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復活の聖剣編
斬られ役、加工する
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憧れの存在を目の前にして、テンションが上がり過ぎたカヤ・ビラキから吹き出した湯気は、ミトが咄嗟にカヤ・ビラキを鞘から抜き放ち、たまたま近くに置いてあった掃除用バケツの水をぶっかける事でようやく収まった。
〔……全く、いきなり水を浴びせるなんて……王家の姫君ともあろうお方が、剣とは言え、淑女に対して何たる仕打ち!! 私は悲しゅうございます!!〕
憤慨するカヤ・ビラキを前に、その場にいた三人と一振りは考えざるを得なかった……『淑女って何だっけ?』と。
〔ああ……イットー・リョーダン様の前だというのにこんなにズブ濡れで……私の瀟洒で上品な印象が崩れてしまったらどうしてくれるんですか!?〕
嘆き悲しむカヤ・ビラキを見て、その場にいた三人と一振りは思わざるを得なかった……『手遅れも甚だしいよ!!』と。
「ま、何はともあれ宿屋のご主人への謝罪と後片付けも済んだし、ええかげん始めるか……」
「気になってたんですけど、武光様はさっきから何をしようとしてるんです?」
ナジミは、指をバキバキと鳴らしている武光に問うた。
「ふははは……イットー・リョーダンを改造するのだ!!」
〔か……改造だと!?〕
まるで世界征服を企む悪の秘密結社のような武光の台詞に、イットー・リョーダンはたじろいだ。
武光は、自身が所属している劇団、舞刃団の中でも特殊なスキルを持っていた。
……竹光の製作である。
他のメンバーが各々所有している竹光は専門店で販売されている物だが、唯一武光の刀だけは自分で製作した物だった。
『どうせなら世界に一振りだけの、自分専用の刀で戦いたい』という目立ちたがり精神と、元々物作りが好きだった事も相まって、武光は独学で竹光作りを始めたのだ。
ちなみに、今手元にある竹光はMk-13で、市販品のような繊細な装飾は施されていないものの、強度と振りやすさは市販品と同等以上のレベルに達している。
そのスキルを活かして、聖剣イットー・リョーダンを扱いやすいように改造しようというのだ。
「まずは柄紐からやな……」
そう言って武光は、イットー・リョーダンの柄に巻かれた、黒ずんでボロボロの柄紐を解き始めた。
〔ちょっ……ちょっと待て武光!!〕
「何やねん!?」
〔そ、その……婦人の前で裸になるのはだな……〕
〔私は一向に構いませんッッッ!! むしろ大歓迎ですッッッ!!〕
「ミト!! カヤ・ビラキをバケツに浸けとけっ!! アホか、何照れとんねん……今のまんまやと振る度に手の中で滑るねん!!」
〔おわーっ!?〕
武光はボロボロの柄紐を取り去り、柄を丁寧に磨いて汚れを落とすと、3m程の長さの黒い平紐を取り出した。
「さてと……じゃあ、結び直すで」
〔……カッコ良く頼むぞ!?〕
「おう、任せとけ……俺の竹光と同じように巻いたるわ!!」
〔ばっ、馬鹿かーーー!?〕
「何やねん今度は!?」
〔お、お前……そ、そんな紐の巻き方……正気か!?〕
「菱巻きの何がアカンっちゅうねん!?」
〔良いか武光、窓の外を見てみろ〕
「外……?」
武光が窓の外に視線を向けると、向かいの酒場の前で一人の女性が客引きをしていた。女性は胸元とヘソの部分に大胆に菱形の窓を空けたセクシーなドレスを着ている。
「うへへへ……うげぇっ!?」
「煩悩退散ですっ!!」
「全く、鼻の下を伸ばして……最低!!」
女性のダイナマイトボディに見とれていた武光は、ナジミとミトによる、ヘ◯・ミッショネルズも真っ青の前後からのラリアットをモロに食らって悶絶した。
〔人間で言うと、あの女が着ているような服を着せられるようなものなのだぞ!?〕
〔ああ……そんな大胆なイットー・リョーダン様も……武光さん、やって下さい!! 今すぐに!! ハァ……ハァ……そ、想像しただけで……私が人間だったらご飯十杯はいけますよコレ!!〕
「ミト!! 水注ぎ足しとけ、蒸発してんぞ!! とにかく、一番これが握り易いねん、菱巻きでやるからな!?」
そう言って武光はイットー・リョーダンの柄に新しい柄紐を巻き始めた。《菱巻き》という、日本刀特有の巻き方だ。
「わぁ、武光様……意外と器用なんですね」
「まぁな。それはそうと……うーん、何か《目貫》の代わりになる物が欲しいなぁ……」
「何です、目貫って?」
「これや、これ」
ナジミに聞かれ、武光は自分の竹光を取り出し、柄を指差した。
「こことここなんやけど、柄と紐の間に小さな金具が挟まってるやろ?」
「あ、ほんとだ」
「これがあると、手溜まりが良くなるねんけどなー」
「あっ、じゃあ……コレなんてどうです?」
そう言ってナジミは1cm×5cm程の小さな蒲鉾型の木札を取り出した。
「これは、アスタト神殿名物の幸運の木札占いに使う物なんですけど……」
「おお、丁度ええ大きさやん」
「どうせならこの大吉の札を使っちゃいましょう、家内安全、商売繁盛、千客万来、無病息災、恋愛成就もこれを使えばバッチリです!! 私の持ち物にもこの幸運の木札を括りつけてあるんですよ」
「そんならナジミとお揃いやな」
「本当ですねー、ふふっ……」
笑い合う武光とナジミを見て、正体不明の焦りに突き動かされたミトは、カヤ・ビラキの三日月型の鍔の両端に小さな鎖で繋がれていた鷲の翼を象った小さな飾りを引きちぎった。
〔どぎゃーーーーー!?〕
ミトは、飾りを武光に突き出した。
「こっ……これも使いなさい!! 王家の者と同じ物を所持できるんだから光栄に思う事ね!!」
「あっ……うん。でも……カヤ・ビラキめちゃくちゃ痛がってへんか!?」
「良いから使いなさいよっ!!」
「分かった分かった!!」
武光はグイグイと飾りを押し付けてくるミトから飾りを受け取ると、ナジミの木札と、ミトの飾りを目貫の代わりにして、柄紐を巻き終えた。
武光はイットー・リョーダンを試しに何回か握ってみた後、うんと一つ頷いた。手にしっかりと馴染む……良い感じだ。
「さて、じゃあ後はこの丸太をぶっこ抜くだけやな!!」
〔ま、待ってくれ!! お、お願いだ、それだけは……それだけはやめてくれ!!〕
イットー・リョーダンの言葉に、柄紐を巻こうとした時とは比べ物にならない程の切実さを感じとった武光は、丸太を抜こうとした手を止めた。
「……分かった。じゃあ丸太は抜かへんけど……余計な部分は削らせてもらうで?」
「ああ、それで良い」
武光は宿屋の主人から借りたカンナで面取りをしつつ、余計な部分を削り始めた。円筒形だった丸太が次第に板状へと姿を変えてゆく。
形が整ったところで、丸太の先端を斜めにカットして木の表面がスベスベになるまでひたすら紙ヤスリで磨きあげ、最後に刀身の側面に彫刻刀で『一刀両断』と彫った。
「よし…………ふんっ!!」
武光はおもむろに立ち上がると、イットー・リョーダンを上段に構えて真っ直ぐ振り下ろした。
空気を裂く音が、今までの “ぶぅん” という鈍い音から “ビュン!!” という鋭い音に変わっている。
握りがしっかりした事と、余計な部分を削ぎ落として重量が軽くなった事、そして空気抵抗を受けにくい形状になった事でイットー・リョーダンは格段に扱いやすくなった。
武光は出来映えに満足して大きく頷いた。
「よっしゃ!! 出来たで二人共……って、寝とるがな」
昼過ぎから作業を始めたのだが、いつしか、夜も更けていた。武光はこういう作業をやり始めると、時間を忘れて没頭してしまうタイプなのだ。
「ま、明日の昼にはセイ・サンゼンを出なあかんしな……」
武光は寝ている二人を彼女達の部屋に運び込むと、後片付けをして眠りについた。
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