46 / 57
第一章『人外×幻想の魔物使い』
第25話:良い義母を持ったなエルウェよ
しおりを挟む厚い鈍色の空。
視界を白く引き裂く斜線。
ザァザァと、叩きつけるような音が絶え間なく兜の耳朶を打つ。
「…………」
「…………」
「…………雨、ね」
うん、まぁ……何て言うか、ねぇ? エルウェが言ったことが全てだ。
意気揚々と初陣への一歩を踏み出した僕たち一行だったが、いざ入り口とは反対側の出口扉を開いてみれば――うん、土砂降りだね。すごい雨降ってるよ、前が見えないよ何だこれ。
「……さっきまで雨ふってなかったンだがなァ……通り雨かァ?」
「どうかしら……天気を予測することができる魔導士も世界にはいるって噂だけど、ヒースヴァルムにはいないからどうしようもないわ。でもこれ、やまなそうね?」
たかが雨と侮ることなかれ。
この季節に降る雨は極めて冷たく、油断していると低体温症になって危険だ。
雨の中戦闘を継続していた冒険者が急に目眩や頭痛を発症し、低体温による血管の収縮の為に血行が悪化。引き起こされる脳へ酸素・栄養不足で意識が朦朧としたら最後、魔物の餌になるなんて話はよく聞く。猛暑日の熱中症と併せて、危険視するべき見えざる天然の陥穽なのである。
僕は太股にしがみついた格好のまま、雨降る世界を見て紫紺の瞳を細めさせた。
「うんうん……帰ろっか」
****** ******
「ここに僕の後輩がいるんだね」
と、雨が弱まるのを待ってから、エルウェの友達らしい女冒険者パーティーが使う予定だった幌馬車に同乗させてもらい、辿り着いたのがとある一軒家。
並の建物よりは些か大きいかな、けれど魔物の素材とかテカテカする魔導具のファザードとかはないため清楚さを感じるかな、という印象。レトロな魔導ランプが一つ提げられた煉瓦造りの家の玄関に腕を組んで立ち、そんな偉そうなことを言っている僕。
雨にげんなりした僕たち一行がギルド併設の酒場で談笑していた時、ぼろ宿に帰る前に寄りたいところがあるの、とエルウェが提案したのがここに来た経緯だ。
なんでも、ここにもう一人、エルウェの眷属がいるらしいのだとか。
「うーん。後輩っていうか、一応先輩なんだけどまだ孵ってないっていうか……なんであなたはそんなに先輩風を吹かせる気まんまんなのよ」
「ええ! でもまだ『召喚獣の原石』から孵ってないんでしょ? じゃあ後輩じゃん! 僕の背中を見てマジパネェッス! ってきらきらした眼差しで見てくる可愛い後輩じゃん! 因みに女の子の!」
呆れ礼に来たような顔で力説する僕を見下ろすエルウェ。
肩に乗っていたフラム先輩がハッ、と鼻を鳴らした。
「相変わらずの欲望にまみれた想像力だなァ……まぁオレの後輩ではあってもォ、お前にとっちゃ先輩だなァ、敬えよ新入りィ」
「そぉんな馬鹿なぁ――ッ!?」
昨日仮契約を済ませたばかりの身ではあるけれど、さっそく魔物使いの眷属として可愛い後輩が出来るイベントだと思ったのに。女の子だったら尊敬の眼差しを送ってもらえるように格好つけて、男だったらこき使ってやろうと思ったのに。残念無念。
僕が四つん這いになって落ち込んでいるのをそっちのけに、扉の正面に着いていた狼型のドアノッカーをコンコンと鳴らすエルウェ。しばらくしてふんわりした身体付きの熟年の女性が現れ、何か親しげに話している。
ああ、でもでも、馬車の中で女冒険者達に散々「可愛い」だとか「ペットにしたい」だとか「私の下僕になる?」だとか言われてもみくちゃにされてたわけで、心理的な充足感としては差し引きしてもプラスだな……なんて割り切った僕の立ち直りは早いのだ。流石である。
仕方がないからおばさんと話し込んでいるエルウェに近づき、足を伝ってよじよじと登り太股の定位置についた。うんうん、相変わらず柔らかい弾力に仄かな女の子の香りが堪りません。頬をスリスリしておこう。
「ひゃっ! ま、またこの子は……」
「あらあら、この可愛い騎士さんが例の?」
「ええ、叔母さんもヨキさんに……叔父さんに聞いたのね? そうなの、こんな感じでどうしようもなく煩悩に……や、人肌が恋しいみたいで」
「あらあら、可愛いじゃないの」
うふふ、と綺麗に笑った熟年の女性。
ぺこりと頭だけでお辞儀をしつつ、それにしてもと先の言葉を反芻する。叔母さん、ヨキさん、叔父さん、この叔母さんは叔父さんに聞いた、叔父さんはヨキさん――え、まじで。
「……ここ、ヨキさんの家?」
「そうよ。私が今の宿を借りて独り立ちするまで、お世話になっていた所。ほらエロ騎士、あなたもちゃんと挨拶しなさい」
どうやらその通りだったらしい。
ええ、ヨキさんって独身じゃなかったんだ? 男は皆そろって独身だと思ってるというか思いたい僕には理解できないや。
そうか、でもここがエルウェが育った家庭なのか。それならばしっかり挨拶をしなくてはね。近い将来娘さんを下さいって言いに来ないといけないんだから。
「こんにちは。僕はエルウェの新しい眷属になった流浪の白鎧。あ、でもでも最近太股に腰を据えるって決めたから流浪はやめたんだ。名前はまだない。エルウェはお嫁さんにもらうね。どうぞよろしくー」
肩を跳ねさせて「ふぇっ!?」と驚くエルウェ。初なやつよ。
一方で、目の前の女性はその慈愛の籠もった微笑みを絶やさなかった。
「あらあら、ふふふ。私はサエって言うのよ。サエ・テューミア。知っているかもしれないけれど、そこの冒険者組合のギルドマスターをやっているヨキ・テューミアの妻です。エルウェをよろしくね、可愛い騎士さん?」
と、承認してくれるまである。
素晴らしい義母を持ったな、エルウェよ……
自己紹介を終えた一同はサエさんの案内の元家の中へ招き入れられた。その際「そうね、名前を考えなくちゃ……」などとぶつぶつ呟いていたエルウェに、僕は前を歩くサエさんを見ながら言った。
「ヨキさんって独身の寂しさのあまり義娘愛を拗らせた残念な人って訳じゃなかったんだね」
「そういうこと言うのやめなさいっ!?」
あらあら、うふふ、とサエさんが笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる