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1章 転生、エルフの里編
メシア
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「薬…」
僕はベッドの横にある錠剤に手を伸ばす。
まだ薄暗い景色の中、ベッドの横の小さな机の上に置いてあるピルケースを手探りで手に取った。
「これのせいで僕は…いや、これのおかげで生きているのもあるのか…」
寝起きで頭がぼんやりとする。
しかし身体が求めてしまい、震える手で錠剤を一つだけ取り出す。
メシアと呼ばれる薬で、ある病気の特効薬として生まれたこの薬は世界で瞬く間に広まった。
そして1年後、その病気は世界から消えてパンデミックは終息に向かう。
だがしかし、新たな問題が発生した。
メシアを服用した際の副作用で、多幸感を得る。
そう、メシアに依存する者が急増したのだ。
皮肉な物で救世主の名前を授けられた薬が、最悪の薬害をもたらした。
もちろん新たに依存性のない薬が作られたが、1年という時間は自分にとって長すぎた。
そう、とっくに染まり切っていたのだ。
薬が抜けてくると身体が震える。そして震えを止める為に薬を飲む。その日常の繰り返し。
既に病気は完治してるのにまた購入してしまう。
「この薬が無くなったら、もう…」
ーー死のう
心の中で呟き、水で錠剤を喉の奥に流し込む。
俺が6歳の頃に両親は死んだ。交通事故だそうで、俺はほとんど覚えていない。
一人っ子の俺を大事にしてくれていた本当に良い両親だったそうだ。
その後は母方の爺ちゃんに引き取られて、高校を卒業するまで育ててくれた。
その後は就職の為に上京して一人暮らしを始めた。
少ないながらも爺ちゃんに仕送りをして、ブラックな職場ながら、そこそこ充実した生活をしていたと思う。
でも、あの病気のせいで全てを失ったのだ。
彼女はいたが、副作用の治療中に別の男を作って一方的に別れを告げられた。
職場も、居場所も、身体も。
文字通り、全てを失ったんだ。
全て…全て…全てだ。
「ああ…飲みたくないのに…もう、嫌なのに…」
病気になってから仕事も出来なくなり、世間体もあり、田舎で猟師の爺ちゃんの手伝いをしながら療養していたが、やはり狭いコミュニティだ。
35歳で都会から、しかも仕事という仕事もせずに山遊びかと、この町で噂が広がるのも仕方がない。
「宏人、悪いが明日からは連れて行けんくなった。猟友会の連中に病人を連れて山に入れるなと言われてしまってな。すまない…本当にすまないな…。」
わかっていた。
爺ちゃんが周りの人間から庇ってくれて、内緒で山に連れて行ってくれていた事。
そのせいで、猟友会でも孤立していってる事。
「気にしないでよ!危ないのはわかってたし、他のハンターさんに迷惑かけたくないしさ!…それに家でも解体は手伝えるからさ!」
夕飯後に酒を飲みながら話した内容が頭に浮かぶ。
薬が効き始め、震える手が止まって脳内がクリアになっていく。
「爺ちゃん、俺がいるせいでごめん。でももう迷惑はかけたくないんだよ。」
晴やかな気持ちだった。
ピルケースから残りの錠剤を全て口に放り込み、齧るように喉の奥に流し込む。
「よし、遺書も書いた。俺の遺産、といっても仕事してた残りの貯金だけど、こんな糞みたいな薬を買うよりも爺ちゃんの為に残したいしなぁ。軽トラも古くなったしこれで買い替えてくれよ。」
今まで経験した事のない多幸感に包まれ、締まりのない笑みを浮かべてしまう。
「えへへ、爺ちゃんごめんね。ひへっ。ひへへ。」
涙が止まらない。こんなにふわふわ気持ちいいのになんで?
多幸感に包まれながら、意識が遠のいていく。
「ああ…狩り…ひへっ…ひとりでいちにんまえに…ひへっへ…やれるように…」
そう、一人前になりたかった。
爺ちゃんに自慢の孫だって言われたかった。
一人で狩った獲物を爺ちゃんに自慢したかった。
爺ちゃん、本当に有難う。そして、ごめんね。
ーーそして、俺の意識はそのまま暗闇につつまれた
僕はベッドの横にある錠剤に手を伸ばす。
まだ薄暗い景色の中、ベッドの横の小さな机の上に置いてあるピルケースを手探りで手に取った。
「これのせいで僕は…いや、これのおかげで生きているのもあるのか…」
寝起きで頭がぼんやりとする。
しかし身体が求めてしまい、震える手で錠剤を一つだけ取り出す。
メシアと呼ばれる薬で、ある病気の特効薬として生まれたこの薬は世界で瞬く間に広まった。
そして1年後、その病気は世界から消えてパンデミックは終息に向かう。
だがしかし、新たな問題が発生した。
メシアを服用した際の副作用で、多幸感を得る。
そう、メシアに依存する者が急増したのだ。
皮肉な物で救世主の名前を授けられた薬が、最悪の薬害をもたらした。
もちろん新たに依存性のない薬が作られたが、1年という時間は自分にとって長すぎた。
そう、とっくに染まり切っていたのだ。
薬が抜けてくると身体が震える。そして震えを止める為に薬を飲む。その日常の繰り返し。
既に病気は完治してるのにまた購入してしまう。
「この薬が無くなったら、もう…」
ーー死のう
心の中で呟き、水で錠剤を喉の奥に流し込む。
俺が6歳の頃に両親は死んだ。交通事故だそうで、俺はほとんど覚えていない。
一人っ子の俺を大事にしてくれていた本当に良い両親だったそうだ。
その後は母方の爺ちゃんに引き取られて、高校を卒業するまで育ててくれた。
その後は就職の為に上京して一人暮らしを始めた。
少ないながらも爺ちゃんに仕送りをして、ブラックな職場ながら、そこそこ充実した生活をしていたと思う。
でも、あの病気のせいで全てを失ったのだ。
彼女はいたが、副作用の治療中に別の男を作って一方的に別れを告げられた。
職場も、居場所も、身体も。
文字通り、全てを失ったんだ。
全て…全て…全てだ。
「ああ…飲みたくないのに…もう、嫌なのに…」
病気になってから仕事も出来なくなり、世間体もあり、田舎で猟師の爺ちゃんの手伝いをしながら療養していたが、やはり狭いコミュニティだ。
35歳で都会から、しかも仕事という仕事もせずに山遊びかと、この町で噂が広がるのも仕方がない。
「宏人、悪いが明日からは連れて行けんくなった。猟友会の連中に病人を連れて山に入れるなと言われてしまってな。すまない…本当にすまないな…。」
わかっていた。
爺ちゃんが周りの人間から庇ってくれて、内緒で山に連れて行ってくれていた事。
そのせいで、猟友会でも孤立していってる事。
「気にしないでよ!危ないのはわかってたし、他のハンターさんに迷惑かけたくないしさ!…それに家でも解体は手伝えるからさ!」
夕飯後に酒を飲みながら話した内容が頭に浮かぶ。
薬が効き始め、震える手が止まって脳内がクリアになっていく。
「爺ちゃん、俺がいるせいでごめん。でももう迷惑はかけたくないんだよ。」
晴やかな気持ちだった。
ピルケースから残りの錠剤を全て口に放り込み、齧るように喉の奥に流し込む。
「よし、遺書も書いた。俺の遺産、といっても仕事してた残りの貯金だけど、こんな糞みたいな薬を買うよりも爺ちゃんの為に残したいしなぁ。軽トラも古くなったしこれで買い替えてくれよ。」
今まで経験した事のない多幸感に包まれ、締まりのない笑みを浮かべてしまう。
「えへへ、爺ちゃんごめんね。ひへっ。ひへへ。」
涙が止まらない。こんなにふわふわ気持ちいいのになんで?
多幸感に包まれながら、意識が遠のいていく。
「ああ…狩り…ひへっ…ひとりでいちにんまえに…ひへっへ…やれるように…」
そう、一人前になりたかった。
爺ちゃんに自慢の孫だって言われたかった。
一人で狩った獲物を爺ちゃんに自慢したかった。
爺ちゃん、本当に有難う。そして、ごめんね。
ーーそして、俺の意識はそのまま暗闇につつまれた
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