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カブラ作クトゥルフ

桜の下にて我朽ちず

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●推奨技能(☆は準推奨)

・歴史

・目星

☆芸術:絵画(絵に関するものならなんでも良いが、日本画系統であれば更に良い)

●シナリオ達成条件

・結界からの脱出(基本成功。1d6)

・結界を破壊せずに脱出した(追加報酬。1d4)

・人造人間の創造主を知る(追加報酬。1d4)

・似雲を消滅させる(追加報酬。1D4)

●特殊ルール

   登場する文献のほとんどが平安~鎌倉時代の文章で書かれている。【古物研究家】や【歴史学者】などの専門職であれば適当な技能を用いることで自力での解読が可能。そうでない場合<歴史>や<母国語>にマイナス補正をかけたものでニュアンスを読み取ることは可能(読めなくともNPCによる解読がある為クリアは可能)。



●ストーリー

◆導入

   季節は春。探索者は各々の理由から(KPが整合性をとってもいいし、PLの希望があればそちらに合わせても良い)高野山へとやって来た。世界遺産登録されたことで観光客も増えているようで、ほとんどの場所で人の気配が途絶えることはない。夕暮れも近い昼過ぎ頃、探索者が高野山に来た目的を果たすべく活動していると(活動始め、また目的を果たした後でも良い)、どこからともなく不思議な音が聞こえてくる。その音は調子の外れた笛の音のようであり、どうやら寺院ではなく山の奥深くから聞こえてきている。音はとても小さく、探索者がその音を認識して数秒後には消えてしまう。<知識>ロールか<アイデア>ロールを振らせ、成功すれば『聞こえてくる先に建物はなかったはずである』という情報を手に入れる。近くに居合わせた人間に尋ねてみると「そんな音は聞こえない。建物も存在しない」などの話を聞くことができる。そしてその音はどうにも、探索者を誘っているようにも聞こえた。(そのまま音の方向へ向かうなら問題ないが、仮に音を無視する、音から逃げるなどした場合、帰り道が古びた庵に繋がってしまう)

◆古びた庵

   探索者が音のする方へ向かっていくと、次第に道はどんどん険しくなっていった。ハイキングコースはとうの昔に外れ、登山道にも使われないであろう獣道、あるいは道ですらない場所をひたすらに歩き続けると、不意に開けた空間に出た。手入れなどがされているわけではないが、背の低い草といくつかの木がまばらに生えているだけの為他の場所より開けて見えるようだ。気付けば木々の間から見える空は茜色に染まり、もうじきに夜がやってこようとしている。ある程度見通しが良くなったことで、探索者たちは自分たちの前方に何か建物のようなものが見えていることに気がついた。近付いてみると、それはどうやら木造の古びた建築物であるようだった。それは古びた庵のようで、草木の生い茂る中にポツンと立っているところからもう使われていないであろうことは誰の目から見ても明らかである。外から情報を得る場合は<目星>か<歴史>ロールを用いる。

<目星>

   純和風建築といった様子で、酷く古いものに思えるが朽ち果ててはいないようである。見える範囲では内部もさほど荒れた様子は見られない。

<歴史>

   少なくともここ数十年の建物ではないだろうと推測が出来る。しかしそれにしてしっかりとした佇まいをしており、妙に噛み合わない印象を受ける。

※両方に成功した場合、この周辺に人が訪れた形跡がないにもかかわらず朽ちることなく建っている、手入れがされていないはずなのに内部が一切荒れていないという奇妙な状態の庵に少なからず不気味さを感じる。

   奇妙な庵を前にして探索者たちが訝しんでいると、どこからともなく奇妙な音が聞こえてくる。それは最初に聞いた調子の外れた笛のような音だった。山の奥まで来たからか随分と音の位置は近くなっているようだ。音は近くまで聞くとより不気味であり、幾ばくかの恐怖を呼び起こすに相応しい状況を作り上げていた。SAN判定0/1

   音はどうやら深い茂みの向こうから断続的に聞こえてきており、徐々に近付いてきているようである。この場に留まれば音の主と鉢合わせることになるかもしれない。

   ここで対応に困るようであれば<アイデア>ロールを振らせ、成功した場合『庵の中ならば身を隠せるだろう』と情報を与える。

※探索者は大きく分けて「隠れる」か「対面する」か「逃げる」かを選択出来る。

・庵に隠れた場合

   次項目【庵の中】参照。

・対面する場合

   探索者がその場に留まって数分程すると、茂みの一角がガサガサと音を立てて揺れ始める。その直後、茂みの中から人影が現れた。夕暮れの暗がりから出てくるにつれて、その容姿が確認出来る。それは土気色の肌をし、朽ちかけた着物を着ているようだった。焦点の定まらない目で正面を見据えたまま意思の感じられないような足取りで一歩、また一歩と前進する。完全に茂みから姿を出したそれはゆっくりと口を開け、喉の奥から吹き損じた笛のような不気味な声をあげた。今自分が見ているもの、それこそがあの奇妙な音の正体であったことを知った探索者は、強い恐怖を覚えたことだろう。SAN判定1/1d6

   それは探索者を見つけると速度を変えずにまっすぐ向かってくる。

・逃げる場合

   探索者はその場から逃げ出した。背丈の高い草に隠れるようにして茂みの中へと逃げ込み、一心不乱に走った。距離が取れただろうと安心していると、不意に目の前が開けた。目の前には数分程前に目にした古びた庵が建っている。道に迷って戻って来てしまったのか定かではないが、この周辺から方向感覚を失わずに出るのは難しそうだ。近場の茂みがガサガサと音を立てて揺れ始める。どうやらあの音の主も近くまで来ているらしい。

※逃げた場合のみもう一度だけPLに行動を行わせても良い。ただし即座に判断がつかないようであれば遭遇させ、逃げ込む場が庵しかないことを遠回しに伝える。

◆庵の中

   庵の中に入ると、中は見た目よりもかなり広いようだった。建物自体も意外なことにまだしっかりとしているようで、壁や天井に光が差し込む程度の穴や隙間こそあるものの、今いる場所から判断する限り突然床が抜けたり壁や天井が崩落したりすることはなさそうだ。荒れ具合からして人が住んでいる環境とは言い難く、靴を脱ぐ必要も感じられないだろう。庵に入った探索者には強制<アイデア>ロールを行わせる。<アイデア>ロールに成功すると以下の通り。

『明らかに外観よりも内部が広いことに気がつく。空間が歪んでいるとしか思えない異様な光景に脳の処理が追いつかない。SAN判定0/1』

   この時点から地図を解放し、探索開始。



・廊下

 正面と右手側の二方向に廊下が伸びており、右手に少しいったところには引き戸が見えている。外観通り内装も純和風の造りだが、劣化により木造の壁には無数の小さい穴が空いているのが確認できる。<目星>を用いればこの隙間から外の様子を伺うこともできるだろう。

※<目星>ロール成功時の情報は庵に入ったタイミングによって変化する。以下条件と成功結果

・人造人間を見ずに入った場合に入る描写

   探索者が外の様子を確認すると、茂みの一角がガサガサと音を立てて揺れ始める。その直後、しげみの中から人影が現れた。夕暮れの暗がりから出てくるにつれて、その容姿が確認出来る。それは土気色の肌をし、朽ちかけた着物を着ているようだった。焦点の定まらない目で正面を見据えたまま意思の感じられないような足取りで一歩、また一歩と前進する。完全に茂みから姿を出したそれはゆっくりと口を開け、喉の奥から吹き損じた笛のような不気味な声をあげた。今自分が見ているもの、それこそがあの奇妙な音の正体であったことを知った探索者は、強い恐怖を覚えたことだろう。SAN判定1/1d6

・共通描写

   あの不気味な人らしき何かは未だ周囲をふらふらと歩いている。何かを探すように辺りを見回しており建物の中に入って来る気があるのか無いのか判断がつかないが、何もしなければ今すぐに見つかるような心配はなさそうである。

①物置

   入ってすぐ右手の戸を開けると、中には雑多に物が入っている。火鉢のようなものや古ぼけた木製の道具類を見る限り、ここは物置の類であるようだ。簡単に中を改めると雑に物が収められているようで、あまり手入れがされているような印象はないだろう。探索には<目星>を用いる。以下手に入る情報(二つ目以降は2人目の成功者が出た場合)

・多くのものが欠けていたり壊れたりしているが、壊れたからここにあるというよりはこの中で朽ちていった結果としてそうなっている(ここに放置されて長い年月が立っているがために壊れてしまった)ように思える。

・なんらかの道具ではあるが見慣れないものも多くある。<歴史>ロールに成功するとそれらが遥か昔、平安後期から鎌倉初期にかけて使われた道具類であることが判明する。<歴史>ロールは目星での結果を伝えられれば誰でも行うことができる。

・雑多なものに紛れるようにして、小さな地蔵らしきものが置いてある。(結界1)

 胸には朽ちかけた札が貼ってあるようだ。手の届くところにあるため触れることはできるだろう。<オカルト>-30のロールに成功した場合、この札と地蔵は道祖神に類するものと何らかの封印の札であることがわかる(二つが合わさると境界を区切り結界として機能するものであると伝われば良い)。札を剥がすと力を失うだろう。

②空き部屋

 簡易な作りの部屋で、あまり物が置かれていない。生活空間でありながら生活感のない所を見るに、空き部屋かあまり使われることのない場所のようである。中には小さな机と頑丈そうな箱が置いてあるのを確認できる。近寄って詳しく調べるのであればそれが金庫の類であると気付いていいだろう。施錠されているようだが鍵穴があることから、鍵があれば開くだろう。朽ちかかっているにも関わらず相当頑丈なものであるらしく、破壊するのは不可能。<鍵開け>を行うにしても現代の錠前とは大きく形が変わる為、不可能に近いだろう。解錠できれば中には2冊の本が収められている。中を開くとかなりクセのある文字となっており、とてもではないが読めたものではない。解読する場合似雲に頼る。以下その内容

   本の中は誰かの日記のようだった。ここまでで読んできた内容や文体から考えると、どうやら別の人物が書いたものであるようだ。要約すると以下の通り

◆1冊目

・結界を破壊せず抜け出すには呪具が必要になる

・人の形であること、ある程度力が込められていることが前提

・持っていれば抜け出す道を見出せるだろう

◆2冊目

・『あれ』は不完全なまま生まれた

・命を持たず朽ちることはない

・作ったものの名を暴かれることでのみ『あれ』は消滅する

・いつか『あれ』を消す日は来るのだろうか。それを我が友に問うことは無益なことだろうか

 似雲に解読させ内容を聞くと、探索者はこの記述が恐らく表を徘徊している何者かについて書かれたものだと思い至るだろう。

③書斎

 部屋の中を覗くと、最奥にある机と小さな書棚が目に留まる。どうやらここは書斎のようなものであるらしい。ごちゃごちゃとしたものは置いていないが、すっきりとまとめられた机周りは廃屋でありながらも上品な印象を持つことだろう。部屋全体を調べる場合<目星>ロールを用いる。以下手に入る情報

・机に置かれた書物の下から何かが見えている。確認すれば紙でできた人形のようなものが確認できる。(紙人形1)

 この人形を調べる場合は<オカルト>ロールを使用する。成功した場合『呪具として作られたものであり、微かになんらかの力を感じる』ことが分かる。

   机に近寄ると一冊の本が置いてある他、筆などの筆記具の類を見ることができる。小さな行灯が置いてあるなどからもここでの作業を想定したものが置かれていることがわかる。書棚に入っている本は状態が悪く読めたものではないが、おおよそ同じような文字が並んでいるところから他の本とさして内容も変わらないだろうと推測できる。

   机の本を調べる場合は読解ロールを用いるか、似雲の元へ持っていく。以下本の内容

   他の本よりも丁寧に書かれたその本には、この庵の周辺について書かれているようだった。内容は大きく分けると以下の通り。※は似雲でないと解読不可。PCが読む場合「続く文章がありそうだが自分たちの知識ではここまでしか読めない」となる

・ここには封印が施されている。出るにはこの封印を解く必要があり、解かずに出ようとするとまたここに戻ってきてしまう

・封印を解くには庵にある4つの道祖神に貼られた札を1つ残らず剥がす必要がある。

※・それは同時に『あれ』を外に出すことにもなるだろう

   どうやらここからの脱出手段について書かれているようである。特別な手順などについては特に記載されておらず、書いてある通りにすれば出られるとだけ書いてある。

※解読ができない場合<目星>か<芸術:絵画>などを用いることで、『4つの地蔵から札を剥がしここを離れる』という内容が含まれることを挿絵から理解する。

④作業部屋

   部屋に入ると、そこは様々な仏具が収められた空間となっていた。仏画や写経を行なったと思われるような紙束が見受けられる。詳細を調べるには<歴史>ロールや<芸術:絵画>などの適当な技能を用いる必要がある。以下そうした技能の成功で出る情報

<適当な技能の場合>

   内容や画風からして、どうやらこれは鎌倉仏教に通じる内容であることが分かる。しかし特定の宗派に属するという様子ではなく、少なくともその時代に仏の存在を信じていた何者かの手によるものだろうと推測できる。

<目星などを用いる場合>

   書かれている文字が旧字体以上に古いということ、画風から察するにおおよそとしてもかなり古いものであるだろうということは推測できるだろう。また並べられた仏具や宗教画の中に、人を模して作られたのであろう紙の人形を見つける。(紙人形2)

⑤寝室

   この部屋には布団類や小さな書棚が並んでおり、この建物の中では最も生活感のある部屋であることから主に寝室として使われていたであろう部屋なのかもしれない。書棚の本は表紙を見る限りどれもこれも古い文字で書かれている。部屋を探索するのには<目星>ロールを用いる他、本を読むのには読解ロールを用いるか似雲に手渡す。以下技能に成功した場合の情報

・目星

 書棚の開いた隙間に大きめの鍵があるのを見つける。

 机や書棚の影に隠れるようにして、札の貼られた地蔵を見つける(結界2)

・文献読解

   いくつかの書物から読み取れたこととして、この建物が鎌倉時代に建てられたものであること、そして草庵(別荘のようなもの)として使われたものであるということである。とある人物が専用に使っていた庵であったらしく、ほとんどはその人物の日記のようだ。

⑥広間

   これまでと違いひとまわり大きな部屋となっているようで、部屋の中心には囲炉裏がある。どうやらここが主な生活の場であるらしい。初めて探索者が部屋に入った場合のみ、入った全員で<聞き耳>ロールを行う。成功した場合『壁越しに声とも笛とも言えないあの不気味な音がしているのを聞いてしまう。辺りを徘徊しているのか音は大きくなったり小さくなったりを繰り返し、やがて遠ざかり聞こえなくなった。もしかしたらこの中にもいつか入って来るのではないか。自分自身の恐ろしい想像が自然と鼓動を早めてしまうだろう』SAN判定    0/1

探索には<目星>ロールを用いる。以下手に入る情報

・朽ちかけた祭壇のようなものの上に神でできた人形のようなものを見つける。(紙人形3)

⑦書庫

 部屋の中には多くの書棚が立ち並んでいる。どうやらここは書庫として使われていた部屋のようである。部屋の中を調べるのならば<目星>を、書棚を調べるのであれば<図書館>を用いる。以下手に入る情報(二つ目以降は2人目の成功者が出た場合)

<目星>

・乱立する書棚の一つに並ぶようにして、札が貼られた地蔵を見つける。(結界3)

・部屋の棚に隠されるようにして引き戸があるのを発見する。2人がかりで棚を動かせば戸を開けることもできるだろう。(PLマップ2を解放)



<図書館>

・他の本とは装丁が異なり、どことなく異様な雰囲気を感じさせる一冊の本を見つけ出す。読解ロールか似雲に手渡す。以下手に入る情報

   本に書かれていた内容は、人造人間に関するものだった。呪法として人の骨から人間を作り上げる方法が書かれており、正規の手段を踏むことで『人間』を作り上げることができるとしている。その事細かな手順や図を用いた解説などを詳しく読んだ探索者は遥か昔に見出された邪法におぞましさを感じることだろう。SAN判定1/1d4

⑧座敷牢

 廊下を突き当たりまで進むと、物々しい扉が姿を現す。他の引き戸とは違い重厚で重苦しい様子を見せており、観音開きの扉には大きな錠前が取り付けられている。寝室で見つけた鍵を所持している場合、鍵穴に差し込むことで開錠することが可能。また扉が分厚く<聞き耳>などによって中の様子を探ることはできない。中は今までの木造とは違い蔵のような厚い壁が四方を囲み、辛うじて入り口から部屋の半ばまでの視界が確保できる程度の薄暗さである。見える範囲にはある程度の生活用品らしきものの残骸と、札の貼ってある地蔵を見つけることができる。(結界4)

 部屋の中に足を踏み入れると、何者かから声がかけられる。語調は日本語のようだが聞いたことのない発音の中性的な声で、どうやら部屋に入った者に呼びかけているようである。探索者が一言でも声を返すと数秒の沈黙の後、今度は聞き取れる日本語で声が返って来る。

「すまない、言葉が古すぎたようだ。しかしこんな所にお客様とは珍しい。何か御用でも?」

 声は部屋の奥からしているようだが、近寄って来る気配はない。話を続ければ声は『似雲(ジウン)』と名乗る。明かりがあるか、しばらく部屋の中にいれば暗闇に目が慣れて来ることで部屋のもう半分を少しだけ視認することができるようになる。部屋のもう半分には重厚な格子が取り付けられており、その中に何者かの姿を確認することができる。所謂座敷牢のようで、内部に誰かが捕われているらしい。

 似雲は格子の側で座ったまま動こうとはせず、そこから話をして来る。

 似雲は退屈しのぎに自分にできることなら手伝おうと申し出て来る。牢から出ることはできないが聞けば知っていることは教えてくれるだろう。以下似雲の知っていること(聞かなければほとんど答えないとしても良い)

・自分はこの庵の主人の為ここにいる

・外を徘徊しているものは名前を持たない。作られたものであることは間違いない。

・ここから出る方法は知らないが、書物になら何か書かれているかもしれない(自分が平安語を読めることもカミングアウト)

・主人から鍵を預かっている(空き部屋にある金庫の鍵)。好きに使っても構わないだろう。

※この他にもシナリオ中取りこぼしたもののヒントや似雲が知っていておかしくないと思うものならここで伝えても良いだろう。

 似雲に【空き部屋】から手に入る書物を読ませると、「内容を教える代わりに自分を終わらせてくれ」と名前を暴き消滅することを願い出る。探索者がYES/NOのどちらの返事をしても書物の内容は教えてくれる。

 願いを聞くことを了承した場合、似雲は「この庵の主人は『佐藤義清(さとう のりきよ)』と言う」と名前を教えてくれる。似雲と名もなき人造人間はこの名を告げることで消滅する。以下似雲消滅の描写例

『似雲は名を告げられると満足そうに頷く。すると途端に身体は砂となって崩れ出し、瞬く間に似雲の体は消え去った。牢の中には、小さな砂の山と朽ちかけた着物だけが残された』

 提灯などの照明になるものを持って入ると似雲の姿を明確に確認できる。以下その描写

『男とも女ともつかないその人物は、まるで精巧に作られた人形を思わせるような小さなヒビ割れが顔に走っていた。探索者がそのまま全身を確認するべく視線を下に移すと、その下半身を視界に捉えることになるだろう。着物の下から見える足は、例えるならこちらも粘土細工か壊れた人形を思わせるような歪なねじれ方をしていた。怪我をしたような痕もなく、まるで初めからこうであったかのような佇まいの似雲をみた探索者は底知れぬ恐怖を感じた』SAN判定1/1D4

⑨実験室

 書庫の奥にある扉の奥へと足を踏み入れると、そこには一面に異様な光景が広がっていた。怪しげな壺や乱雑に投げ出されたような書物、中でも最も目を引くのは部屋の片隅に堆く積み上げられた白骨の山だった。薄暗く静謐な部屋の中で物言わぬ人間の頭骨と目があってしまったように感じた探索者は少なからず恐怖心を覚えることとなるだろう。SAN判定1/1D3

 内部を調査するのであれば<目星>ロールを用いる。以下手に入る情報

・立ち並んでいる器には何がしかの薬品かそれに準ずるものが入れられていたようで、微かにだが異様な匂いを感じる。ここに来るまでに人造人間の製法に関する情報を得ていた場合、ここに並んでいるのがその材料であり、ここからあの怪物が生まれたのだと直感的に悟ってしまう。SAN判定0/1D3

・数々の異様な品に囲まれるようにして、机の上に小さな紙でできた人形を見つける。(紙人形4)

◆脱出

◆札剥がしルート

   探索者たちは外に何もいないことを確認すると一目散に駆け出した。訳も分からぬまま夕暮れの暗い山道を逃げ惑っていると、いつしか見知った道に出ることが出来た。ここは登山用コースの入り口だ。いつしか背後から聞こえていたあの不気味な声もなくなり、探索者たちは安堵しながらそれぞれの日常に戻っていくことだろう。探索者たちが去って数ヶ月後、高野山で行方不明者と変死体が見つかる報告が相次ぐこととなる。現場の周辺では吹き損じた笛のような不気味な音が聞こえたという噂もあるが、真相は定かではない。しかし探索者たちはその音の正体を、犠牲者を出している何者かに心当たりがあることだろう。しかし貴方達はそれに関与することはないだろう。運良く逃げ切ることのできた生還者であるのだから……。END

◆紙人形ルート

   (人数分の紙人形を揃えて外に出るのが前提)探索者が人形を手にして外に出ると、道などなかったはずの茂みに微かな道の跡を見出すことができた。この道を頼りに進めば帰れるだろう。探索者がいざ出ようとしたとき、背後から不気味な音が聞こえて来る。笛の音とも人の声ともつかない意思を感じることすらできないただの音。反射的に振り返ると、そこには土気色をした異様な人型、いわば人造人間のなり損ないがこちらに向かってゆっくりと歩み寄って来るのが確認できた。まだ距離はある為このまま逃げれば振り切ることは可能だろうし、または似雲のように消滅させることもできるだろう。

・消滅させる場合(紙人形ルート)

 探索者達が佐藤義清の名を口にすると、人造人間の声は悲鳴のように高くなる。その場で数度激しく痙攣したかと思うと、その場でグズグズと溶け出し砂のように崩れていく。声にならない声をあげ、その体が崩れていく様子を見てしまった探索者達は、狂気に満ちたその様子を見て恐怖を覚えたSAN判定1/1d4

   辛うじて道と呼べるかどうかと言った踏み分け跡を進んでいくと、いつしか見慣れた道に出ることとなった。そう、ここは登山やハイキングに使われるルートの入り口である。気がつけば握り締めていた紙人形はボロボロに崩れ原型を留めない紙屑と成り果てており、役目を果たしたことを伝えている。薄暗くなりつつある中遭難することもなく山を降りることに成功した探索者は深い安堵を味わうと共に、それぞれの日常へと戻っていくことだろう。

   あれからというもの、高野山で妙な噂を聞くこともなく、探索者だとの身の回りに奇妙な出来事が起こることもなかった。あの閉ざされた空間からの脱出は今や夢のようにも感じられる。だが探索者達の脳裏に焼き付いたあの音があの事件を現実に起きたものだと実感させる。あの慟哭にも似た叫びは、しばらく頭を離れることはないだろう。END

・逃走する場合(紙人形ルート)

 探索者は目の前の道を一目散に駆け出した。どこをどう走ったのかも分からなくなった頃、ようやく整備された道に出た。登山やハイキングに使われるルートの入り口だ。握り締めていた紙の人形はいつの間にかボロボロに崩れ去っており、その役目を果たしたことを伝えていた。これで逃げ切ることができた。自分の身の安全を実感した探索者たちは深い安堵と共に、それぞれの日常へと戻っていくことだろう。

 あれから数日。書物に書かれていたことが本当であればあの不気味な怪物は封印された庵の周辺から出ることは叶わず、誰かが運悪くあの音を聞きつけて迷い込むことさえなければ誰の目にも止まることもないだろう。決して死ぬことがなくとも、誰の目にも止まらなければ同じことだ。

   願はくは花の下にて春死なむ

 ふとどこかで聞いた句が頭をよぎる。あの孤独な『人』はこれから先も朽ちることはなく、今も桜の下で誰かを呼ぶでもないあの恐ろしくももの悲しげな声と共に彷徨っているのだろうか。END

●補足

◆似雲

 西行による人造人間の失敗作の一つ。作成時足の生成に失敗し思うように動けないが、それ以外の点においてはほぼ完璧に作られている。その為探索者が話す言葉を少しでも聞けば平安語から現代語に言葉を瞬時に切り替えて対応するなどのことをやってのけるハイスペック。西行は似雲を友と思っていたが人に見られては破壊される可能性もある為、自身の庵に座敷牢を作り中へ閉じ込めた。似雲が西行の日記の入った鍵を持っていたのは、いつか似雲があの牢から出ることがあれば自分の手で読んで欲しいと西行が密かに願っていたが故。シナリオ時には相当な年月が経っていることだけは理解しており既に主人たる西行がこの世にいないこともなんとなくは感じている。最後の日記を読むことによって友として接してくれた主人の心情を理解し、彼の元へ向かう決意をする。

◆「人」

   西行によって作られた人造人間の最後の失敗作。心を持たずただ朽ちることなくただそこにいるだけの存在。しかし寺が出来るなどして霊的な場になるにつれ死霊が集まり、気が濁り始めるとやがてそれが器として人造人間を求め、霊魂の集合体が原動力となり遂に『人』として動き始めた。しかしその内あるものは死霊の持っていた怒りや悲しみ、寂しさと言った具体性のない感情ばかりであり、それが膨れ上がって動き出した『人』はある種機械的に動き出し、生きている人間を求め結界によって封印された土地を彷徨い続けている。

   生者を見つけると近寄って掴みかかり、1d3でMPを削り取る。命ではなく心を欲しているため耐久力ではなく精神力を奪いに来ており、MPを吸い切った後はPOWの最大値を削る攻撃に変わる。死人の骨から作られた為に生と死の概念がなく、造られた時の術を打ち破る以外の方法で消滅させることは不可能だが、ある程度のダメージを与えることでしばらくの間行動不能にすることは可能。基本的には逃げ安定。名がない為作った者の名前を言い当てられることで消滅を迎える。

   知性というほどのものはほぼ持ち合わせておらず、音がすればそちらへ向かう、目視すれば追ってくる程度の思考しかない。

HP:15(0以下になるとしばらくの間動かなくなる)

   <組み付き>25%  ダメージ:1d3(MP)

●調整

・アイテム関連

 紙人形は人数分、道祖神は確定4つの配置。想定人数1~5人で回すことを想定しているので人形の数は人数に応じて変動。好条件でのクリアを推奨するなら最後の紙人形を似雲に持たせるなども可。今回紙人形は4つの配置としている。アイテム配置はこの限りでなくとも回るので、座敷牢と金庫のインキーさえしなければ配置換えも容易。

・SANチェック

 物理的ロストの可能性が少ない代わりにSANチェックの回数が多めに設定されている。回す際に一部SANチェックを省いたり増やしたりすることで簡易的な難易度の調節になるかもしれない。

・2人以上の成功者

 場所によっては探索時に複数人で向かうことを想定し【複数人による技能の成功】で情報を出している箇所がある。基本的な想定人数が複数人である為、1人で回す場合情報のいくつかを技能なしで入手可能にするなどの微調整が必要となる。
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