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復活の聖剣編

斬られ役、疾走する

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 16-①

「武光様、起きて下さい!!」
「唐観武光、起きなさい!!」
「うーん……あと5分……」
「……せいっ!!」
「うげぇっ!?」

 ジャイナの めざましエルボードロップ!!
 会心の一撃!!
 武光は 飛び起きた。

「ゲフぁっ!? ジャ……ジャイナさん、いきなり何するんですか!?」
「起きない貴方が悪いのよ!! 他の戦士達は我先にと、とっくの昔に出発しましたよ……さっさと準備なさい!!」
「わ、分かった。ちょっと着替えるから部屋から出てってくれへん?」
「……分かりました、部屋の前で待つわ。行きましょ、ナジミさん」
「はい」

 ジャイナとナジミが部屋を出ると、武光はドアを閉めた。

 ……準備なさいと言われても。

 本当は……一睡いっすいも出来ていなかった。命のやり取りなんぞ、こちとら舞台の上でしかした事がないのだ。しかもその命のやり取りも所詮しょせんは芝居、斬られようが刺されようが死ぬ事は無いが、ここから先は斬られたり刺されたりしたら……本当に死ぬ。
 しかも、今度はアナザワルド城に登城した時とは違い、相手は最初からこちらを殺す気満々なのだ。口八丁手八丁くちはっちょうてはっちょうが通じる相手ではない。

 武光は大急ぎで着替えると、宿屋の窓をそっと開けた。とにかく怖かった……とてもじゃないが神殿に向かう気になどなれない。自分はただの斬られ役で、勇者でも戦士でも何でもないのだ。
 一階の部屋だという事が幸いした。っ取り刀で竹光一振りを持って窓から外に出た武光だったが、外に出た瞬間に、誰かに声をかけられた。

「あら? 田舎っぺのお芋ちゃんじゃない。田舎者は窓と扉の区別もつかないのかしら?」
「げっ、金ピカナルシスト……」

 ジャイナは他の連中はとっくの昔に出発したと言っていたが……この金ピカナルシスト共はまだ街に残っていたのか。

「何しとんねん……山に向かったんとちゃうんか?」
「ふふん、私達の見た所……あの山は簡単には攻略出来ないわ。聖剣に目がくらんで我先にあの山に突撃した連中はきっと今頃大苦戦しているでしょう。そうして、有象無象うぞうむぞうちゃん達が絶体絶命の危機におちいった所で私達、麗しの黄金騎士団が颯爽さっそうと登場して……優雅にッッッ!! 華麗にッッッ!! 美しくッッッ!! 敵を蹴散らし……私達の戦いを人々の記憶と心に刻みつけるのよ!!」

 恍惚こうこつの表情を浮かべ、嬉々として語るシルナトスに、武光は強い嫌悪感を抱いた。

「ふざけてんのか!! 皆……命がけで戦ってんねんぞ!!」
「だからこそよ!! 貴方の国で語り継がれている有名な戦いはあるかしら?」

 シルナトスの唐突な問いに戸惑いつつも武光は答えた。

「えっ……そらあるけど……だんうらの戦いとか、関ヶ原の戦いとか、大坂冬の陣・夏の陣とか……」
「その戦いの勝者の栄光や、敗者の生き様は今もきっと語り継がれているのでしょうね。戦場に散った者達は今もしのばれているかもしれないわ……でも」

 シルナトスの表情がどことなく暗くなった気がした。

「……名前も無いような戦いで散った者達はどうかしら……彼らの戦いは? 散りざまは? 戦士の魂は? 誰かがたたええてくれるかしら? 誰かがしのんでくれるかしら?」
「そ、それは……」
「だからこそッッッ!! 私達、麗しの黄金騎士団は……優雅にッッッ!! 華麗にッッッ!! 美しくッッッ!! 命の限りに戦場を舞うの。人々が戦士達の戦いを語り継がずにいられなくなるように……全ての戦場を伝説に!! 全ての戦士に栄光をッッッ!!」

 黄金騎士団の三人はポーズを取った。

「ま……美しさの欠片も無い田舎者には難しい話だったかもしれないわね。そろそろ頃合いね、私達も華麗に出陣──」
「た、大変だーーーっ!!」

 シルナトスの声は、街の東口の方から走ってきた男の叫びにかき消された。

 16-②

「お待ちなさい!!」

 東の入り口の方から武光達の方に走ってきた街の住人を、シルナトスが止めた。

「一体どうしたの?」

「ま……魔物だ……魔物の群れが……《オーク》の大群がこちらに向かって来てる!! に、逃げないと!!」
「落ち着きなさい!! 大群ってどれくらいなの!?」
「や、櫓の上から見た限りだと、少なくとも五十匹はいたように思います。あ、あと10分もすれば街の東口に到達します」

 五十匹を超えるの魔物の群れ、それを聞いて武光は身震いした。

「この街の守備隊は!?」
「か、風の神殿を奪還する為に街を出て行ってしまいました……戻ってくるには時間が……も、もうダメだ!! みんな殺され……あうっ!?」

 シルナトスは男にビンタをかました。

「しっかりしなさい!! 良い事、貴方は街のみんなに家に篭って絶対に出てこないように伝えるの!! 返事は!?」
「は……ハイ!!」

 男は転びそうになりながら再び走り出した。

「五十匹ね……私達だけじゃちょっとキツいかもしれないわね……お芋ちゃん、アンタ達も手伝いなさい!!」

 死の恐怖に怯える武光は思わず後退あとずさった。

「む……ムリや……俺にはでけへん!!」
「やらなきゃ皆、殺されるのよ!? この街の皆も…………アンタの仲間のあの芋巫女も!!」
「皆……殺される……? ナジミも……?」

 逃げ出そうとした武光の脳裏に、アスタト神殿の少年の顔が浮かぶ。


 ~~~~~

 
「ナジミの事……ちゃんと守ってくれよな」
「ああ、ナジミは俺が守ったる。その代わり、カザンはネーアちゃん達をしっかり守ったれよ」


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 ……心の中で、刀のつばが音を立てた。

「う……うぉああああああーっ!! く……くそったれがぁぁぁーーー!! やったらぁボケェェェーっ!!」
「ちょっ、お芋ちゃん!? どこ行くのよ!?」

 もはやヤケクソである!! 武光は半泣きになりながらも、自らを奮い立たせるように、雄叫おたけび上げて一目散に走り出した。

 目指すは街の中央広場だ。魔物の群れは……すぐそこまで迫っている。

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