともに顔面を粉砕したのだとしても、キスした事実は拭えない。

「ぁぁあぁああぁあああぁぁぁぁぁあっあっあっぁぁあっあ――」

「でもそれだけ動けるなら間に合うかも、急いでギルドに行けば――って小さな騎士さん!? 死んっ――!? フラム、急いでギルドまで運ぶわよ!」

「――あぁぁ……ぁ…………」

 哀れな鎧の暴れっぷりを見て若干希望が差し込んだような表情をしたエルウェだったが、次には完全に燃え尽きて機能停止した僕を見て慌て出す。

 初めてのキスはいちご味だとか、世界がバラ色に染まるだとか夢見てた。
 もうね、フラム先輩もエルウェも、何もかもが褪せて見えるよ。酷い口臭と煙草の臭いが面甲くちびるにこびりついて離れないよ。これ何味だよ、臭い味だよ。ああ、死にたい。

「こんなの、こんなのっ……一生忘れられるわけないよぉおぉ……ガクッ」

 あまりの運命の理不尽さに、完全に脱力して何も考えられない僕。
 尻尾がしゅるるっと胴体に巻き付く感覚に、「なに笑ってるの、早く!!」という眷属を急かす声が聞こえた気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...