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第二回・殴り込み編
虎娘達、悟る
しおりを挟む127-①
影光達は雄叫び上げて砦の中に突入した。
砦の中にいた信者達は突然の乱入者に呆気にとられ、しばし呆然としていた。
「よし、行くぞお前ら……蹴散らせーーーっ!!」
影光は影醒刃を高く掲げると、切っ先を勢い良く前方の信徒達に向けた。
「任せて!! ウゥゥーーーッ……ガオーーーーーッッッ!!」
フォルトゥナは低く構えると勢い良く駆け出し、信徒達に飛びかかった。
「デュフフフ……シンジャー氏!! ネッツレッツ氏!! 我々も続くぞ!!」
「グフフフフ……おうさ!! 手柄を立ててヨミ様に褒めて頂くのだ!!」
「ヌフフフフ……蹴散らすぞ!! ドルォータ氏、シンジャー氏!!」
ドルォータは柄を短く切り詰めた戟を、シンジャーは棘付きの棍棒を、ネッツレッツは手斧をそれぞれ両手に持って信徒達に襲いかかった。
腐っても鯛、若年でも虎、落ちこぼれでも竜である。
フォルトゥナの爪が、ドルォータの双戟が、シンジャーの双棍棒が、そしてネッツレッツの双斧が信徒達を襲う。
今まで戦闘は影魔獣任せにして、自らの手で戦ってこなかった暗黒教団の信徒達は、影光達に軽々と蹴散らされ、僅かに砦に残っていた剣影兵も影光によって斬り捨てられて、砦は瞬く間に制圧された。
そして、砦を制圧した影光達は砦中央の部屋で奇妙な光球を発見した。
その光球は宙に浮いて、眩い光を放っていた。光球の下にはいくつもの木彫りの人形が置かれており、そこから伸びる影には操影刀が突き立っている。
「これは……うん子が俺を作り出した時に使っていた光球だな……ふんっっっ!!」
真っ向から振り降ろされた影醒刃によって、光球は真っ二つに両断され消滅した。
そして、光源が消滅し、影魔獣を作り出していた影が消えた事で、ガロウ達が戦っていた影魔獣の群れも消滅した。
天驚魔刃団は見事に任務を果たしたのである。
127-②
……と、ここまでの戦いをフォルトゥナ達は振り返ったのだが、影光や四天王がいまいち元気が無い理由が分からない。そしてヨミの姿も見えないままだ。
「うーん、一体どうし……うにゃあああああっ!?」
ヨミが 現れた!!
眩い閃光と共に突如として目の前に出現したヨミに驚いて、フォルトゥナは派手に尻餅をついてしまった。
「おお!! ヨミ!!」
両手を膝につきゼェゼェと息をしているヨミに影光が駆け寄る。
「はぁ……はぁ……ったく、転移の術ってめちゃくちゃ疲れるんだからね!?」
「悪いなヨミ。で……例のブツは?」
「ん……」
ヨミは空間に裂け目を作り、そこから一枚の鏡を取り出した。A4サイズくらいの大きさの四角い鏡である。
「ヨミ姉、それは……?」
フォルトゥナの問いに、ヨミは投げやりに答えた。
「《景憶鏡》よ、景憶鏡」
「……何ソレ?」
「やれやれ、猛虎族はそんな事も知らないの? アレはね、あの鏡に映した光景を記録出来る魔法の鏡なのよ」
「何ソレすげぇーーーー!!」
「おいヨミ!! 早く再生してくれ!!」
「うっさい影光!! ちょっとくらい休憩させろ!!」
不満を吐きながらもヨミが砦の壁に景憶鏡を立てかけると、即座に影光、キサイ、レムのすけ、そして景憶鏡に興味津々のフォルトゥナは鏡の前に “ズサー” と正座し、ガロウは腕組みしながら興味無さげに反対の壁にもたれかかった。
「それじゃあ映すわよ」
鏡面が淡く光り、映像が映し出される。映し出されたのは、双竜塞にいるつばめとすずめ、それとオサナだった。
「つばめちゃん、すずめちゃん、もう喋ってもええよ」
オサナに促されて、つばめとすずめが口を開いた。
「かげみつさま、がろしょーぐん、れむしょーぐん、あと……きさい、げんきにしてますか?」
「つばめとすずめは、きょうもにんむをがんばりました!!」
そう言うと、つばめは握っていた小さな手を開いた。手の中にはセミに似た虫の死骸があった。
「まなのへやに、はいってきて、まながこわがっていたので、すずめといっしょにやっつけて、まなをまもりました」
「まなのあたまをなでてあげました」
自慢げに笑う二人を見て、影光がウンウンとしきりに頷いていると、今度はオサナが口を開いた。
「影光っちゃん、元気にしてますか? つばめちゃんとすずめちゃんは毎日元気いっぱいで、すっかり双竜塞の人気者です。それに勉強も頑張ってます。二人ともびっくりするくらい頭が良くて、足し算と引き算をすぐに覚えて、今は『九九』を教え始めてます」
それを聞いたつばめとすずめは勢い良く手を挙げた。
「くくやる!!」
「くくやりたい!!」
「よーし、じゃあ影光っちゃん達に見せてあげよか?」
つばめとすずめは大きく頷くと、元気よく『いんいちがいちー!! いんにがにー!!』とオサナに教えてもらい始めたばかりの『九九』を言い始めた。最後に元気良く『くく……はちじゅうはち!!』と言っていたのを見て、『男塾かよ!!』と苦笑する武光だった。
「ま、そういうわけでこっちは元気に頑張ってるから、影光っちゃん達も気ぃつけてな?」
「のっとりがんばってね!!」
「はやくかえってきてね!!」
笑顔で手を振る三人を最後に映像は終わった。
「やっぱりすずめとつばめの笑顔を見ると、戦いの疲れも吹っ飛ぶよなー!!」
うんうんと頷くキサイとレムのすけを見て、フォルトゥナと竜人三人組は影光と四天王がいまいち元気がなかった理由を悟った。
「よし、とっとと魔王軍を乗っ取って二人を迎えに行くぞー!!」
「おーっ!!」
「グォーーーーー!!」
勢い良く拳を突き上げる影光、キサイ、レムのすけの三人をガロウは鼻で笑った。
「フン、お前ら親バカか」
「何言ってんのさ……映像を見てた時、千切れんばかりに尻尾を振ってたクセに」
フォルトゥナにツッコまれてガロウは慌てた。
「ば、バカを言うな猫娘!! あれは……その、アレだ。しっぽ筋肉の鍛錬をしていただけだ!!」
テンパるガロウを見てヨミはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。
「……ったく、大の男が雁首揃えて情けないわねぇ。チビ共にちょっと会えないだけでこれだもの。双竜塞まで転移する身にもなれっての!! 疲れるったらありゃしない!!」
それを聞いた影光はニヤリと笑った。
「ふーん……そうか、じゃあもう行かなくてもいいぞ?」
「えっ……?」
「いや、だって転移の術って、めちゃくちゃ疲れるんだろ? 無理させるのも悪いしな」
「え? いや、だって……その……チビ共の顔を見ないとアンタ達すぐしょげるし──」
「お前も人の事言えないだろ?」
「わ、私は全然平気に決まってるじゃない!? ただ、その……アンタらに腑抜けられると戦いに支障が出るから仕方なく……」
「心配するな、俺達ならもう大丈夫だ!!」
「つ、強がってんじゃないわよ!?」
「お前程じゃあないさ」
「ぐぬぬ……」
モニョモニョと小さく抗議するヨミを見て、竜人達は嘆息した。
「おお……言いくるめられてモニョモニョしているヨミ様もまた良し!!」
「うむ!! 本当はつばめとすずめに会いに行くのが楽しみでしかたないのがバレバレなのに!!」
「それを押し殺して強がっているあの表情がたまらん!!」
「う……うるさいこのカス共が!! ブチ殺すわよ!?」
「「「ご褒美ありがとうございますッッッ!!」」」
「うわぁ……」
ヨミは ドン引きした……
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