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ヒリスの最後の願い⑪
ヴァルトス国の皇太子、ベルナルド・アレニウス・ウォーガン。
彼と出会ったのは十歳の時。
ヴァルトス国で開催された王族同士の和合会に父に連れられて初めて参加した私は、主催者のヴァルトス国の皇帝の脇に立つ彼の姿に釘付けだった。
ヴァルトス国の王族のみに受け継がれる輝く銀色の髪にサファイヤの瞳。
まさに彼はヴァルトス国の宝石という名に相応しい人だった。
(この世にルシウスお兄様以外に美しい人がいたなんて……)
あの瞬間、気持ちが激しく高揚したのを今でもはっきりと覚えている。
そして今。
私はあの時と同じ気持ちを抱いていた。
(あの人が来る……)
前触れで彼が捕虜として来ることを知った時は自分の耳を疑った。
今まで一度もお父様の命令に背いたことがなかったルシウスお兄様が……初めて背いた。でもお父様はそれに対して特に気を止めることはなかった。きっとお父様にとって彼は死者同然の存在なのかもしいれない。
(せめて亡骸だけでも……って思っていたのに……)
彼は剣聖と呼ばれる程強いと称賛されていたけど、ルシウスお兄様にはきっと敵わない。ならせめて亡骸でもいいから彼を自分の手元に置きたくて、アイザックお兄様に密かにお願いをしていた。アイザックお兄様は一瞬怪訝な顔をしたけど「期待するな」とだけ告げて、ルシウスお兄様と共に兵士を引き連れて城を後にした。
(ああ……早く彼に会いたい……)
私は窓辺から闇夜に浮かぶ美しい満月を見上げ、うっとりと笑みを浮かべた。
前触れから数週間後。彼は今、西の牢にいる。
私は幾度となく彼の元に赴いてはのぞき窓から彼のことを見た。
薄暗い中でもはっきりと分かる彼の美貌に私は思わずうっとりとため息をついた。
(彼に触れたい……)
彼を見るたびに沸々と湧き上がる欲。でも……。
(彼はルシウスお兄様の所有物……)
あの件でルシウスお兄様が自分の行動に干渉されるのを酷く嫌う人だということを初めて知った。
(でも……)
でも、もし彼に利用価値がないとルシウスお兄様が判断したら?
(私が貰ってもいいかしら……)
彼を綺麗に着飾って、コレクションの一つにするの。
そう考えていた矢先。
私の実の兄であるセザールお兄様が彼に暴力を振るった。
セザールお兄様が彼に対して酷い劣等感を抱いていたことは知っていた。きっと彼が奴隷の首輪で力が使えないことをいいことに手を出したに違ないない。
(ほんと情けないお兄様……)
アイザックお兄様のように努力もせず、癇癪ばかり起こして……。あんな男が自分の実の兄だなんてうんざりする。
(ルシウスお兄様に殺されてしまえばいいわ)
ラルスお兄様と同じように死ねばいい……。
……でも私の望みとは裏腹に、セザールお兄様は死ななかった。
(なんで?)
なんでセザールお兄様は死ななかったの?……愚かなお兄様に価値があるってこと?
(それとも彼はルシウスお兄様の私物……じゃない?)
そう思った私は居ても立っても居られずルシウスお兄様に会いに行った。運よく廊下でルシウスお兄様に会うことが出来た。
「あ、あのルシウスお兄様……」
声を掛けるとルシウスお兄様が私のほうを振り返った。私を見る冷たい眼差しに私はヒュッと息を詰まらせた。ルシウスお兄様の眼差しは凄く怖い。私はその眼差しから視線を反らして口を開いた。
「あの……西の牢に居る彼……。もし、もし……ルシウスお兄様が要らないとおっしゃるなら……、私が貰ってもいいですか?」
視線を反らしてもルシウスお兄様の冷たい眼差しが痛いほどわかる。
「……あれが飽きたら好きにするといい」
ルシウスお兄様はそれだけを告げてその場を去っていった。その場に残された私はドレスをギュッと握りしめ下唇を噛んだ。
ルシウスお兄様が言ったあれ。
王族の証を一つも受け継げなかった出来損ない。
ルシウスお兄様が彼を捕虜として連れてきたのはあれのためだというの?
(出来損ないのくせに!)
あれだけがルシウスお兄様のお茶の席に呼ばれ、その上ルシウスお兄様の逆鱗なんて呼ばれている。
「……出来損ないも早く死ねばいいのに……」
私は踵を返して自分の部屋へ戻った。
彼と出会ったのは十歳の時。
ヴァルトス国で開催された王族同士の和合会に父に連れられて初めて参加した私は、主催者のヴァルトス国の皇帝の脇に立つ彼の姿に釘付けだった。
ヴァルトス国の王族のみに受け継がれる輝く銀色の髪にサファイヤの瞳。
まさに彼はヴァルトス国の宝石という名に相応しい人だった。
(この世にルシウスお兄様以外に美しい人がいたなんて……)
あの瞬間、気持ちが激しく高揚したのを今でもはっきりと覚えている。
そして今。
私はあの時と同じ気持ちを抱いていた。
(あの人が来る……)
前触れで彼が捕虜として来ることを知った時は自分の耳を疑った。
今まで一度もお父様の命令に背いたことがなかったルシウスお兄様が……初めて背いた。でもお父様はそれに対して特に気を止めることはなかった。きっとお父様にとって彼は死者同然の存在なのかもしいれない。
(せめて亡骸だけでも……って思っていたのに……)
彼は剣聖と呼ばれる程強いと称賛されていたけど、ルシウスお兄様にはきっと敵わない。ならせめて亡骸でもいいから彼を自分の手元に置きたくて、アイザックお兄様に密かにお願いをしていた。アイザックお兄様は一瞬怪訝な顔をしたけど「期待するな」とだけ告げて、ルシウスお兄様と共に兵士を引き連れて城を後にした。
(ああ……早く彼に会いたい……)
私は窓辺から闇夜に浮かぶ美しい満月を見上げ、うっとりと笑みを浮かべた。
前触れから数週間後。彼は今、西の牢にいる。
私は幾度となく彼の元に赴いてはのぞき窓から彼のことを見た。
薄暗い中でもはっきりと分かる彼の美貌に私は思わずうっとりとため息をついた。
(彼に触れたい……)
彼を見るたびに沸々と湧き上がる欲。でも……。
(彼はルシウスお兄様の所有物……)
あの件でルシウスお兄様が自分の行動に干渉されるのを酷く嫌う人だということを初めて知った。
(でも……)
でも、もし彼に利用価値がないとルシウスお兄様が判断したら?
(私が貰ってもいいかしら……)
彼を綺麗に着飾って、コレクションの一つにするの。
そう考えていた矢先。
私の実の兄であるセザールお兄様が彼に暴力を振るった。
セザールお兄様が彼に対して酷い劣等感を抱いていたことは知っていた。きっと彼が奴隷の首輪で力が使えないことをいいことに手を出したに違ないない。
(ほんと情けないお兄様……)
アイザックお兄様のように努力もせず、癇癪ばかり起こして……。あんな男が自分の実の兄だなんてうんざりする。
(ルシウスお兄様に殺されてしまえばいいわ)
ラルスお兄様と同じように死ねばいい……。
……でも私の望みとは裏腹に、セザールお兄様は死ななかった。
(なんで?)
なんでセザールお兄様は死ななかったの?……愚かなお兄様に価値があるってこと?
(それとも彼はルシウスお兄様の私物……じゃない?)
そう思った私は居ても立っても居られずルシウスお兄様に会いに行った。運よく廊下でルシウスお兄様に会うことが出来た。
「あ、あのルシウスお兄様……」
声を掛けるとルシウスお兄様が私のほうを振り返った。私を見る冷たい眼差しに私はヒュッと息を詰まらせた。ルシウスお兄様の眼差しは凄く怖い。私はその眼差しから視線を反らして口を開いた。
「あの……西の牢に居る彼……。もし、もし……ルシウスお兄様が要らないとおっしゃるなら……、私が貰ってもいいですか?」
視線を反らしてもルシウスお兄様の冷たい眼差しが痛いほどわかる。
「……あれが飽きたら好きにするといい」
ルシウスお兄様はそれだけを告げてその場を去っていった。その場に残された私はドレスをギュッと握りしめ下唇を噛んだ。
ルシウスお兄様が言ったあれ。
王族の証を一つも受け継げなかった出来損ない。
ルシウスお兄様が彼を捕虜として連れてきたのはあれのためだというの?
(出来損ないのくせに!)
あれだけがルシウスお兄様のお茶の席に呼ばれ、その上ルシウスお兄様の逆鱗なんて呼ばれている。
「……出来損ないも早く死ねばいいのに……」
私は踵を返して自分の部屋へ戻った。
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