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16歳(2回目)
11、アドの街→王都シケンラ
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アドの街の夏祭りのトロール襲撃事件は黒幕が早々に排除されて決着したが。
◇
同時刻。
アドの街の夏祭りのトロール襲撃事件の当夜。
カーターの実家の本日は定休日で客の居ない食堂のフロアでは腕を組んだ父親のディーがテーブルを挟んで座るカーターを睨んでいた。
これは父親ディーが一番怒っている時(実際は真剣な時)のポーズである。
1回目の負け犬人生を経ての2回目の16歳のカーターには父親のその怒る姿ですら正直言って懐かしくほんのりしたくらいだ。
だが、ディーの方は至って真剣だった。
真剣な理由は気絶させられたディーが意識を取り戻した時、城門前広場に居た群衆からカーターが讃えられており、妻のアリッサに16歳の息子のカーターがトロールを倒した事を聞いたからだった。
「カーター、どうやってトロール1匹を倒したんだ?」
「ええっと、雷撃で」
「おまえには魔法の素養はないはずだろう」
ディーの指摘は事実である。
1回目の人生の18歳の時、冒険者のカーターは魔法を覚えたくて調べたのだから。だが、 素質がない事が判明し、がっかりしたくらいだ。まあ、気法の方は使えるらしくちゃんと覚えたが。
しかし、2回目の16歳の時点で、どうしてその事実を父親のディーが知ってるのか不思議に思ったカーターが、
「えっ、どうしてそう言い切れるの? もしかしたら魔法の才能があるかもしれないのに」
「調べたからだよ。おまえが生まれた時に」
「えっ、調べるのってお金が掛かるよね?」
魔術師ギルドがボッタくってるので魔法の素養の有無の検査だけでお値段、金貨1枚。
金貨1枚は平民にとっては大金である。安食堂で稼ぐには2000人のお客が来ないとならない。それも材料費を計算しないでだ。
なのでカーターはお金の心配をしたのだがディーが、
「コネがあってタダで調べて貰えたから安心しろ」
「へ~」
「で? どうやって倒したんだ?」
「雷撃だよ」
「それは分かってる。その雷撃、どうやって使ったんだ?」
ディーに真剣に追及されたカーターは実の父親に嘘をつくような真似はせず、正直なところ「竜の心臓水晶」の事を誰かに自慢したくもあったので、
「えっと、その、嘘のような話なんだけど、東の遺跡で・・・」
そう正直に白状しようとしたのだが、ディーが驚いたように身を乗り出して、
「まさか『竜の心臓水晶』を得たのか」
言い当ててきた。
「え? どうして・・・」
カーターが驚いたのは当然だ。「竜の心臓水晶」の事は誰も知らない秘中の秘だったのだから。
1回目の人生ではゴフマンが得るまでアドの冒険者ギルドでも誰も知らなかった。それなのにどうして父親がその事を知っているのかカーターは興味をそそられたが、ディーの方は本当に遺跡の秘密を知っているらしく、
「そう言えば前にアンちゃんがおまえが帰って来ないって騒いでたっけ。そうか、あの夜は満月だったのか」
そこまで知っていた。
「えっと」
困惑するカーターの顔を見てディーが照れたように、
「父さんも昔、眉唾な噂を聞いて『竜の心臓水晶』を狙った事があったからな。あの遺跡の怪しいところは満月の夜の『影の行』しかなかったからそう推理しただけさ」
「へ~」
と答えながらも、
(なら1回目の時も教えて貰えてたらオレが取れてた可能性も・・・まあ、無理か。確証がなかったら最後まであんな危険な事やらないから)
「で、どうやって得たんだ?」
「影を5回倒したらカラクリの仕掛けが動いて台座が出て来てその上にあったよ」
嘘は言っていない。5回目に出てきた影がアースドラゴンの影だったのを言っていないだけで。
「・・・それは凄いな。まさか食堂の裏庭で木の棒を振ってたカーターが『影の行』に勝てるまで強かったとは」
と感心したディーだったが、とある事に気付いて皮肉げに、
「だがな。これは少し拙い事態になったぞ、カーター」
「いいえ、栄誉な事だと思いますよ」
そう答えたのはトロールを倒した凄い術者の正体を追い、目撃者の証言からカーターまで辿り着き、今の話を立ち聞きして食堂のドアから入ってきた王室親衛隊だった。
◇
アドの街の夏祭りのトロール転移事件の7日後。
カーターは陸獣車ではなくアイン王国の騎士が操るワイバーンに乗って陸路でアドの街から10日の距離にある王都シケンラまで空路で僅か半日で来ていた。
そりゃあ、1回目の人生と2回目の人生を合わせても初めてワイバーンに乗って空を飛んだのだ。まだ16歳の男の子のカーターからすればそれはもうテンションが上がりまくっていた訳だが。
そして、そのまま煌びやかなシケンラ王宮の中庭に到着し、黄土色のピカピカに磨かれ過ぎて鏡面のように反射する床の中央に敷かれた赤絨毯の廊下の上を歩き、謁見の間に到着していた。
何故か、父親のディーと一緒に。
妻のアンや母親のアリッサ、妹のジェニーは当然、アドの街に置いてきたが。
謁見の間の数段の階段で高くなってる上座には姿絵でしか見た事のないアイン王国の王様、王冠を被った金髪で威厳あるリチャードが座っており、カーターは率直に、
(どうしてこうなった? さすがにこれは1回目の人生から逸脱し過ぎだろ。そりゃあ、確かにゴフマンが得るはずだった「竜の心臓水晶」をオレが横取りしたけれども。1回目ではオレ、王様に遭った事はもちろん王都シケンラにも1度も来なかったのに~。ってか、1回目のゴフマンも王様には謁見していないはずだろ?)
展開の速さ、そして1回目の人生から脱線し過ぎている展開にカーターは内心で仰天していた。
謁見の間の上座に並んだアイン王国の最高幹部8人全員が好奇な視線をカーターに向ける中、国王のリチャードが、
「久しぶりだな、ディー。元気にしてたか」
「ええ、ほどほどに」
2人が平然と喋り出したので、
「へ? 父さん、王様と知り合いなの?」
思わずカーターが父親のディーに問うと、
「これでも王太子時代のリチャード様の側近だったからな」
「ちょ、父さん。その嘘は拙いって。不敬罪で首を刎ねられるよ」
「不敬罪って難しい言葉を知ってるな、カーター? でも本当だから大丈夫だ」
「あのね、安食堂のオヤジが王様と知り合いな訳がないでしょ」
ディーとカーター親子の会話を聞いていた国王のリチャードが面白そうに、
「何だ、ディー。息子に教えていなかったのか?」
「言える訳ないでしょ。先代国王の軍の指揮のマズさを面と向かって叱責してオヤジの怒りを買って破門されただなんて」
ディーはばつが悪そうに肩を竦めているが、カーターの方は初耳の情報に、
(はあああああ? 何その情報? 聞いてないんだけど~? もしかして父さんって騎士公、いや貴族様の家柄の生まれだったの? へ~・・・えっ、ちょっと待って。まさか、1回目の時もそうだったのか? なのに1回目の時、誰もオレや家族を助けてくれなかったって、何それ? あり得ないんだけど・・・その関係者全員、敵認定だな、もはや)
1回目の負け犬人生でひねくりまくった性格になっている2回目の16歳のカーターは 1回目の時に助けなかった癖に父親のディーの旧友面をして懐かしそうに話をしている国王のリチャードを物騒な事を考えながらもポーカーフェイスを保って眺めていた訳だが。
ディーとリチャードの昔話の後、話はカーターが呼ばれた本題となり、国王リチャードが、
「本当にディーの息子が『竜の心臓水晶』を得たんだな?」
「っぽいです」
カーターが答える前にディーが肯定した事で、
「では当分、王都シケンラに滞在して貰おう。よいな、ディー、ジャック」
カーターの名前は呼ばれなかった。国王のリチャードによって勝手に方針が決められる。
名前が呼ばれず軽くプライドが刺激されて「ジャックって誰だよ」と内心でツッコんでるカーターの横でディーが考えるように、
「えっと、滞在場所は当然、シケンラ王宮の客間ですよね?」
「いいや。実家のトロン家だ。『竜の心臓水晶』を得た孝行息子の功績でディーのトロン家の破門は王命で解除したからな。家族と仲直りしろ、いいな、ディー」
「えっ、そうなんで?」
「『竜の心臓水晶』の獲得者を国外に流出する危険は避けたいのでな」
「でも、あの家に戻るのすっごく嫌なんですけど」
ディーが心底嫌そうな顔で答えると、謁見の間に控えていた軍服を纏った60代の不機嫌そうな顔をした総髪の騎士団長のジャック・トロンが、
「それはお互い様だ。孫だけ置いておまえはアドに帰っていいぞ」
「はあ? カーターを置いて帰る訳がないだろうが、クソオヤジ」
「何だ、その言葉遣いは?」
「誰かさんのお陰で市井に身を窶した期間が長かったのでね」
「そもそも、カーターって・・・」
「敬愛する戦死した兄の名から取ったけど、それが何か?」
カーターの知らない名の由来が初めて父親のディーの口から飛び出し、カーターは謁見の間で語られるこれまで知らなかった情報量の多さに圧倒されながら、ずっとキョロキョロと喋る者達に好奇心丸出しの視線を向けたのだった。
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