『人外×少女』:人ならざる魔物に転生した僕は、可愛い少女とあれこれする運命にあると思う。

栗乃拓実

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第一章『人外×幻想の魔物使い』

第17話:ヨキ・テューミアは心配だ

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 ――冒険者組合ギルド
 
 討伐依頼、採取依頼、雑務依頼等の一般人ではこなせない過激な内容の依頼が寄せられる、言ってみれば何でも屋のような機関。務めるのは手配師とも呼ばれる受付嬢に、依頼を受注し達成することで報酬を得る荒くれ者達――『冒険者』。

 主な役割はギルド登録した冒険者に仕事を紹介する斡旋所のようなものであり、就職や転職の仲介を行う職業紹介事業の顔も持ちつつ、素材のレア度に応じた大小様々な商人との取引にも盛んに応じ、犬猿の仲である騎士団との仲裁、調停する役割も課せられている。

 国としても国力に関わる重要な施設であり、金に糸目をつけない運営がなされる巨大組織――それが冒険者組合なのである。

 今も昔も、《龍皇国ヒースヴァルム》の成人した国民のうち四割弱が冒険者を名乗るほど人気も認知度も高く、危険はあるが一括千金を狙える花形の職業となっていた。

 それ故、日々甘味に群がる蟻のようにたかられているギルドで受付嬢として働くためには、否が応でも高スペックでなければ雇ってもらえないし、そもそも雇用されたとしても能力がなければ一週間と経たないうちに潰れてしまうのがオチだ。

 まぁ端的に言って、ギルド職員は多忙を極めている。
 そして今日もまた、狂乱の宴が始まる時間帯に突入していた。

「いぃ~やッ! 今のはどう考えてもお前さんが悪いだろうがッ! そのちゃらちゃらした金髪頭の中身は空っぽか!? くっさい脳味噌が詰まってないんか!? これだから若いもんはッ!」

「はぁぁん!? 何だともういっぺん言ってみやがれC級風情がぁッ!! てめぇがいるだけでギルドがレトロチックな雰囲気になんだよこの老害めッ!!」

 太陽が沈むと仕事を終えた冒険者達が一堂に会する、だだっ広い酒場にて。
 今日も今日とて極めて騒がしい喧騒に包まれていたギルド併設の酒場内。その中でも一際盛り上がっているテーブルがあった。

「お前さんもC級だろうが! 調子に乗りやがって、ちょっとお仕置きが必要みたいだなぁ!? 運だけでのし上がったお坊ちゃんにお灸を据えてやるってんだぁ!!」

「よぉしわかった、三十超えてもC級どまりの非才なじじいに才能の違いってやつを教えてやるぅあ!!」

 片やテーブルにもたれかけさせていた巨大な斧を両手で掲げ、ブンブンと振り回す壮年の男――階級レートCの第二級冒険者【砕斧】のブレイクル。
 
 片やどこからともなく取り出した赤槍を操り、それらしい演舞を舞う若い男――階級レートCの第三級冒険者【炎槍】のホームラ。

 睨み合う双方、何重にも列を作って周りを囲う外野のポルテージは急上昇だ。

「おいおいおい! 古参の【破斧】のブレイクルと最近名が知れてきた【炎槍】のホームラって新人がバトるらしいぞ!」

「まじかよ! うぉおお、普通に考えれば年季の差でブレイクルに分があるけどよ……ホームラもなかなかやるって噂だ! どっちが勝つんだろうなぁ!?」

「儂はブレイクルに賭けるで! あいつの斧は半端ねぇんだぃ! 銀貨五枚ぃ!」

「じゃあ私は新人クンに銀貨三枚よ! 意外と可愛い顔してるじゃないのーっ!」

 もはや日常茶飯事と化した冒険者同士の喧嘩は、戦いに飢えた彼らにとって極上の肴になる。

 頭に血が上った二人を囃し立てる者。馬鹿じゃないの、と呆れる者。雰囲気につられて喧嘩し始める者。賭けの対象として金を収集する者。ジョッキに注がれた甘辛い酒をぐびーっと飲み干し、給仕におかわりを要求する者。場は混沌と化した。

 数人の受付嬢が「ふぇえ喧嘩はやめて下さいぃ~」と弱々しく諸手を挙げているが、次々に集う野次馬にはね除けられて全く収拾がつかない。涙目の受付嬢の目元には隈がくっきりとできており、いっそ哀れなほどだった。

 とはいえ、荒くれ者がこれだけ集い自由に振る舞えば、十人十色の混沌場と化すのも無理はないだろう。彼らにとってここは仕事を受ける場所であり、馬鹿騒ぎする酒場であり、強さを見せつける闘技場でもあるのだから。

 鈍い音。額をゴチッとぶつけ、目尻を吊り上げていがみ合うブレイクルとホームラ。今にも戦いのコングが鳴らされようとしていた、その時だ。

 並の冒険者とは一線を画する大柄な体躯を持つ男が、向かい合う二人の真横に立っていた。

「邪魔だ、どけ」

 低く、唸るようなドスのきいた声がやけに響き、一瞬で酒場全体の雰囲気が氷点下まで下降する。何より皆ご存じ、その人物はこの冒険者ギルドにおいて最も立場の高い人間だったからだ。

「「あぁあんッ!? ――…………ち、ちわぁっす」」

 唯一、状況を理解できていなかったのは頭に血が昇っていた二人だけ。

 額を滑らし、変形するほど互いに頬を強くぶつけ、遠慮のない唾を吐いて――その男の正体に気づき真っ青に青ざめた。なぜか怯えるように抱き合っているが、それは彼らの矜持のためにも触れないでおこう。

 相対する男の影が落ちるほどの体格差、もはや青を通り越して真っ白な顔を強ばらせて咄嗟に変な挨拶が口をつくビビり様。そのシンクロした動きは年の差も相俟って親子のようだ。

「俺は今、気分が悪い。馬鹿共に構ってる余裕がない。いいか、三度目はないぞ……死にたくなかったら、そこを――どけ」

 時に、魔力とは『圧力』を伴うものである。
 筋肉質な体躯から迸る白の魔素マナは目に見えない魔力場に干渉し、その場の重力を何倍にも引き上げたような感覚を齎す。物理的な強制力を持った威圧に多くの者が顔を顰め、膝に手をつき、中には蹲ったり気絶したりする者もいた。

 それは言わずがもなブレイクルとホームラも同様であり、誰よりもその男の近くにいた双方の顔からは脂汗が滝のように流れていた。

「ぐっ……ちっと熱くなりすぎた。すまんかったな、マスター」

「ぃぐっ、くそっ! 邪魔すんなよギルドマスター!! このじじいが――ぐべぇらぁッ!?」

 そこで年季の差、第二級冒険者と第三級冒険者としての器の深さの差異が出た。
 素直に謝罪したブレイクルとは違い、それでも噛みつかんとするホームラは左目を跨ぐ三本のひっかき傷が特徴的な巨躯の男――ギルドマスターの鉄拳を喰らうことになった。

 冒険者組合テューミア支部を総括する人物。
 それこそがこの男――ヨキ・テューミアである。

 白目を剥いて吹き飛んだホームラはテーブルを三台続けて薙ぎ倒し、何脚かの椅子を粉砕し、そそくさと忍び足で逃げ出していた野次馬の集団に激突――人間が数人、木片と伴に四方へと吹き飛ぶという人間爆発を引き起こした。

 受付嬢が壊れたテーブルや捲れた床、冒険者が頭から刺さった壁を見て、えんえんと泣き出したのは誰のせいだろうか。一つ言っておくならば、これが上司と部下の実状である。秘められた格差社会である。

「……三度目はないといっただろうが、クソ餓鬼」

 遠方でピクピクと痙攣しているホームラを一瞥し、それだけ残すとヨキは出口へ向かって歩き出す。自然、逃げずに自分は関係ないですよアピールを全力でしていた野次馬はこせこせと道を空けた。

 何より今のヨキは戦争でもしに行くのかという程に完全武装、、、、だ。高位の魔物の素材で作られた防具に、背丈を超える大剣をしょっている。逆らう者がいればどのような末路を辿るのか、ホームラ君が身を以て実証してくれたじゃないかと。

「ヨキさんっ、待って下さい!」

「…………リオラ」

 と、いつにもなく物々しいヨキを呼び止める声があった。

 ヨキが振り返った先には、「ど、どいてください!」と人混みを慌ただしくかき分ける亜麻色の髪の女性――リオラ・エレガント。冒険者組合テューミア支部の副ギルドマスターだ。

 どうやら自分を止めに来たのだと悟ったヨキは、吊り上がった三白眼を細めて口を開く。若干気まずげな厳かな声。

「止めても無駄だぞ……俺にはこんなくだらない仕事なんかより大事なものがあるんだ。いくらお前の制止であっても、俺はエルウェ、、、、を探しに行く」

 その表情から断固として揺るがない意志が窺えた。

 一方で、ヨキの前に辿り着いたリオラは人混みに揉まれぼさぼさに荒れた髪を撫でつけ、傾いていた黒縁眼鏡を直しつつ優しい顔で微笑んだ。

「はぁ、はぁ……コホン。いいですかヨキさん。冒険者組合第二十五条、ギルドマスターに就く者は私情でギルドを離れてはいけない……それは知ってますよね?」

「ああ、勿論だ。だから俺はやめる覚悟で――」

 さらに眼を細めて煩わしそうにするヨキの耳元に、リオラの顔が急接近。艶やかな唇からでた言葉が、ヨキの耳朶を揺らした。

「約一週間前に生じた例の事件、、、、について、高位冒険者を派遣し詳細を報告せよと国から通達が来ています。その件を利用すれば、ギルドマスターが直々に調査に向かう、ということでギリギリ体面を保つが可能だと思うんです」

「……お前は頭が良いな」

「ヨキさんったら、エルウェちゃんのことになると周りが見えなくなるんですから。いつも助けて貰っているのは私の方ですよ」

 目を見開くヨキ。
 内緒話を終えた少女のような仕草で半歩下がり、後ろで腕を組むリオラはしみじみと告げた。

「それに、エルウェちゃんは私にとっても娘みたいなものですから」

 リオラはそう言って唇に手を当てて上目遣い。
 周囲を囲む幾人かの口から「か、可愛い」「天使か」「あざといぜ、リオラちゃん」「死ねギルドマスター」との声が上がった。

 そう、ヨキが完全武装で向かおうとしている場所は《荒魔の樹海クルデ・ヴァルト》。この時間帯になってもギルドへと帰還しないエルウェを探しに行くためだったのだ。

「……助かる」

 ヨキは目尻を下げ、リオラの頭をポンポンと二度ほど撫ででから、今度はやや落ち着きを取り戻した顔つきで歩き出す。ぼそりと「ほんと死ね、見せつけやがって。夫婦かよ――ぶへぇらぁっ!?」と呟いていた男冒険者はホームラの二の舞いになったが、見送るリオラは少しだけ頬を染めていた。

 と、よくわからないが、死地へ向かうような顔つきをしている我らがマスターを見送るしんみりした空気ができあがっていた時、バァンッというドデカい音を立ててギルドの扉が開かれた。

「ハァッ、ハァッ……リッ、リオラさんッ! リオラさんはいませんか!?」

 そして、息も絶え絶えにそう叫ぶ少女を見開いた三白眼に映したヨキは、立ち止まり呆然と彼女の名を呼ぶ。

「――エ、エルウェ……」
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