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プロローグ
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十二歳の時、俺は治療師として戦場に駆り出された。
澄み切った青空にいくつも立ち上るどす黒い煙。
頭上で飛び交う無数の光。
鼓膜が破れてしまいそうなほどの爆音。
……いや、すでに片側の耳は当の昔にイカれてしまい、音など聞こえない。
唯一聞こえる左耳には爆音に混じって銃声と、魔導士たちが叫ぶ呪文の声が聞こえた。
地面には仲間の死体が転がっている。敵の銃で撃たれた者や、攻撃魔法で穴だらけになった者。魔法爆弾で四肢がばらばらになった者や焼け焦げた者。
辺りに漂う焦げ臭い匂いに、吐き気が込み上げてくる。
(しっかりしろ)
俺はぐっと吐き気を押さえ、瓦礫の陰で深手を負った兵士を手当てした。銃に撃たれた脇腹になけなしの治療魔法をかけた後、持参してきた布を当てその上に布を引き裂いて作った包帯もどきを巻いた。布も包帯も死体から剝ぎ取って作ったものだから衛生的にはかなり悪い。だけど今はそうも言っていられない。
「おっちゃん動けるか?」
兵士のおっちゃんに声を掛けると、おっちゃんは小さな呻き声を上げてゆるゆると瞼を持ち上げた。
「……なんで、…おまえが……ッ!、戦場の……ど真ん中に……いるんだよ」
「はは、俺もおっちゃんと同じ理由だよ……」
捨て駒。
言葉にしなかったがおっちゃんには伝わったようだ。彼は目を見開き、そして「くそったれ」と舌打ちをした。
仲間が安全に撤退できるまでここで敵を足止めする。……つまり時間稼ぎに過ぎない捨て駒同然の兵団に、子供を置き去りにしていった兵団長の考えにおっちゃんは苛立ったんだろう。
(子供と言っても俺は今年で十四歳になるし……)
この世界では十五歳は成人だ。
(中身はいい年した大人なんだけどな……)
ああ、でもおっちゃんには俺と同じ年の娘が居るって言っていたな。
「それより、ここから後退しよう」
「……ッ! 俺のことは置いていけ!」
肩を貸そうとした俺の手をおっちゃんが払った。
「それは出来ない。おっちゃん、彼女に結婚相手が出来たら嫁に行く前に結婚相手を殴るって言ってたじゃないか。娘を幸せに出来なかったら、さっき以上のパンチを食らわしてやるって、な!」
おっちゃんは一瞬驚いた顔を浮かべ、そして「はっ!」と笑いを漏らした。
「覚えていたのか……」
ずっと前。敵の要塞の一つを落としたその夜。地下に保管されていた大量の酒樽で勝利の宴をしていた時、べろんべろんに酔っぱらったおっちゃんが零した言葉だ。
「ああ。だから彼女のためにも生きて帰ろう」
そう言ってまたおっちゃんに肩を貸すと、今度は素直に従ってくれた。
戦争という”音„を背に、俺とおっちゃんは後退した。何度も崩れ落ちそうになるおっちゃんの身体を俺は足を踏ん張って支えた。
「……ウィル。お前を初めて……ッ、………見た時、心の底から王様を殴りたくなったよ」
「おっちゃん?」
「俺の娘と同じ年の子供が……治療魔法が使えるって……だけの理由で、……戦場に連れて……来られちまって……」
「おっちゃん、今は喋るな。歩くことに集中してくれ」
「なのに、お前は……ひとっことも……泣き言を言わず、……なけなしの治療魔法を……使って、……必死に頑張ってよぅ……」
「おっちゃん、ダメだ……」
おっちゃんの足取りがどんどん重くなり、肩に掛かる重さも増していく。傷口に当てていた布と包帯もどきはどす黒く染まっていた。
おっちゃんの目から生気が失われていく。
「おっちゃん、ダメだ!家族があんたの帰りを待っている!生きて……! 生きて帰……ッッ!」
不意に背後から影が差し、バッと後ろを振り返るとそこには剣を高々と掲げた……敵の姿があった。
…………あ。
俺目掛けて、剣が振り降ろされる。
振り下ろされた剣の……敵の背後に澄み切った青空と、高々に飛ぶ一匹の鷹が目に映った。
<美しい人>
澄み切った青空にいくつも立ち上るどす黒い煙。
頭上で飛び交う無数の光。
鼓膜が破れてしまいそうなほどの爆音。
……いや、すでに片側の耳は当の昔にイカれてしまい、音など聞こえない。
唯一聞こえる左耳には爆音に混じって銃声と、魔導士たちが叫ぶ呪文の声が聞こえた。
地面には仲間の死体が転がっている。敵の銃で撃たれた者や、攻撃魔法で穴だらけになった者。魔法爆弾で四肢がばらばらになった者や焼け焦げた者。
辺りに漂う焦げ臭い匂いに、吐き気が込み上げてくる。
(しっかりしろ)
俺はぐっと吐き気を押さえ、瓦礫の陰で深手を負った兵士を手当てした。銃に撃たれた脇腹になけなしの治療魔法をかけた後、持参してきた布を当てその上に布を引き裂いて作った包帯もどきを巻いた。布も包帯も死体から剝ぎ取って作ったものだから衛生的にはかなり悪い。だけど今はそうも言っていられない。
「おっちゃん動けるか?」
兵士のおっちゃんに声を掛けると、おっちゃんは小さな呻き声を上げてゆるゆると瞼を持ち上げた。
「……なんで、…おまえが……ッ!、戦場の……ど真ん中に……いるんだよ」
「はは、俺もおっちゃんと同じ理由だよ……」
捨て駒。
言葉にしなかったがおっちゃんには伝わったようだ。彼は目を見開き、そして「くそったれ」と舌打ちをした。
仲間が安全に撤退できるまでここで敵を足止めする。……つまり時間稼ぎに過ぎない捨て駒同然の兵団に、子供を置き去りにしていった兵団長の考えにおっちゃんは苛立ったんだろう。
(子供と言っても俺は今年で十四歳になるし……)
この世界では十五歳は成人だ。
(中身はいい年した大人なんだけどな……)
ああ、でもおっちゃんには俺と同じ年の娘が居るって言っていたな。
「それより、ここから後退しよう」
「……ッ! 俺のことは置いていけ!」
肩を貸そうとした俺の手をおっちゃんが払った。
「それは出来ない。おっちゃん、彼女に結婚相手が出来たら嫁に行く前に結婚相手を殴るって言ってたじゃないか。娘を幸せに出来なかったら、さっき以上のパンチを食らわしてやるって、な!」
おっちゃんは一瞬驚いた顔を浮かべ、そして「はっ!」と笑いを漏らした。
「覚えていたのか……」
ずっと前。敵の要塞の一つを落としたその夜。地下に保管されていた大量の酒樽で勝利の宴をしていた時、べろんべろんに酔っぱらったおっちゃんが零した言葉だ。
「ああ。だから彼女のためにも生きて帰ろう」
そう言ってまたおっちゃんに肩を貸すと、今度は素直に従ってくれた。
戦争という”音„を背に、俺とおっちゃんは後退した。何度も崩れ落ちそうになるおっちゃんの身体を俺は足を踏ん張って支えた。
「……ウィル。お前を初めて……ッ、………見た時、心の底から王様を殴りたくなったよ」
「おっちゃん?」
「俺の娘と同じ年の子供が……治療魔法が使えるって……だけの理由で、……戦場に連れて……来られちまって……」
「おっちゃん、今は喋るな。歩くことに集中してくれ」
「なのに、お前は……ひとっことも……泣き言を言わず、……なけなしの治療魔法を……使って、……必死に頑張ってよぅ……」
「おっちゃん、ダメだ……」
おっちゃんの足取りがどんどん重くなり、肩に掛かる重さも増していく。傷口に当てていた布と包帯もどきはどす黒く染まっていた。
おっちゃんの目から生気が失われていく。
「おっちゃん、ダメだ!家族があんたの帰りを待っている!生きて……! 生きて帰……ッッ!」
不意に背後から影が差し、バッと後ろを振り返るとそこには剣を高々と掲げた……敵の姿があった。
…………あ。
俺目掛けて、剣が振り降ろされる。
振り下ろされた剣の……敵の背後に澄み切った青空と、高々に飛ぶ一匹の鷹が目に映った。
<美しい人>
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