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第一章『人外×幻想の魔物使い』
第24話:動き出す殺戮
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「ひっ!? や、や、やややややばいってエルウェ! そうだと思った、なんか起こると思ってたんだよもう! 速く逃げないと、ねぇエルウェ!?」
「うーん……『吸収反射』はどのくらいの比率で反射するのかしら? 二分の一? 三分の一?」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ最高でさんばいだよぉぉおおおお!?」
「ええ!? そんなに……火属性限定的ではあるけど強力なスキルね……じゃぁこれは――、」
などと、自体の異常さに気づかないエルウェは慌てふためく僕を完全にスルーだ。仕返しか? 何かの仕返しなのかわざとなのか?
まずいってまずいまずいまずい。あの目はまずい、何かしら狂ってるヤツの目だ。
エルウェはステータスに夢中で使い物にならないようだ。
それならばと僕は全力で助けを求めようとカーバンクル大先輩を探すも――あれ、フラム先輩どこいった?
「ねぇエルウェ! 見て、あの像見て! お願いだから目を開けて見て! 僕はもう見たくないから見て! ていうか、ふ、フラム先輩がどこにもいないんだけど……っ!?」
「何よ、私は今新しいスキルをどう連携に活かすかを考えてるから忙しい……え? 何よ、フラムならあそこよ」
煩わしそうにしていたようやく瞳を開き、エルウェが指を差す。その延長線上を辿ってみれば――巨像の頭上で毛繕いする子猫の姿があった。
「フラム先輩ぃぃぃいぃいいいぃいいっっ!?」
「あァ? なんだァ新入りィ。急に叫びやがってビックリしたじゃねェかァ」
「びっくりしたのはこっちだよっ!? そんなとこで何やってるんですか早く帰ってきて下さい!? ほらハウス! ハウスだよフラム先輩!?」
「お前ェ……喧嘩売ってんのかァ? オレは犬型じゃなくて猫型だァ!!」
いやいやいやいやっ、そんなのどうでも良いからッ!? 大体フラム先輩、子猫って言われるの屈辱だって言ってたじゃん昨日!?
「あれ? あの像の目って光ってたかしら……? あ、わかった、わかっちゃったわ。エロ騎士さん……もしかして怖いの? そうなんでしょ?」
「ふぇ?」
「ふふ、ふふふ……意外と可愛いところもあるのね。なんだか安心したわ」
そう言って僕の頭を撫でてくるエルウェ。
何言ってんのぉ!? どこまで暢気なのぉこの二人!?
僕が驚愕のあまり面甲を激しく開け閉めしていると、ついにその不気味な巨像が動き出した。ごごごご、という硬い物が擦れる音に併せ、胡座の姿勢から腕をつき立ち上がる。まるで神殿自体が地震に見舞われたかのような衝撃だ。
「うおォあァッ、なんだなんだァ!?」
「へっ……な、な、ななななな何これ……? え? はぇ? ふぇ?」
遅まきながら二人も自体の異常性に気づいたようで、先に数メートル離れていた僕の元まで慌てて後退してきた。だから言ってるじゃん、アレはやばいって。遅いんだほんと。何してるんだよマジで。
「――――――――」
言語として認識できない不可思議な低音を響かせて、その巨像は神殿の天井を突き破り、こちらへと手を伸ばしてくる。押し潰されそうというような勢いはないが、明らかに狙ってきている。掴まれば握りつぶされるのだろう。
ということで、僕は急ぎエルウェの太股に抱きついた。
「早く逃げようよエルウェ!!」
「なんで私がぁぁぁあああっっ!?」
甲高い悲鳴を上げながら、エルウェは駆けだした。
フラム先輩もちゃっかり彼女の肩に乗っていたよ。
****** ******
「そうか……それは、なんというか、災難だったな……」
本当に殺戮しようとしてきたジェノサイド神殿から急ぎ逃げ出した僕たちは、やけに巨像の諦めが早いことに疑義を覚えながらも念のため早足で《モカの森》を出た。無論僕はエルウェの柔らかい太股に抱きついているだけだったけどね。責めるなら肩の上で状況を楽しんでた節のあるフラム先輩を責めるべき。
それにしても皇都の外れとは言え、あんな化け物が出るだなんて聞いてない。
報告とエルウェの日課を兼ねて、冒険者組合に寄ったわけだが……ここは先日訪れたばかりの面会室。一貫して微笑みを絶やさないリオラさんは置いておいて、ギルドマスターであるヨキ・テューミアの言葉がそれである。信じていない。まるで信じていない遠い目をしていた。
「ほんとよ、おじさん! すっごい大きな石像が動き出してこうドカーンって神殿を壊したんだから! こっちに腕を伸ばしてもうすっごかったんだから!!」
「わかった、わかったから落ち着けエルウェ……今日のうちに信頼できる冒険者を数人見に行かせる。もう大丈夫だ、大変だったな」
エルウェの乱れた髪、疲労の色が濃い顔、そしてよそよそしい態度を忘れて「おじさん」と呼ぶ程の混乱具合からしてただ事ではないと判断したのだろうか。ともあれ半信半疑ながらも動いてくれるあたり流石である。お堅い騎士団だとこうはいかない。証拠を出せの一点張りだからね。
「それにしてもエルウェ……フラムのヤツはちっこいから肩が定位置だったわけだろ? ……新しい眷属の定位置は、その、太股……にしたのか? いやどうこう言うつもりはないんだがな、俺もお前の育て親だから、まぁ、義娘の女子としての節操が心配でな……」
「い、言わないで、それは言わないで私が一番わかってるのよ……」
「そ、そうか……大変、なんだな?」
どんよりと落ち込んでいるエルウェの表情には影が落ちているが、若干耳が赤い。喜んでるみたいで何よりだ。僕も幸せだからうぃんうぃんだね。
ヨキさんからは不憫なものを見るような、痛々しい目を向けられているけど……え、いやいやここは僕の定位置ってもう決めたし。それに契約の前にくっついていいって約束したんだから離れないし。この後も魔物が出るまでしがみついている予定です。ええ、はい。僕は粘着テープのように一度張りついたら中々剥がれない男なんだ。
「ええ、すごく。すごくね……ふう。少し取り乱しました。急に押しかけてすみません、ヨキさん。今日も行ってきますね」
一度大きく息を吐いてから、エルウェは頬を数度パンパンと叩く。
次には冷静さを取り戻した、凜とした彼女の姿があった。
そんな彼女と相対したヨキさんは、うら寂しそうに目を細めて言の葉を交わす。
「……ああ……中域には?」
「行かない。眷属も増えたけど、まだちゃんと能力を把握できてないから」
「ああ、そうするべきだ……迷宮には?」
「入らない。もう少ししたら入っても良いかもしれないけれど……その時はヨキさんに報告するわ」
「そうしてくれると助かる。じゃあ異常事態が起きたら?」
「慌てない。今はフラムだけじゃなくて、エロ騎――この子もいるもの」
「えろ……? ま、まぁいい、それでまた、ゲスな冒険者に絡まれたら?」
「ついてかない。帰ってヨキさんに報告すれば、また血祭りにあげてくれるから」
「ははっ、あいつら泣いて謝罪してたぞ。黒の下着がどうたら言ってたからな、記憶が飛ぶまでボコボコにしてやった。安心しろ……それから、あいつらの支部はどこかキナ臭い。十分に気をつけろよ」
「ふふ……ええ、わかっています」
よくわからないが、リオラさんが微笑ましい様子で見守っている。
多分だけど、これはいつものやり取りなんだろうなぁと思わせられた。仲いいね。
にしても僕のファーストキスを奪った坊主頭を始めとする男三人組はヨキさんにボコられたのか……フラム先輩にもこっぴどくやられてたのにね。ちょっとだけ可哀想な気もしたけど、エルウェをひん剥こうとしたんだ。相応の罰だろうし、きっともう余計な手出しはしてこないはずだ。
……あの三人組は、だけどね。
寂しいのか悲しいのか辛いのか、いろんな感情がごちゃ混ぜになったような儚い表情を浮かべたヨキさんが、エルウェの頭へおもむろに手を置いた。
「……もし、ギルドへ帰ってこれなかった時は?」
「……そんなこと言わないで、おじさん。今日も必ず、ギルドへ帰ってくるわ」
それは安心させようという響き。親しみの籠もったそのエルウェの返答を聞いても、ヨキさんの表情は晴れない。
なんだかもやもやしたから、口を出すことにした。
「――僕がいる」
「…………何だって?」
驚いたのかエルウェが目を瞠り、ヨキさんが興味深そうに肩眉を上げた。
僕は少女の太股に抱きついているという酷くシュールな格好であることを棚に上げ、エルウェ並の大きさに胸を張るような気持ちで言ってやった。
「僕がいるって言ったんだ。そんなに心配しなくても、エルウェは僕が守る。死なせたりなんかしない。絶対にギルドに還してみせる。この胸の紋章に誓って……だから、そうだな。おじさんは暢気にエルウェが黒の下着しか着けない理由でも考えてればいいさ」
「~~~~~~っっ!? し、白だってたまにはつけるわよッ!?」
顔を真っ赤に茹で上げたエルウェがムキになって怒鳴る。
僕は珍しく真剣に思索、そして親指をビシッと立てた。
「白!? 白か、白ねぇ……うん、白もイイネっ!!」
「この馬鹿ぁ! エロ騎士っ! ほんと、ほんとっ……馬鹿なんだから……っ」
憤慨した様子のエルウェ。
だけどいつになく嬉しそうな表情をしているなと気づいたのは、きっと僕だけじゃないはずだ。
「そうか……そうだな。エルウェを頼んだぞ、鎧の眷属。フラムもな」
心持ち笑みになったヨキさんと優しく微笑むリオラさんに見送られ、僕たちは初めての冒険へと出発する。
ここから、ここから始まるんだ。僕たちの冒険が。
運命の導きによって、こんなちんけな鎧の魔物に転生し、美少女の元まで辿り着いた。きっとこれから様々な困難が押し寄せるに決まってる。
そういう宿命。そういう定め。そういう天運の元に生まれたからには。
それらを全て乗り越えた未来に待つのはきっと『希望』だと思うから――、
「『人外×少女』万歳っ! うぉおお頑張るぞぉおーっ!!」
「んっ!? それやめてって言ってるでしょ!?」
僕は内心興奮を抑えきれず、太股に面甲を押しつけてそう叫んだ。
そして、偉大なる物語を綴るための最初の一ページを、『人外』が『少女』へ歩み寄るための最初の一歩を今、踏み出した。
――いや踏み出したのはエルウェだけどさ。
「うーん……『吸収反射』はどのくらいの比率で反射するのかしら? 二分の一? 三分の一?」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ最高でさんばいだよぉぉおおおお!?」
「ええ!? そんなに……火属性限定的ではあるけど強力なスキルね……じゃぁこれは――、」
などと、自体の異常さに気づかないエルウェは慌てふためく僕を完全にスルーだ。仕返しか? 何かの仕返しなのかわざとなのか?
まずいってまずいまずいまずい。あの目はまずい、何かしら狂ってるヤツの目だ。
エルウェはステータスに夢中で使い物にならないようだ。
それならばと僕は全力で助けを求めようとカーバンクル大先輩を探すも――あれ、フラム先輩どこいった?
「ねぇエルウェ! 見て、あの像見て! お願いだから目を開けて見て! 僕はもう見たくないから見て! ていうか、ふ、フラム先輩がどこにもいないんだけど……っ!?」
「何よ、私は今新しいスキルをどう連携に活かすかを考えてるから忙しい……え? 何よ、フラムならあそこよ」
煩わしそうにしていたようやく瞳を開き、エルウェが指を差す。その延長線上を辿ってみれば――巨像の頭上で毛繕いする子猫の姿があった。
「フラム先輩ぃぃぃいぃいいいぃいいっっ!?」
「あァ? なんだァ新入りィ。急に叫びやがってビックリしたじゃねェかァ」
「びっくりしたのはこっちだよっ!? そんなとこで何やってるんですか早く帰ってきて下さい!? ほらハウス! ハウスだよフラム先輩!?」
「お前ェ……喧嘩売ってんのかァ? オレは犬型じゃなくて猫型だァ!!」
いやいやいやいやっ、そんなのどうでも良いからッ!? 大体フラム先輩、子猫って言われるの屈辱だって言ってたじゃん昨日!?
「あれ? あの像の目って光ってたかしら……? あ、わかった、わかっちゃったわ。エロ騎士さん……もしかして怖いの? そうなんでしょ?」
「ふぇ?」
「ふふ、ふふふ……意外と可愛いところもあるのね。なんだか安心したわ」
そう言って僕の頭を撫でてくるエルウェ。
何言ってんのぉ!? どこまで暢気なのぉこの二人!?
僕が驚愕のあまり面甲を激しく開け閉めしていると、ついにその不気味な巨像が動き出した。ごごごご、という硬い物が擦れる音に併せ、胡座の姿勢から腕をつき立ち上がる。まるで神殿自体が地震に見舞われたかのような衝撃だ。
「うおォあァッ、なんだなんだァ!?」
「へっ……な、な、ななななな何これ……? え? はぇ? ふぇ?」
遅まきながら二人も自体の異常性に気づいたようで、先に数メートル離れていた僕の元まで慌てて後退してきた。だから言ってるじゃん、アレはやばいって。遅いんだほんと。何してるんだよマジで。
「――――――――」
言語として認識できない不可思議な低音を響かせて、その巨像は神殿の天井を突き破り、こちらへと手を伸ばしてくる。押し潰されそうというような勢いはないが、明らかに狙ってきている。掴まれば握りつぶされるのだろう。
ということで、僕は急ぎエルウェの太股に抱きついた。
「早く逃げようよエルウェ!!」
「なんで私がぁぁぁあああっっ!?」
甲高い悲鳴を上げながら、エルウェは駆けだした。
フラム先輩もちゃっかり彼女の肩に乗っていたよ。
****** ******
「そうか……それは、なんというか、災難だったな……」
本当に殺戮しようとしてきたジェノサイド神殿から急ぎ逃げ出した僕たちは、やけに巨像の諦めが早いことに疑義を覚えながらも念のため早足で《モカの森》を出た。無論僕はエルウェの柔らかい太股に抱きついているだけだったけどね。責めるなら肩の上で状況を楽しんでた節のあるフラム先輩を責めるべき。
それにしても皇都の外れとは言え、あんな化け物が出るだなんて聞いてない。
報告とエルウェの日課を兼ねて、冒険者組合に寄ったわけだが……ここは先日訪れたばかりの面会室。一貫して微笑みを絶やさないリオラさんは置いておいて、ギルドマスターであるヨキ・テューミアの言葉がそれである。信じていない。まるで信じていない遠い目をしていた。
「ほんとよ、おじさん! すっごい大きな石像が動き出してこうドカーンって神殿を壊したんだから! こっちに腕を伸ばしてもうすっごかったんだから!!」
「わかった、わかったから落ち着けエルウェ……今日のうちに信頼できる冒険者を数人見に行かせる。もう大丈夫だ、大変だったな」
エルウェの乱れた髪、疲労の色が濃い顔、そしてよそよそしい態度を忘れて「おじさん」と呼ぶ程の混乱具合からしてただ事ではないと判断したのだろうか。ともあれ半信半疑ながらも動いてくれるあたり流石である。お堅い騎士団だとこうはいかない。証拠を出せの一点張りだからね。
「それにしてもエルウェ……フラムのヤツはちっこいから肩が定位置だったわけだろ? ……新しい眷属の定位置は、その、太股……にしたのか? いやどうこう言うつもりはないんだがな、俺もお前の育て親だから、まぁ、義娘の女子としての節操が心配でな……」
「い、言わないで、それは言わないで私が一番わかってるのよ……」
「そ、そうか……大変、なんだな?」
どんよりと落ち込んでいるエルウェの表情には影が落ちているが、若干耳が赤い。喜んでるみたいで何よりだ。僕も幸せだからうぃんうぃんだね。
ヨキさんからは不憫なものを見るような、痛々しい目を向けられているけど……え、いやいやここは僕の定位置ってもう決めたし。それに契約の前にくっついていいって約束したんだから離れないし。この後も魔物が出るまでしがみついている予定です。ええ、はい。僕は粘着テープのように一度張りついたら中々剥がれない男なんだ。
「ええ、すごく。すごくね……ふう。少し取り乱しました。急に押しかけてすみません、ヨキさん。今日も行ってきますね」
一度大きく息を吐いてから、エルウェは頬を数度パンパンと叩く。
次には冷静さを取り戻した、凜とした彼女の姿があった。
そんな彼女と相対したヨキさんは、うら寂しそうに目を細めて言の葉を交わす。
「……ああ……中域には?」
「行かない。眷属も増えたけど、まだちゃんと能力を把握できてないから」
「ああ、そうするべきだ……迷宮には?」
「入らない。もう少ししたら入っても良いかもしれないけれど……その時はヨキさんに報告するわ」
「そうしてくれると助かる。じゃあ異常事態が起きたら?」
「慌てない。今はフラムだけじゃなくて、エロ騎――この子もいるもの」
「えろ……? ま、まぁいい、それでまた、ゲスな冒険者に絡まれたら?」
「ついてかない。帰ってヨキさんに報告すれば、また血祭りにあげてくれるから」
「ははっ、あいつら泣いて謝罪してたぞ。黒の下着がどうたら言ってたからな、記憶が飛ぶまでボコボコにしてやった。安心しろ……それから、あいつらの支部はどこかキナ臭い。十分に気をつけろよ」
「ふふ……ええ、わかっています」
よくわからないが、リオラさんが微笑ましい様子で見守っている。
多分だけど、これはいつものやり取りなんだろうなぁと思わせられた。仲いいね。
にしても僕のファーストキスを奪った坊主頭を始めとする男三人組はヨキさんにボコられたのか……フラム先輩にもこっぴどくやられてたのにね。ちょっとだけ可哀想な気もしたけど、エルウェをひん剥こうとしたんだ。相応の罰だろうし、きっともう余計な手出しはしてこないはずだ。
……あの三人組は、だけどね。
寂しいのか悲しいのか辛いのか、いろんな感情がごちゃ混ぜになったような儚い表情を浮かべたヨキさんが、エルウェの頭へおもむろに手を置いた。
「……もし、ギルドへ帰ってこれなかった時は?」
「……そんなこと言わないで、おじさん。今日も必ず、ギルドへ帰ってくるわ」
それは安心させようという響き。親しみの籠もったそのエルウェの返答を聞いても、ヨキさんの表情は晴れない。
なんだかもやもやしたから、口を出すことにした。
「――僕がいる」
「…………何だって?」
驚いたのかエルウェが目を瞠り、ヨキさんが興味深そうに肩眉を上げた。
僕は少女の太股に抱きついているという酷くシュールな格好であることを棚に上げ、エルウェ並の大きさに胸を張るような気持ちで言ってやった。
「僕がいるって言ったんだ。そんなに心配しなくても、エルウェは僕が守る。死なせたりなんかしない。絶対にギルドに還してみせる。この胸の紋章に誓って……だから、そうだな。おじさんは暢気にエルウェが黒の下着しか着けない理由でも考えてればいいさ」
「~~~~~~っっ!? し、白だってたまにはつけるわよッ!?」
顔を真っ赤に茹で上げたエルウェがムキになって怒鳴る。
僕は珍しく真剣に思索、そして親指をビシッと立てた。
「白!? 白か、白ねぇ……うん、白もイイネっ!!」
「この馬鹿ぁ! エロ騎士っ! ほんと、ほんとっ……馬鹿なんだから……っ」
憤慨した様子のエルウェ。
だけどいつになく嬉しそうな表情をしているなと気づいたのは、きっと僕だけじゃないはずだ。
「そうか……そうだな。エルウェを頼んだぞ、鎧の眷属。フラムもな」
心持ち笑みになったヨキさんと優しく微笑むリオラさんに見送られ、僕たちは初めての冒険へと出発する。
ここから、ここから始まるんだ。僕たちの冒険が。
運命の導きによって、こんなちんけな鎧の魔物に転生し、美少女の元まで辿り着いた。きっとこれから様々な困難が押し寄せるに決まってる。
そういう宿命。そういう定め。そういう天運の元に生まれたからには。
それらを全て乗り越えた未来に待つのはきっと『希望』だと思うから――、
「『人外×少女』万歳っ! うぉおお頑張るぞぉおーっ!!」
「んっ!? それやめてって言ってるでしょ!?」
僕は内心興奮を抑えきれず、太股に面甲を押しつけてそう叫んだ。
そして、偉大なる物語を綴るための最初の一ページを、『人外』が『少女』へ歩み寄るための最初の一歩を今、踏み出した。
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