斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
142 / 282
第二回・殴り込み編

斬られ役(影)、殴り倒す

しおりを挟む

 142-①

 影光は、オーガ達に案内されて大将の間の前までやってきた。

 影光が最初に助けた青い肌のオーガが分厚い扉を叩く。

「御大将!! 救援に駆けつけてくれた部隊のかしらを連れて来ました!! 是非御目通りを!!」

 少しの間の後、扉の向こうから返事が返ってきた。

「そうか……通せ」

 低く、ドスの効いた声を聞いて影光は息を呑んだ。三年前(影光にとっては半年前)……マイク・ターミスタで死闘を繰り広げたオーガの大将、《鬼将ザンギャク》は凶暴凶悪な男だったが……

 返事を聞いたオーガ達が、分厚い扉を左右に開いた。

「さぁ、中へ!!」
「お、おう」

 最初に助けたオーガに先導されて影光は大将の間に入った。

 待ち受けていたオーガの大将は、影光の想像より遥かに若かった。年齢は二十歳前後だろうか。頬杖ほおづえをつきながら大将の椅子に腰掛けているオーガは、屈強で引き締まった肉体を持ち、皮膚は赤く、髪は黒く、額には鋭い角が一本生えていた。
 オーガの大将は影光を見ると小さく鼻を鳴らした。

「フン……お前が魔王城からの援軍──」
「あれっ? お前もしかして……《ギリ》じゃねーか?」

 影光に名を呼ばれたオーガの若き大将……ギリは、影光をにらみつけた。

「あぁん? 俺はどこの誰とも分からん奴に呼び捨てにされる覚えは……って、んんっ!?」

 ギリは影光の顔を5秒程ジッと見ると素っ頓狂な叫びを上げた。

「ゲェーーーーーッ!? あ、アンタは!!」
「お前、オーガの大将になってたのかよ?」
「あ、いや……まぁ」

 しどろもどろになっているギリをよそに、影光が最初に助けたオーガが自慢気に胸を張った。

「アンタ御大将の知り合いだったのか……ギリの大将はな、三年前のマイクターミスタでの戦いで、乱心して味方を殺して食らいまくった鬼将ザンギャクを討ち取って、仲間達を救った功績で大将に抜擢されたんだぜ!!」
「ほーう? ねぇ……」

 影光にジトッとした視線を向けられたギリは、配下のオーガ達を怒鳴りつけた。

「オイ!! 何ボサッとつっ立ってんだ、怪我人の手当てと被害の確認をしてこい!! 早く行けッッッ!!」
「え、でも……」
「義兄弟に久々に再会したんだ!! 積もる話もある!!」
「待て、俺はお前と義兄弟なんぞになった覚えは──」
「いやぁそれにしても久しぶりだな兄弟ッッッ!! 久々に二人きりで語り合おうじゃねぇか!!」

 引きつった笑みを浮かべながら、ギリは配下のオーガ達を部屋から追い出すと、扉を勢い良く閉め、そして叫んだ。

「帰って下さい!! お願いですから!!」
「ええーっ!?」

 142-②

 
「お願いしますモモタロウさん!! 何も言わずに帰って下さい、マジで!!」

 ギリは土下座した。それはもうもの凄い勢いで土下座した。ちなみに『モモタロウ』というのは、オーガとの戦いの時に武光が、名作時代劇の名乗り口上と共に名乗っていた偽名である。

「ま、まぁ……落ち着けって」

 影光はギリをなだめて顔を上げさせた。

 ……三年前(影光にとっては半年前)の事である。

 マイク・ターミスタでの戦いにおいて、当時のオーガ軍団の大将であった《鬼将ザンギャク》は、武光との戦いで、オーガの誇りでもあり、力の源でもある角をへし折られた。
 そしてその後、乱心した鬼将ザンギャクは、失った力を取り戻す為に仲間のオーガを手当たり次第に殺して血肉を食うという暴挙に出たのである。
 幹部連中を筆頭に仲間が次々とザンギャクに殺され、食われていく……当時、下っ端の一兵卒に過ぎなかったギリは、その地獄のような光景に恐怖し、ザンギャクの殺戮を止めてもらうべく、敵である武光の下に単身乗り込んで来て土下座したという過去を持つ。

「すみません、俺……名を上げたくて、認められたくて……ザンギャクを殺ったのは俺だって……」
「あーあ、やっちまったな?」
「ザンギャクを斬って仲間を救ったってのがウソだってバレたら……だからお願いです!! ボロが出る前に……黙って帰って下さい!!」

 再び土下座したギリを見て、影光は大きな溜め息を吐いた。

「弱くなっちまったなあ、ギリ」
「…………あぁ!?」

 ギリは怒りの込もった視線を影光に向けた。
 無理も無い、武力が何よりも重要視され神聖視されるオーガ一族にとって『弱い』というのは最大級の侮辱なのだ。『弱い』と言われて、ギリが黙っていられるはずもなかった。

下手したでに出てればつけ上がりやがって……俺は……あの頃よりずっとずっと強くなった!!」
「ああ、図体だけは一丁前にデカくなりやがって……ったく」
「テメェ……あんまり調子に乗ってると、殺すぞ!?」
「ヘッ、三年前のお前ならいざ知らず、弱くなちまった今のお前じゃ……無理だな」
「……ぶっ殺すッッッ!!」
「ふんっっっ!!」
「ぐはぁっ!?」

 ギリは影光に殴りかかったが、影光はギリの顔面に拳を叩き込んで殴り飛ばした。背後の壁に叩きつけられながらギリは思い出した。目の前の男は……三年前、誰も手がつけられない程強かったザンギャクを斬った男なのだと。

「あの時、お前はたった一人で、敵である俺にザンギャクを討つように頼みに来たな?」
「……俺はザンギャクに殺されたくなかっただけだ」
「だったら自分一人でとっとと街から逃げ出せば良かったはずだ」
「それは……」
「でも、お前は俺の所に来た。殺されるかもしれねえってのに」
「うぐぐ……」
「俺は……お前が仲間を見捨てられなかったからだと勝手に思ってたんだが……違うか?」
「……」
「あの時、俺がザンギャクを討つ事を承諾したのは、お前が、折れたイットー・リョーダンの修復の材料となるオーガの角を大量に分けてくれたからってだけじゃあない」
「いや、あれは分けたっていうか……あのナジミとかいうつのちぎりババァが無理やり俺の角をへし折って……」
「あの時俺は……命がけで敵に頭を下げに来たお前の勇気と覚悟と男気に……お前の強さに心打たれたんだ。それが今のお前は何だ!! 自分の保身の為だけに軽々と頭下げやがって!!」

 影光の鋭い言葉に、ギリはうつむいた。

「ギリ……俺とお前は種族も違う、文化も違う、生まれた世界すら違う。けどな、俺とお前に共通する事が一つだけある……」
「何です、それは?」
「それは、俺もお前も……ち○ちんが付いてるって事だ。男が頭を下げて良いのは……感謝と謝罪と挨拶と……後は仲間の為だけだ。自分の保身の為だけに簡単に頭を下げるのは……弱い男のする事だ」
「モモタロウさん……!!」

 再び顔を上げたギリの目には、力強い光が宿っていた。それを見た影光は満足気に頷いた。

「良し、それでこそお前は俺の知っている強いオーガだ!! そして、今のお前になら安心して頼める」
「何をですか?」

「俺達に……兵を貸して欲しい」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...