斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
129 / 282
第二回・殴り込み編

斬られ役(影)、企む

しおりを挟む

 129-①

 トポンツ砦の西に、オーガ一族によって築かれた《百鬼塞》という砦がある。

 天驚魔刃団は、百鬼塞に攻め寄せていた影魔獣軍団を背後から奇襲していた。せっかく奪ったトポンツ砦を放り出して何をしているのかというところだが……

 ……話は2日前にさかのぼる。

 天驚魔刃団の面々は焦っていた。トポンツ砦を奪還したら、砦を防衛するための援兵が送られて来る手筈てはずとなっていたのに、待てど暮らせど援兵が現れないのだ。

 敵がトポンツ砦が奪還された事を察して再び兵を差し向けていたとしたら、明日……いや、今日にでも姿を現してもおかしくないのである。

「おいおいおい、何で魔王(笑)は援兵を送ってこねーんだ!?」
「恐らく……元より援兵を送るつもりなど無かったのでしょう。と言うか……最初から僕達がこの砦を奪還出来るなどとこれっぽっちも思っていなかったんで、援兵の準備すらしていないのでしょう」

 キサイの言葉に、軍議の間にいた影光と他の四天王は、メロスもドン引きするくらい激怒した。

「あの……くそワニ番長がーーーーー!!」
「おのれキョウユウめ……!!」
「グゴォアッ……ヤク……ソク……チガウ!!」
「全く……ナメたマネしてくれるじゃない……こんな時に敵軍が大挙して押し寄せたりしたら……」

 ヨミの言葉に、キサイは即答した。

「今のままでは守りきるのは難しい……と言うか無理ですね」
「ちょっとガリ鬼!? そこをなんとかするのがアンタの仕事でしょうが!!」
「無茶を言わないで下さい、城攻めは寡兵かへいでも奇策を用いれば出来なくはないですけど、防衛はどうしてもそれなりに兵力がいるんです!! それにこの砦は本来周囲の砦の後方支援用の砦で、防備もそんなに厚くないですし……」

「み……皆ーーーっ!! たたた大変だーーーーーっ!!」

 頭を抱える影光と四天王のもとに、見張りをしていたフォルトゥナが、ドアをブチ破らんばかりの勢いで転がり込んで来た。

「どうした猫娘!! 落ち着いて話せ!!」
「う、うん!! 敵が来たんだ!!」
「数は!?」
「三百近くいるよ、多分!!」

 それを聞いた影光はぐぬぬとうなった。
 応戦か撤退か……魔王軍に潜り込み、キョウユウに近付く為には何としてもトポンツ砦を死守しなければならないが……そもそもたった九人では砦を守れないというのが知将枠の判断だ。撤退するならすぐに行動しなければならない。迷う影光に更にフォルトゥナが告げる。

「大変なのはそれだけじゃないんだ!! 敵軍の中に……勇者の仲間がいる!!」

 それを聞いた四天王達は騒然とした。

「勇者の仲間だと……間違いないのか猫娘!?」
「アタシ、視力には自信があるんだ!! アイツらは間違いなく三年前に魔王様と勇者の決戦の場にいた奴らだよ!!」
「くっ……よりにもよって……影光、ここは退くぞ!!」
「……影光さん、ガロウさんの言う通りです!! ここは即時撤退しましょう!! 影光さん……!?」

 ガロウとキサイは影光に即時撤退を進言したが、影光はそれには答えずフォルトゥナに質問した。

「フォルトゥナ……お前さっき『』って言ってたな?」
「う、うん!!」
「間違いないな!?」
「この目でしっかり見た!!」
「それじゃあ……勇者リヴァルは敵軍の中にいたか?」
「ううん、筋肉ムキムキの大男と扇を持った女……あとはもう一人若い男が影魔獣の群れの中にいたけど……勇者リヴァルは見てない!!」

 影光はフォルトゥナの両肩に手を置き、念を押した。

「本当だな!? 間違い無いな!?」
「う……うん!!」
「おい影光!! 何をしている!?」
「早く撤退を!!」
「グモァ……」

 撤退を進言するガロウ・キサイ・レムのすけだったが……影光はニヤリと笑って首を左右に振った。

「いや……応戦しよう」
「影光、お前正気か!?」
「ああ、フォルトゥナの報告が正しいのなら……この砦は絶対に落ちない!!」

 影光の言葉の意味が全く理解出来ずに困惑する一同だったが、唯一、ヨミだけは読心能力で、影光の言葉の意味を理解した。

「うっわぁ……影光アンタ本気でそれやるつもりなの!?」
「どう言う事だ小娘!? このバカは何を考えている!?」

 ガロウの問いに、ヨミは盛大に溜め息を吐くと両肩をすくめた。

「このバカ……勇者の仲間共目掛けて突撃かますつもりよ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...