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もはや辿り着けない
いきなり過ぎる命の危機
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そうと決まればと風呂から出る。今さっき湯船に入ったばかりなのに一緒に来てくれるジョセフに急に元気になったな困惑するアナに気を遣いながら、とっとと服を着ることにした。
……
………
……………
「で、明日のお菓子作りのために食堂のキッチンをお借りしたいと?」
「おう。できれば朝イチがいい」
「あいわかった。朝の7時ぐらいなら話つけられそうやな、シェフには話通しとくわ」
お風呂上がりでスターに髪を乾かしてもらった後、一応心配して寮まで来てくれたらしい学園長の所へと足を運び、明日のキッチンの使用許可を貰いにきていた。ゆるーい関西弁で信じられないぐらい爆速で許可が降りた。この男のせいで散々な目にあったものの、ただちょっかい掛けてるだけじゃなかったようだ。現に最初の頼み事、元の世界への帰り方と魔導書の件について信用のおける異世界学の先生に相談してくれたらしい。わかったことがあれば学園長の魔式携帯電話から知らせてくれるとのこと。
「どうせ明日のことやけん、今日はとりあえず部屋で寝とき。せっかく許可出したのに寝坊されたら困るわ」
学園長は談話室の生徒達にゲームの誘いを受けたのがよっぽど嬉しかったのか、まだ用があるけんとワクワクしていた。スターとジョセフに部屋まで送ると言われて談話室を出る時も、学園長はヒラヒラと手を振ってくれた。
これもまた学園長の計らいなのか、俺の部屋はスターの隣にある個室だった。もう一つの隣は空室だったものの、近くにスターがいるのは有り難かった。
「……そういや初めて自室で寝るな」
「そ、そういえば」
「昨日はスターの部屋だったからな」
部屋についた後、あまりの疲れから制服でベッドにダイブする。そのまま大の字に寝転ぶと、2人の着替えたほうがいいという助言も他所に少しずつ眠くなってくる。ふわふわ+疲労=睡眠欲というのは全世界共通だと思う。
なんだか今日は色々あったなあ……いや、今日“も”かな? とにかく疲れた。でもまあ楽しかったな。友達ができたし、快楽漬けとはいえゲームもしたし、料理の約束もできたし。これからは少しは負担にならない楽しみができたらいいなあ……なんて考えていると、いつの間にか俺は深い眠りに落ちていったのだった……
…………………………
……ハジメの料理が食える。曰くコツを掴むまでは軽食だけとの事だが、逆にいえばハジメが慣れれば朝昼晩って事だ。風呂から出てからそのことしか考えられない。ハジメを部屋まで送り、そのまま寝るのを起こすのも可哀想だからとこっそりパジャマに着替えさせ、ハジメが授業について来れるための特別ノートをこれから作ると息巻くスターとも別れ、たった1人で過ごす談話室の中で思考を巡らせる。
どんなの作ってくれるんだろう。軽食ってことはサンドイッチとか? いやでもどうしようめちゃくちゃ可愛いスイーツとか作ってくれたら……作るキャラじゃなさそうだけど、妄想するならタダだからな、うん。
「学園長チェス上手いなぁ!」
「トランプも得意だぞコイツ」
「せやろせやろ? それなのになんでみんなタメ口なんやろなぁーあはは~」
……もう11時か。他の奴らがゲームやら雑談やらで盛り上がる中、俺は1人頬杖をついてハジメのことだけを考えていた。すると近くで他の生徒と盛り上がっていた学園長の魔式携帯電話が高い音を鳴らした。
「はいはーいこちら学園長、なんの御用で?」
どうやら学内からの着信だったらしい。電話の相手と会話しながら、学園長は談話室隣の廊下へ出ていった。数分経った頃だろうか、学園長が戻ってくる。しかしその顔は、さっきまでの陽気なものとは違い、真剣な面持ちだった。
「なあみんな。急いでスタッフォード、ジェービー、アナザル、そんでショセフレカを……ジョセフレカくんは談話室におるな。まあいい、その3人を天使様の部屋まで連れて来てくれへん?」
学園長は談話室にいる生徒全員に向けて声をかける。そのただならぬ様子に皆も思わず口を閉ざした。俺もさっきまでの食い意地の張った考え事をすっかり放棄してしまった。
「……あ、さっきな、旧友の異世界学の先生から連絡があったんや」
生徒が怖がっていることに気がついたのか、さっきよりも柔らかい表情になって、それでもあいも変わらず変なイントネーションで再び喋り始める。
「どうやら天使様がこの世界に来るのに使ったらしい魔導書、かなりめんどくさいシロモノらしいんよ」
魔導書……あーあのハジメと最初に話した時に見た中身が真っ黒に塗りつぶされて、その上に白い魔法陣が書いてあったあれか。アレについて何か分かったということなんだろう。それにしてもそんなに慌てる程のやばいことがわかったのだろうか。
「あー……そうやな……隠しても意味ないか? アイツと弟くんが来る前に余人を連れて来なあかんし、しゃあないさっさと言うか。端的に言うと、このままやと天使様は____死ぬんよ」
随分と、本当に長い、沈黙が空間を包み込んだ。
は? 死ぬ? 今コイツ死ぬって言ったのか? いや待て、魔導書云々の事情で使用者が死ぬようなことになるんだ。というか学園長はなんでそんなことを知ってるんだ。そもそも異世界学の先生って誰だよ。様々な疑問が浮かんでくる中、学園長は話を進める。
「あーとにかく、お前らはさっさとさっき言った3人を探してきいや。ジョセフレカくんは、一緒に部屋まで行こか」
人探しは外野に任せ、まるで言葉も話せなくなった俺を引っ張るように掴む学園長。俺が転ばない現実的な速度とはいえ、今までのおちゃらけた雰囲気とは真逆の危機迫った顔つきで、ハジメの部屋に向かった。
……
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……………
「で、明日のお菓子作りのために食堂のキッチンをお借りしたいと?」
「おう。できれば朝イチがいい」
「あいわかった。朝の7時ぐらいなら話つけられそうやな、シェフには話通しとくわ」
お風呂上がりでスターに髪を乾かしてもらった後、一応心配して寮まで来てくれたらしい学園長の所へと足を運び、明日のキッチンの使用許可を貰いにきていた。ゆるーい関西弁で信じられないぐらい爆速で許可が降りた。この男のせいで散々な目にあったものの、ただちょっかい掛けてるだけじゃなかったようだ。現に最初の頼み事、元の世界への帰り方と魔導書の件について信用のおける異世界学の先生に相談してくれたらしい。わかったことがあれば学園長の魔式携帯電話から知らせてくれるとのこと。
「どうせ明日のことやけん、今日はとりあえず部屋で寝とき。せっかく許可出したのに寝坊されたら困るわ」
学園長は談話室の生徒達にゲームの誘いを受けたのがよっぽど嬉しかったのか、まだ用があるけんとワクワクしていた。スターとジョセフに部屋まで送ると言われて談話室を出る時も、学園長はヒラヒラと手を振ってくれた。
これもまた学園長の計らいなのか、俺の部屋はスターの隣にある個室だった。もう一つの隣は空室だったものの、近くにスターがいるのは有り難かった。
「……そういや初めて自室で寝るな」
「そ、そういえば」
「昨日はスターの部屋だったからな」
部屋についた後、あまりの疲れから制服でベッドにダイブする。そのまま大の字に寝転ぶと、2人の着替えたほうがいいという助言も他所に少しずつ眠くなってくる。ふわふわ+疲労=睡眠欲というのは全世界共通だと思う。
なんだか今日は色々あったなあ……いや、今日“も”かな? とにかく疲れた。でもまあ楽しかったな。友達ができたし、快楽漬けとはいえゲームもしたし、料理の約束もできたし。これからは少しは負担にならない楽しみができたらいいなあ……なんて考えていると、いつの間にか俺は深い眠りに落ちていったのだった……
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……ハジメの料理が食える。曰くコツを掴むまでは軽食だけとの事だが、逆にいえばハジメが慣れれば朝昼晩って事だ。風呂から出てからそのことしか考えられない。ハジメを部屋まで送り、そのまま寝るのを起こすのも可哀想だからとこっそりパジャマに着替えさせ、ハジメが授業について来れるための特別ノートをこれから作ると息巻くスターとも別れ、たった1人で過ごす談話室の中で思考を巡らせる。
どんなの作ってくれるんだろう。軽食ってことはサンドイッチとか? いやでもどうしようめちゃくちゃ可愛いスイーツとか作ってくれたら……作るキャラじゃなさそうだけど、妄想するならタダだからな、うん。
「学園長チェス上手いなぁ!」
「トランプも得意だぞコイツ」
「せやろせやろ? それなのになんでみんなタメ口なんやろなぁーあはは~」
……もう11時か。他の奴らがゲームやら雑談やらで盛り上がる中、俺は1人頬杖をついてハジメのことだけを考えていた。すると近くで他の生徒と盛り上がっていた学園長の魔式携帯電話が高い音を鳴らした。
「はいはーいこちら学園長、なんの御用で?」
どうやら学内からの着信だったらしい。電話の相手と会話しながら、学園長は談話室隣の廊下へ出ていった。数分経った頃だろうか、学園長が戻ってくる。しかしその顔は、さっきまでの陽気なものとは違い、真剣な面持ちだった。
「なあみんな。急いでスタッフォード、ジェービー、アナザル、そんでショセフレカを……ジョセフレカくんは談話室におるな。まあいい、その3人を天使様の部屋まで連れて来てくれへん?」
学園長は談話室にいる生徒全員に向けて声をかける。そのただならぬ様子に皆も思わず口を閉ざした。俺もさっきまでの食い意地の張った考え事をすっかり放棄してしまった。
「……あ、さっきな、旧友の異世界学の先生から連絡があったんや」
生徒が怖がっていることに気がついたのか、さっきよりも柔らかい表情になって、それでもあいも変わらず変なイントネーションで再び喋り始める。
「どうやら天使様がこの世界に来るのに使ったらしい魔導書、かなりめんどくさいシロモノらしいんよ」
魔導書……あーあのハジメと最初に話した時に見た中身が真っ黒に塗りつぶされて、その上に白い魔法陣が書いてあったあれか。アレについて何か分かったということなんだろう。それにしてもそんなに慌てる程のやばいことがわかったのだろうか。
「あー……そうやな……隠しても意味ないか? アイツと弟くんが来る前に余人を連れて来なあかんし、しゃあないさっさと言うか。端的に言うと、このままやと天使様は____死ぬんよ」
随分と、本当に長い、沈黙が空間を包み込んだ。
は? 死ぬ? 今コイツ死ぬって言ったのか? いや待て、魔導書云々の事情で使用者が死ぬようなことになるんだ。というか学園長はなんでそんなことを知ってるんだ。そもそも異世界学の先生って誰だよ。様々な疑問が浮かんでくる中、学園長は話を進める。
「あーとにかく、お前らはさっさとさっき言った3人を探してきいや。ジョセフレカくんは、一緒に部屋まで行こか」
人探しは外野に任せ、まるで言葉も話せなくなった俺を引っ張るように掴む学園長。俺が転ばない現実的な速度とはいえ、今までのおちゃらけた雰囲気とは真逆の危機迫った顔つきで、ハジメの部屋に向かった。
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