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勇者(?)召喚編
斬られ役、旅立つ
しおりを挟む13-①
旅立ちの朝が来た。
武光とナジミ、そしてジャイナの三人は、アスタト神殿の前で子供達、そして弟共々アスタト神殿で暮らす事になったイスミと、出発前の挨拶を交わしていた。
「イスミさん、留守の間……子供達をお願いします」
「ハイ、お二人もお気をつけて」
「ネーアちゃん、フウちゃんとリンちゃん、カザンとそれに……あと一週間ほどしたらイスミさんの弟さんも来るから、しっかり面倒みてあげてね!!」
「大丈夫です!! ナジミ様のお世話に比べれば!!」
「あはは……そ、そうだね。ネーアちゃんは私よりしっかりしてるもんね。フウちゃんとリンちゃんもイスミさんやネーアちゃんの言う事を聞いて良い子にしててね?」
「うん……早く帰ってきてね!!」
「きてね!!」
「それとカザンは……」
「あっ、ちょっと待って!! 武光、ちょっと……」
カザンは武光をみんなから少し離れたところに引っ張って行った。
「どないした?」
武光は片膝を着いてカザンと目線の高さを合わせた。
「ナジミの事……ちゃんと守ってくれよな」
「ああ、ナジミは俺が守ったる。その代わり、カザンはネーアちゃん達をしっかり守ったれよ」
「おう……女子はすぐ泣くし弱っちいもんな!!」
「よっしゃ、約束や!!」
武光は腰から竹光を抜くと、数センチだけ刀を抜いて戻した。刀の鍔が “キンッ!!” と音を立てた。
「今のは……?」
「……今のは《金打》って言って、武士が男同士の固い約束を交わすときにやるねん。よく時代劇とかで……って、見た事無いか。ほら」
武光がカザンに竹光を手渡すと、カザンも武光を真似た。再び刀の鍔が “キンッ!!” と音を立てた。
「じゃあ、戻るか!!」
「うん!!」
二人はナジミ達の所に戻った。
「えーっと、それから、カザン!! イタズラはホドホドにしなきゃダメよ?」
「おれだけ小言かよー。大丈夫だって!! 男同士の約束したしな、武光!!」
「武光様と約束?」
「男の約束だから女は聞いちゃダメなの!! なっ?」
「おう!!」
「……それじゃあ、みんな、行ってくるね!!」
「行ってらっしゃい!!」
子供達の元気な声を背に受けて、武光達は歩き始めた。旅が始まったのだ。元いた世界へ帰る為に、この国の各地に祀られている神の力を分けてもらう旅が。
歩き始めた武光達の背中が次第に小さくなり、見えなくなると、ネーアとフウ、リンの姉妹は泣き出した。泣き出した三人に留守を任されたイスミは優しく声をかけた。
「みんな、よく我慢したね」
「うっ……うっ……泣いたら……泣いたらナジミ様が心配しちゃうから……ひっく……」
「えらいね、みんな。カザン君も、我慢しなくて良いんだよ?」
「おれは……おれは男だから……弱っちい女子みたいに泣いたりなんか……泣いたりなんかしないの!! ……ちょっと出かけてくる!!」
そう言うとカザンは走り去ってしまった。
一方、武光達の方では……
「……もうええで」
「……うっ……うっ……うわぁぁぁぁぁぁん!!」
ナジミが大号泣していた。
「……よう我慢したな」
「な、泣いたりしたら……あ、あの子達が……心配しちゃう……から……ひっく」
「偉いなぁ、ホンマ偉いで?」
「た、武光様ぁぁぁ……あうっ!?」
ナジミは武光に抱き付こうとしたが、額に掌底を入れられ、阻止された。
「な、何するんですかぁぁぁ……胸くらい貸してくれたって良いじゃないですかぁぁぁ」
「顔から汁出過ぎやねん!! せめて鼻水とヨダレは拭け」
「じゃあジャイナさんで良いです!!」
「えっ、私!? ちょっ、待ちなさい……ぎゃー!!(お、おのれ唐観武光……覚えてらっしゃい!!)」
しばらくして、ナジミが落ち着くと、再び三人は歩き始めた。
「ところでジャイナさん、俺らが向かってるのってどこなんすか?」
ジャイナはアナザワルド王国の地図を取り出し、時計の文字盤で言う所の1時の位置を指差した。
「ここよ、対魔王軍、北の最前線……《クツーフ・ウトフ城塞》のすぐ近くの《セイ・サンゼン》という街ね、ここに向かうように指示が出ているわ」
「武光様、この土地には風の神様が祀られていますよ!!」
「ホンマか!?」
「ナジミさんの言う通りです。そしてここには風の神以外にももう一つ祀られている物があります……」
「何なん、それ?」
「……古の聖剣です」
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