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side:二人の少年③
意識を取り戻して数日後、俺は書物の部屋に篭っていた。
暖炉がないから肌寒さを感じたが今の俺にはどうでもよかった。好きだった読書も今は本を開くだけでページをめくることはなかった。
二度も意識を失って以来神殿には行っていない。何度行ってもきっと同じ結果になるだろう……。そう思うと気力が起きなかった。
俺は胸元のシャツの上に手を置いた。シャツの中にあるフクロウの木彫りからはもうあの魔力を感じ取ることはなかった。それでもこうして肌身離さず持っている。
幾度となく脳裏に浮かぶ平民のあいつは、あの時以来姿を現していない。
(あいつに会って問いたい……)
お前は何なんだと。
そう思った瞬間。
「どわっ‼」
驚いた声と共に漆黒の瞳と目があった。
一瞬何が起きたのか分からなかった。気付けば俺は後ろに倒れ込み、そいつは俺に覆いかぶさるように俺の顔の両側に手をつき、深緑の瞳を見開いて俺を見下ろしていた。
「えーっと、悪いな」
そいつは引き攣った笑みを浮かべながら俺の上から退き距離を取った。俺も起き上がりそいつを見るとそいつは興味深そうに辺りを見渡してた。
「おい」
そいつの右手首を掴んで呼びかけるとそいつは「!うおわぁっ!」と声を上げ後ろに仰け反った。
「うるさい」
そいつの顔を間近で見た俺は眉間に皺を寄せた。
(気のせいか?)
一瞬こいつの瞳の色が黒く見えた気がした。だがどう見ても瞳の色は深緑だ。黒には見えない。
(なんで黒だと思った?)
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「俺の質問に答えろ。お前はヴァルアラ神の使者じゃないのか?」
ヴァルアラ神の使者。それは神官たちのことを示している。決して平民が気軽に名乗っていい名ではない。だがあえてそう言ったのは、こいつがどんな反応を示すのかこの目で見たかったからだ。
その名を騙るか、それとも……嫌悪するのか。
俺の問いにそいつは一瞬ぽかんとした後「ぶはっ!」と噴き出した。
「いやいやいや、ヴァルアラ神の使者って。それは神殿の人たちのことだろ? 俺の服を見ろよ。平民! 平民の俺が使者っておこがましいにも程があるだろ!」
声を上げて笑うそいつに俺は唖然とした。とても嘘を付いてるようには見えなかった。
なら……。
「……なら、なんで……。俺は許されたはずじゃ……」
こいつがヴァルアラ信仰者なら、俺は神殿に入ることが出来た筈だ。
なのになぜ? どうして?
俺の罪は未だ許されていないということなのか?
(まさか、俺は……)
一生、ヴァルアラ神に許されることはない?
ヴァルアラ神に許されぬまま、苦しみもがき死んでいった人間たちを知っている。
俺もそうなるのか?
(だめだ。考えるな……)
絶望すればまたあの泥水のような闇に飲み込まれてしまう。
(考えてはだめだ……)
そう思うのに絶望する未来が目の前に浮かぶ。
だめだ……心が……闇の中に沈み込んで……。
「い、いたいの、いたいの、とんでいけ」
意識が闇の中に沈みかけた時、不意に羽毛に包まれたかのように温かな感触が俺の身体を包みこんだ。
(治癒……魔法……)
身体が……心が軽くなるのが分かった。俺の額から手を離したそいつを俺は困惑しながら見た。
「……なんで、お前の……」
なんで、お前の治癒魔法は痛みを感じないんだ? そう問おうとしたが、言葉にはならず俺は意識を手放した。
暖炉がないから肌寒さを感じたが今の俺にはどうでもよかった。好きだった読書も今は本を開くだけでページをめくることはなかった。
二度も意識を失って以来神殿には行っていない。何度行ってもきっと同じ結果になるだろう……。そう思うと気力が起きなかった。
俺は胸元のシャツの上に手を置いた。シャツの中にあるフクロウの木彫りからはもうあの魔力を感じ取ることはなかった。それでもこうして肌身離さず持っている。
幾度となく脳裏に浮かぶ平民のあいつは、あの時以来姿を現していない。
(あいつに会って問いたい……)
お前は何なんだと。
そう思った瞬間。
「どわっ‼」
驚いた声と共に漆黒の瞳と目があった。
一瞬何が起きたのか分からなかった。気付けば俺は後ろに倒れ込み、そいつは俺に覆いかぶさるように俺の顔の両側に手をつき、深緑の瞳を見開いて俺を見下ろしていた。
「えーっと、悪いな」
そいつは引き攣った笑みを浮かべながら俺の上から退き距離を取った。俺も起き上がりそいつを見るとそいつは興味深そうに辺りを見渡してた。
「おい」
そいつの右手首を掴んで呼びかけるとそいつは「!うおわぁっ!」と声を上げ後ろに仰け反った。
「うるさい」
そいつの顔を間近で見た俺は眉間に皺を寄せた。
(気のせいか?)
一瞬こいつの瞳の色が黒く見えた気がした。だがどう見ても瞳の色は深緑だ。黒には見えない。
(なんで黒だと思った?)
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「俺の質問に答えろ。お前はヴァルアラ神の使者じゃないのか?」
ヴァルアラ神の使者。それは神官たちのことを示している。決して平民が気軽に名乗っていい名ではない。だがあえてそう言ったのは、こいつがどんな反応を示すのかこの目で見たかったからだ。
その名を騙るか、それとも……嫌悪するのか。
俺の問いにそいつは一瞬ぽかんとした後「ぶはっ!」と噴き出した。
「いやいやいや、ヴァルアラ神の使者って。それは神殿の人たちのことだろ? 俺の服を見ろよ。平民! 平民の俺が使者っておこがましいにも程があるだろ!」
声を上げて笑うそいつに俺は唖然とした。とても嘘を付いてるようには見えなかった。
なら……。
「……なら、なんで……。俺は許されたはずじゃ……」
こいつがヴァルアラ信仰者なら、俺は神殿に入ることが出来た筈だ。
なのになぜ? どうして?
俺の罪は未だ許されていないということなのか?
(まさか、俺は……)
一生、ヴァルアラ神に許されることはない?
ヴァルアラ神に許されぬまま、苦しみもがき死んでいった人間たちを知っている。
俺もそうなるのか?
(だめだ。考えるな……)
絶望すればまたあの泥水のような闇に飲み込まれてしまう。
(考えてはだめだ……)
そう思うのに絶望する未来が目の前に浮かぶ。
だめだ……心が……闇の中に沈み込んで……。
「い、いたいの、いたいの、とんでいけ」
意識が闇の中に沈みかけた時、不意に羽毛に包まれたかのように温かな感触が俺の身体を包みこんだ。
(治癒……魔法……)
身体が……心が軽くなるのが分かった。俺の額から手を離したそいつを俺は困惑しながら見た。
「……なんで、お前の……」
なんで、お前の治癒魔法は痛みを感じないんだ? そう問おうとしたが、言葉にはならず俺は意識を手放した。
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