斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
73 / 282
聖道化師襲来編

狂王、荒れ狂う

しおりを挟む

 73-①

「うおおおおおっ!? 何じゃこりゃあっっっ!?」
「で、デカイ……」

 出現した四足四腕よんそくしわんの巨大な影魔獣を前に武光達は戦慄した。

「ククク……どうだ、これがボクのとっておき……《影魔獣・狂王》だ!! 聖女さんは『非常に強力だが、制御がとても難しく、一度目覚めさせれば周囲の人間を殺し尽くすまで止まらない』なんて言っていたけど、双頭蛇の力を使ってボクと狂王の魂を入れ替えれば、この強大な力を完璧に制御出来る……さぁ、ボクのチートスキルの前にひれ伏せ!!」

 狂王と化した京三は四本の腕の内、上側の二本の肘から先を突撃槍ランス状に、下側の二本の肘から先を剣状に変化させた。

「行くぞ雑魚共……ん!?」

 京三が武光達に襲い掛かろうとしたその時、狂王の魂を宿した京三の肉体が前に進み出た。その手には、先程京三がプレートから転送したナイフが握られている。

「チッ……邪魔だ!! 下がっていろ!!」

 京三は、狂王に命じたが……

 “どすっ!!” 

「なっ!?」

 狂王はナイフを逆手に持ち替え、いきなり自分の腹を刺した。

「なっ……何をしてるんだ!? やめろ!!」

 突然の凶行に京三は声を荒げたが、狂王の魂が宿った京三の肉体は、無表情のまま自分の腹を滅多刺しにしている。

 京三はシルエッタの言葉を思い出した。目覚めた狂王は、周囲の人間を手近な者から手当たり次第に殺し尽くす。そして今の狂王にとって、『一番手近な人間』とは……自分自身である。

「ふ、ふざけるな!! この出来損ないが!!」

 狂王を止めようにも、強大過ぎるこの肉体では、自分の肉体に触れた途端にプチンと潰してしまうかもしれない。焦る京三の眼前で、狂王が失血により震える手で、京三の肉体にトドメの一撃を刺そうとしたその時!!

「さ、させるかぁぁぁっ!!」

 間一髪で、武光が狂王を背後から羽交い締めにした。

「ナジミ!!」
「はいっ!!」

 ナジミが拘束されている京三に駆け寄り、傷口に手をかざす。

「大丈夫ですよ……絶対に死なせたりしませんからね……!!」

 ナジミの癒しの力によって、腹部のむごたらしい刺し傷がみるみる癒えてゆく。そして、傷口が治るに従って、元気を取り戻した狂王が、再びナイフを自らに突き立てようとするのを武光が両腕に力を込めて防ぐ。

「くっ……暴れんなこのっ……フリード、俺はこいつを押え込むので手一杯や!! デカイのを任せてもええか!?」
「わ、分かったよアニキ!!」
「気ぃつけろよ!!」

 フリードは頷くと、クレナ達に指示を出した。

「行くぞ皆!!」
「うんっ!!」
「よし!!」
「は、ハイッ!!」

 フリードが右手の人差し指を空に向け、小さく円を描くと、それを見たクレナ達とミナハが左右に散り、クレナが京三の左斜め後ろ、ミナハが右斜め後ろについた。『包囲』のハンドサインである。
 フリードが右手をパッと開き、握った。『かかれ!!』の合図と共に、クレナとミナハが突撃する。

「喰らえーーーっ!! 穿影槍ッッッ!!」
「友情合体……《驚天動地》ッッッ!!」

 “カッ!!”  “ズバッッッ!!” 

 クレナの穿影槍が左の後ろ脚を吹き飛ばし、ミナハが斧薙刀 《驚天》と手槍 《動地》のを連結させて、右の後ろ脚を袈裟懸けに切断したが……

 “ズルリ!!” 

「ウソっ!?」
「くっ!?」

 無くなった左右の後ろ脚が即座に再生した。京三は、呆気に取られるクレナとミナハに向けて、大木の幹のような太い尻尾を振るった。クレナとミナハが慌てて後方に跳び退く。
 間一髪だった、風圧が二人の鼻先を撫でる。

「くっ、この野郎!!」

 京三は、正面から突進してきたフリードの吸命剣による一撃を、左右の剣腕を交差させて受け止めた。

「フフフ……ヌルい!!」
「うおっ!?」

 交差させていた両の剣腕を勢い良く開いて、京三はフリードを弾き飛ばした。弾き飛ばされたフリードが悪態をつく。

「クソが……何て馬鹿力なんだよ!?」
「……素晴らしい力だ……まさにチートだよ……おっと!!」

 京三は、顔面に向かって飛んできたキクチナの雷導針を左の槍腕で叩き落とした。

「はんっ、お前達如きモブキャラが束になろうと……このボクに勝つ事は不可能なんだよ!!」
「くっ……ナメんなこの野郎!!」

 フリード達は再度攻撃を仕掛けたが……通常の影魔獣の何倍もの再生速度を誇る狂王の肉体を前に、有効打を与える事が出来ない。
 暴れ回る狂王を前に、フリード達は徐々に追い込まれてゆく。

「フー君どうしよう!? 閃光石がもう無いよ!!」
「わ、私の雷導針もです!!」
「チッ……クレナ、これを!!」

 ミナハが驚天動地を再び分離させ、動地をクレナに渡した。

「諦めろ、君達如きモブじゃ、この僕を倒すなんて不可能なんだ」

 それを聞いたフリードは京三を “キッ!!” と睨みつけた。

「ヘッ、天照武刃団をナメるなよ……!! 見せてやるぜ、俺の……とっておきをッッッ!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...