天国は空の向こう

ニーナローズ

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第三章

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 授業の一環として課外授業、というものがある。
 これは将来の為の授業だ。学生の内から自らの力で行動し、自分で決めた目標を完遂する。
 将来、働き出したとしても問題ないようにする為、または適性を見極める為の準備期間といったものだ。自分には何が向いていて、何が苦手なのか、そういった得手不得手の確認も兼ねている。
 しかも学園が連携して、国やギルドが全面的に協力態勢をとっているので報酬もちゃんと出る。生徒達は安心して授業をこなすことが出来るシステムになっていた。
 選択制での課外授業なので生徒側は好きなように選ぶことが出来る。
 イツトリが選択しているのは、トレジャーハント。
 主に遺跡調査を専門としているハンターだ。
 華々しい活躍ができる騎士団や、魔獣退治を主な仕事とする魔獣ハンターが体験できるギルドと違い、イツトリが選択しているトレジャーハントは非常に人気が低かった。
 危険な上に報酬はあるかわからない仕事だから、という理由もある。古代の遺跡は危険が多い。自前情報もほとんどない以上、選ばれる理由がないのだ。
 ただし選択科目としてある以上、一定の人気はあるようだ。
 例えばそう、奇特な趣味を持っている奴らとか。
「空中庭園?」
「そう。今、気流の流れに乗ってちょうど学園の上に来てるんだよね」
 ぴ、と指を真上に立てた教授はそのまま指を振る。
「その空中庭園の外側に生えている【雪晶華(レンドフルール)】を一輪採取してきて。それが今回の課題です」
「空中庭園ってアレですよね。天然要塞っつーか、明らかに人工物の砲台がガチャガチャ狙ってくる浮遊島ですよね」
 ちなみに。
 イツトリと同じく委員長もトレジャーハントを選択していた。彼女の場合もきちんとした理由がある。トレジャーハントの醍醐味はなんと言っても遺跡調査。そして歴史ある遺物の発掘などなど。歴史研究がしたい彼女にとって遺跡を専門とするトレジャーハントは望み通りと言っていい。
 イツトリと同じ授業なのでこれまた彼が委員長に付き纏っているとされる理由の一つに数えられる。
「そう。その天然要塞の空中庭園。人ならざる者が作ったって言われてるんだよね。学園でも解明されていない遺跡なのさ」
「管理者とかいるのか?」
「人間の管理者はいないよ。精霊はいるみたいだね」
「精霊」
 人間と同じような心を持ち、だが人間とは決定的に違う存在だ。契約する者もいるらしいが、何せ気難しいので特異魔術でも召喚は非常に難しい。そんな存在が、番人代わり。
 普通に鉢合わせしただけで殺されかねない。
「うん。番人、というよりはただ単に気に入って居座っているだけだとは思うけど」
「それでも精霊だ。縄張りを荒らされれば怒る。あいつらはこっちの都合なんてお構いなしだぞ。話し合いなんて次元じゃない。そもそも入った時点で敵認定されちまう。俺は精霊と殴り合えるけどやりあって良いわけ?」
「だから外に生えている【雪晶華】だけを持ってこいって課題なの。中に入ったって学生の能力じゃ死ぬだけだしね。好奇心に負けて入っちゃったりしたらそれは自業自得だけどさ」
 外側は許すけど中に入ったら完全な敵対行動と見做される、ということか。縄張りは縄張りなので恐らく外側にいても関係なく襲われるはずだが。
「腕試しというか、そこまで真剣に襲ってこないよ。精霊にとって中に入られるのがアウトらしいから。島の外側の付いている砲台も、明確な敵対行動を取らなければ特に問題ないよ。難攻不落の天然要塞だったらそもそも課題に通りません」
「ふむ、安全性は確保しつつ、ただ上に行って取ってくるだけではない、と。あまりに困難がないというのもそれはそれで授業として成り立たないんでしょう。私は構いませんよ。イツトリくん。ぜひとも空中庭園に行ってみたいです」
「委員長がそういうなら良いけどさ」
「じゃあトランジア君とチームを組んで行くって申請しとくねー」
 課外授業のこなし方は自由だ。それこそ一人でやれる自信があるなら一人でこなしても良いし、複数人で協力しても良い。
 ちなみに討伐対象が決められているバウンディング・ハンターや、未開の土地を地図にしていくフィールド・ハンター、魔獣を研究するテイマーなどは協力して事にあたることが多かったりする。
 そんなこんなでライヤーに課外授業の申請を終わらせた二人は並んで廊下を歩いていた。
「委員長」
「なんですか、イツトリくん」
「委員長ってさ、えーっと、あー……誰だっけな、黒髪で、なんか高飛車な、人間……知ってる?」
「イツトリくん。それだけだと山ほど当てはまりますが。せめて性別を。女性ですか?男性ですか?」
「女。委員長のことが好きな奴」
「あらぬ誤解を招きそうな言い方ですが、良いでしょう。黒髪で高飛車、ということは性格がキツめの方ですね。イツトリくんに突っかかりそうな方で言うと、生徒会の方でしょうか?」
「あ、そうそう。なんかそんなことを言っていた気がする。多分。覚えてないけど」
「相手の方が不憫に思えるほどの興味のなさ」
「覚えておくほどの価値がないだろう。どうでも良い」
「否定はしませんが。生徒会で黒髪の女性、高飛車な性格となるとヴァイオレット・ジェムニさんでしょう。彼女がどうしました?」
「俺は委員長に相応しくないから叩き潰すってさ」
 さらりと言うと委員長は何度か目を瞬かせた。
「それは、また、……なんというか、命知らずな方ですね?」
「あれ?委員長オトモダチじゃねぇの?」
「友人というほどの関係性は築いていませんよ。クラスメイト程度の付き合いぐらいでしょうか?私は基本、イツトリくんとしか行動していませんし……」
「俺も俺だが、委員長もなかなかだと思うんだ」
 こっちこそ相手が不憫に思えてくる興味のなさである。委員長的にはクラスメイト以外何でもないのだろう。声をかけられてもこんにちは、と世間話で終わりかねない。
 だが委員長の性格だと自分は友人であると勘違いしちゃう奴が大勢いるのである。罪な委員長であった。
 そこまで考えてイツトリは首を傾げる。
「あれ?委員長のせいで俺がやっかみ受けてるんじゃないか?」
「イツトリくんのやる気がないからでは?」
「俺のやる気と委員長の交友関係は関係ないだろ」
「やる気に満ち溢れていれば多少は緩和されるかと思いますけど」
「普通に暑苦しいのが側にいるなんてって言われて排斥されるのがオチだよ」
「そうなんですかねぇ」
「そうだよ」
「それで、イツトリくん」
 豊かな胸の前で両腕を組んだ彼女は横を歩く少年を見上げた。
「何?」
「彼女、どうするんですか?次の対戦相手なんでしょう?」
「ぶっ飛ばすだけだが?だから手を出すなよ、委員長。アレは俺達の獲物だ」
 そう言って、イツトリは獰猛な笑みを浮かべた。捕食者の笑みだ。目をつけられた相手は可哀想に、と哀れみを覚えながら委員長はため息を吐き出した。
「やり過ぎないように」
「勿論。楽しまないとな?」
 そういう意味じゃない、と眦を吊り上げる委員長にイツトリはケラケラと笑い声を返した。
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