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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>
第十四話:思い上がり
しおりを挟む屋敷に引き上げた俺は、大広間へと向かった。
戦いで傷ついた者もいたが、重傷者はおらず全員が揃っている。
兵士に冒険者、奴隷たちが一緒にわきあいあいと会話していた。
みんなが笑顔で勝利をかみしめていた。苦難が団結力を、身分の差をなくしたのだ。
「みんな、ご苦労だった。誰一人欠けることなく闇商人たちを撃退できたことは何より嬉しい。みんな本当に協力してくれてありがとう」
俺の言葉に、みんな拍手で盛り上がった。
三者三様の賛辞が飛び交う。
「旦那様のおかげですわ。旦那様を守りたいという気持ちを共有できたから一致団結できたのだと思います」
ライラは、しなだれかかるように俺の手を取った。
何もできなかった俺に、こうやって慕ってくれる仲間がいる。元いた世界の俺では考えられないことだ。
俺は、感謝の言葉をしようとしたとき、大広間の入口に門番をしていた兵士の一人が走って来た。
「ニート様! ニート様は!」
兵士は慌てた様子で俺を探している。
俺が、手を上げて「ここだ」と告げると、息も絶え絶えに走り寄って来た。
「いったい何があった?」
「そ、それが。いま、王都の自警団の方がお見えになっていまして……」
「あん? さっき王都に戻ったのに、今度はいったい何のようだ?」
「それが、闇商人はどこだと……?」
俺は、その言葉を聞くと入口の方へと目を向けた。
軽武装した自警団が数人入ってくる。先頭のひときわ大きな男性が団長と思われる。
「いったいどうしたのでしょうか? 闇商人はさきほどあなたたちが連行したはず」
「そんなはずはない。私たちは今到着したばかりだぞ」
シーンと静まった大広間に、自警団の団長の声が響いた。
「なんだって?」
「いったいどういうことだよ。さっきの自警団はいったい……」
「おい、それって、まさか?」
冒険者の一人が、大きな声で「奴らに騙されたのか!」と叫んだ。
その声をきっかけに、大広間は騒々しくなる。
俺は、ライラに目配せし大広間から自警団たちと一緒に廊下へと出た。
「さきほど自警団たちが闇商人たちを連行しましたが、あなたたちではないのですか?」
「だから、我々は今到着したばかりですよ。途中、トラブルがありましてな、少し遅れてしまったがこれはどういうことかな?」
俺も自警団も何が起きたのかを悟った。
「闇商人ジルダにまんまと騙されて、敵に全員引き渡したってことか」
俺の言葉に、団長も頷くとすぐに振り返って部下へ指示を出した。
「すぐに、奴らを追え。我々が来た道と逆方向、あるいは北に上がった可能性がある」
自警団たちとジルダたちが鉢合わせになっていないということは、別のルートで逃げたのだろう。
しかし、そこまで用意周到なものだろうか。
確かに、負けを認めたジルダはおとなしく従っていた。今思えば、あんなに素直に投降するのはおかしい。
「ソレ様。すみませんが、私は奴らを追います。あなたはこちらの屋敷で待機してください」
「わかりました」
俺は力なくその場で廊下の壁に背を預ける。足に力が入らない。
くそっ、謀られた。
「旦那様。いったい、これは……」
「ライラ……。どうやらジルダたちにまんまと逃げられたようだ」
「なんですって、さっきの自警団たちはいったい……」
「ジルダたちを連行したのは、間違いなくジルダが用意した偽物だろう。確認しなかった俺のミスだ」
「そんな、旦那様のミスではありません。そのような事務的なことは私たちの仕事。私のミスです」
俺のミスだ。勝ち誇ってドヤ顔していたのが恥ずかしい。
ジルダを嵌めて勝った気でいたが、最後の最後で奴らに出し抜かれてしまった。
詰めが甘いと言われてもしかたがない。
「悪いが、兵士たちにはもう一度屋敷の警備をお願いしてもらえるか」
「わかりました。あの人たちにはどのように説明しましょうか?」
「それはライラに任せる。だが、あまり落胆させないでやってくれ」
ライラが大広間に戻って行くのを確認すると、俺は自室へと向かった。
◇ ◇ ◇
くそ、くそっ!
腹立たしくて、イラついた俺はベッドのマットを何度も叩いた。
チクショー、なんてザマだよ。
闇商人ジルダのほうが一枚上手だったことに気付かされて、燃えたぎるほど腹が立った。
あのとき、せめて精霊石でジルダの思考を読んでいたら、まんまと逃げられることなどなかったのだ。
自警団も信じてしまった。
さっきの自警団だって、大広間まで入らせてしまっている。
もし、あれも偽物だった場合、この屋敷の内部が戦場になっていたところだ。
確認もせずに屋敷の中に部外者を入れてしまった警備体制も、俺の失態だ。
クソっ、この世界に来て何事もトントン拍子に進んでいたのを自分の力だと思い上がっていた。
俺は自分の力を過信していたんだ。
平和ボケ日本人と言われた現代に生きていた俺が、この異世界の者を見下していたのではないか。
もしかしたら、俺は知らず知らずのうちに嫌な男になっていたのはないか。
――――コン、コン、コン
部屋がノックされる音で現実に引き戻された。
「……私です。アルノルトです」
「入れ」
俺はベッドにうつ伏せのまま、深呼吸した。
涙は出ていないが、情けない顔をしているかもしれない。
「おぼっちゃま、大丈夫ですか?」
「懐かしいな、その呼ばれ方は……」
「そうですね。いつもは旦那様とお呼びしているから私もひさぶりに言ってみました」
アルノルトはこの世界に来て右も左もわからない時から仕えてくれている。
当時は執事であり、今はパオリーアと共にギルドと屋敷の運営をしてくれていた。
細身で神経質そうな顔つきで、一見チンピラ風だがどこか憎めないアルノルトの顔を見て不思議と落ち着いた。
「アルノルト。俺は嫌な奴になっていなかったか?」
「いいえ、まったくそんなことはありません。むしろ、みんなに愛されておりますよ」
「そうか……。俺はどうも思い上がっていたようだ」
俺は、ベッドに座りなおすとアルノルトを見た。
もし元いた世界でこの男を見たら、詐欺師かヤクザだと思っただろう。
それくらい怪しい雰囲気を持っている。
実は物腰柔らかい紳士なのだが、見た目からは想像できない。
「思い上がっていたんですか? そんな風には見えませんでしたよ。いつだって、みんなのことを最優先に考えておられて、誰にだって優しく接しておられた。とても、素敵な方だと思います」
「男に素敵だと言われても嬉しくないぞ。でも、ありがとうな」
「いえいえ。その優しさが今回ちょっと敵に利用されたってことだと思います。旦那様のせいではなく、相手が悪いのですから気を病む必要はありません」
相手が悪かったか……
「ところで、何か用があったのではないのか?」
俺が言うと、アルノルトはハッと思い出したような顔をして、慌てて言った。
「次の作戦を考えておられるのかと思いまして」
「いや、実はまだ何も考えていない。反省していただけだ」
「反省することは良いことです。同じ失敗さえしなければいいのですから、次につながるのであれば失敗も成功と同じです」
まるで自己啓発セミナーの先生のようなことを言うアルノルトに、笑いかけると俺は言った。
「自警団からジルダが逃げおおせたとしたら、再び次に攻めてくる可能性がある。だが同じ手を使うことはないだろう」
「ですね。暗殺するつもりだったら、さっさと暗殺者の三人が旦那様の命を狙って来たはず。おそらく狙いは旦那様の捕獲かと」
俺を狙っている。俺を殺そうと思えばできたはずなのに、しなかった。
それを考えれば、ジルダは俺を利用しようとしているのだろう。
「そうだな」
アルノルトの言葉にうなづいて言うと、言葉を続けた。
「だが、ジルダに狙われているからと屋敷に引きこもっているわけにもいかない」
俺はアルノルトと一緒に、しばらく次にどうすべきかを話をした。
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感想ありがとうございます。
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