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安全地帯

【宮廷魔術師side】秒で始末される

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 ネイチェ王国に仕える宮廷魔術師ガスカイン。

 この男こそがトルオンが夢の中で豊穣の女神チョリスサラより抹殺指令を受けた悪しき者だった。

 50歳の人間で、身長は169センチ。金髪チョビ髭の男で宮廷魔術師になれるくらい魔法も上級者だ。

 その素性は賢者トロピオの弟子だ。

 つまりは賢者ルフィレストの弟子だった。

 弟子の期間は拾われた8歳から28歳までの20年間。

 世界樹の神聖力を盗んでたあの真っ黒な男が8歳の子供を拾って育てるなんて事、下心も無くする訳がなく・・・

 ガスカインは死亡したルフィレストの転生先だった。

 弟子の期間が20年間もあったのだ。

 本人に悟られる事なく秘術の処置はし放題だったので、ガスカイン本人は知らなかったが。

 なので、本当にルフィレストの魂がガスカインに宿っていた。

 とはいえ、死に方が豊穣の女神チョリスサラの御神木の根に捕縛されて吸われるというまさかの展開だったので、術式は完璧だったはずなのだが、妨害されて全部の力を移植とはならなかった。

 今のルフィレストは精々、24時間中ガスカインが寝てる3分間程度、『ルフィレストでいられる』だけだったのだから。

 お陰で何も出来ない。

 世界樹に出向いて根から神聖力を奪う新しい装置の建造も。

 あのペガサスに乗れる男への復讐も。

 新たな転生先の肉体へ秘術を施す事も。

 3分間だとやりたい事が何も出来ないのだ。

 総てはあの忌々しいペガサス乗りの男と世界樹の所為だ。

 世界樹の根に捕まりさえしなければ、ガスカインへの転生も完璧な形で上手くいったはずなのに。

 イライラがつのる中、ネイチェ王国では戦争が始まった。





 宮廷魔術師なのでガスカインは最前線に出発だ。

 冗談ではない。

 『逃げろ』と言いたいがガスカインと会話も出来ない。

 3分間で逃げれるだけ逃げても、どうせ意識を取り戻したらガスカイン本人が帰るに決まってるので。

 どうしようも出来ない中、最前線へとガスカインは出向き、攻撃魔法で敵を蹴散らそうと大魔法を連発するも・・・

 エトリア王国軍が保有するドラゴンの鱗の防具は本当に凄いのだ。

 盾や鎧で魔法を弾き、迫ってくる。

 ガスカインの意識がある内はルフィレストの人格は出てこれない。

 その為、何も出来ないまま、宮廷魔術師ガスカインは3人の騎士にドラゴンの牙製の槍で貫かれた。

 蘇生や治癒が出来ないように槍は死ぬまで突き刺さったままだ。

「グアアアアアア」

 心臓が止まる1秒前に、ルフィレストの人格と入れ替わったが、そこから何をすればいいのか。

 ルフィレストが転生したガスガインはこうして絶命したのだった。





 ◇





 その夜、トルオンの夢の中に豊穣の女神チョリスサラが出て来て、

『例の悪しき者はもう死んだから探さなくていいわよ』

 そうトルオンは告げられたのだった。
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