36 / 180
用心棒編
斬られ役、親玉を斬る
しおりを挟む36-①
ラトップ遺跡内は重苦しい雰囲気に支配されていた。
自分達の大将が討たれ、タイラーファミリーの連中は呆然とする者、嗚咽を漏らす者、力無く項垂れる者と様々だった。
「もうダメだ……タイラーファミリーはおしまいだ!!」
誰かが発した一言で動揺が広がってゆく。
「に、逃げるんだ……この街から逃げるんだ!!」
「そ、そうだ……俺は逃げるぞ!!」
「おう、命あっての物種だ」
「……待てッッッ!!」
武光は声を張り上げた。まだ幻璽党の親玉は生きている。ミトの話だと奴の周りには常に屈強な護衛が付いている。奴を確実に討つ為には戦力が必要だ。今ここでこいつらに逃げられるわけにはいかない。
「お前達……幻璽党の主力は壊滅させたんだぞ!! もはや残っている敵の数は俺達より少ねえ!! それなのにさっきから聞いてりゃ……」
武光はタイラーファミリーの連中をぐるりと見回した。
「これだけの人数が雁首揃えて……お前達の中にはシジョウの仇を取ろうっていう気骨のある奴はいねぇのか!! 幻璽党を潰して一気に成り上がってやろうっていう野心のある奴はいねぇのか!! お前達の中に……男はいねぇのか!!」
武光の一喝で、動揺していた残党達が静まり返った。
「……お、俺はやるぜ!!」
誰かが発した一言で熱気が広がってゆく。
「おう!! ボスの弔い合戦だ!!」
「そうだ、奴らを潰して名を上げるんだ!!」
「やってやる……やってやるぞ!! 幻璽党の息の根を止めてやる!!」
タイラーファミリーの男達が次々と立ち上がる。
「よし!! 行くぞお前らぁぁぁっ!!」
武光の檄に、雄叫びを上げて男達が応える。タイラーファミリー残党を引き連れて、武光は最後の戦いの場へと歩みを進めた。
36-②
血のように赤い夕日が、武光率いるタイラーファミリー残党とライチョウ率いる幻璽党を照らす。
両軍の距離はおよそ15m、両軍は街の大通りで対峙していた。ライチョウが声を張り上げる。
「負け犬どもが……何しに来やがった?」
「ライチョウ=トモノミナ、お前を……斬りに来た」
武光が、背中のイットー・リョーダンの柄に手を掛け二、三歩前に出ると、すぐさま護衛の兵がライチョウの周囲を囲んだ……なるほど用心深い。奴を斬るには何とか護衛を引き離さねばならない。
武光が更に歩みを進めると、幻璽党の一団の中から一つの影が飛び出してきた。ミトである。
「……私の雇い主に手は出させません!!」
「……死にたくなければそこを退け」
「貴方との因縁に今日こそ決着を付けます!! 皆さん……手出しは無用です!!」
「良いだろう……お前ら、手ぇ出すなよ!!」
ミトと武光は互いに背後に控える両軍に言った。両軍が見守る中、武光とミトは1mの至近距離で向かい合った。お互いに剣の柄に手をかけたまま、ピクリとも動かない。その場にいた誰もが息を呑んだ。
「………………………………………………………………つぁぁぁっっっ!!」
「………………………………………………………………たぁぁぁっっっ!!」
長い長い間間の後、二人の剣がぶつかり合った。二人は互いに飛び退くとすぐさま攻撃に転じた。
一合……二合……三合……両者の剣が激しくぶつかり合う。十五合目、武光のイットー・リョーダンによる真っ向斬りをミトがカヤ・ビラキを頭上に掲げて受け止めた。ミトが素早く身体を引き、両者は肩で競り合う状態となった。
「……ふんっ!!」
「くっ!?」
武光は、零距離ショルダータックルでミトを弾き飛ばして、突きを繰り出したが、ミトは嵐のような連続突きをギリギリで躱す。
「……こんのおっっっ!!」
「なんのっ!!」
ミトが繰り出した反撃の水平斬りを、今度は武光が片手側転で回避する。
「…………ふぅーっ」
「…………はぁーっ」
両者は息を吐きつつ距離を取り、構え直した。
……かくして、場面は本章冒頭に戻る。
沈みゆく夕日を背に、武光とミトが対峙している。武光は重心を深く落としてイットー・リョーダンを正眼に、ミトはカヤ・ビラキの切っ先を下げて、下段に構えた。
二人の後ろでは幻璽党とタイラーファミリー……二組の荒くれ者集団が、目を血走らせながら口々に『ぶっ殺せー!!』や『殺っちまえー!!』などと喚いている。
「おい、逃げるなら今の内だ……今度は泣いても許さねぇぞ?」
「ふん、泣いて命乞いをするのはそちらの方です!!」
二人が、じりじりと間合いを詰める。二人の間に、ひとひらの枯れ葉が舞い落ちた。
「……………だぁぁぁぁぁっっっ!!」
「……………はぁぁぁぁぁっっっ!!」
刹那、二つの影が交差した。
暫くの間、二つの影は地面に縫い付けられたように、微動だにしなかったが、不意に一つの影が崩れ落ちた。崩れ落ちた影を塗りつぶすかのように、地面に赤黒い染みが広がってゆく。
ミトは、地面に倒れ伏し、ピクリともしない武光を一瞥すると、武光の後ろに控えていたタイラーファミリー残党に剣を向けた。
「さぁ……残りは雑兵ばかりです、全員っ……斬り捨てなさいッッッ!!」
ミトの号令で幻璽党の兵隊達がタイラーファミリー残党に襲いかかった。
用心棒の武光がやられて動揺した残党は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、幻璽党がそれを血眼で追いかけ回す。そこは正に修羅場であった。
「貴方達も何を木偶人形のように突っ立っているのです!? 今こそ、将来の禍根を完全に断つのです!!」
ミトに言われて、ライチョウの周囲を囲む護衛達はライチョウの方を見た。
「良いだろう……お前らも行け!! タイラーファミリーの連中を一人残らず地獄に叩き込んでやれ!!」
護衛達とミトが、逃げた残党を追って走り去り、一人残されたライチョウは高笑いをした。
「はははははは………これで……俺の天下だぁーーーーー!!」
ひとしきり笑った後、ライチョウは地面に倒れ伏しているタイラーファミリーの用心棒に近付いた。
「フン、テメェのおかげで随分と兵隊が減っちまった。この……ゴミクズがぁぁぁっっ!!」
ライチョウは倒れている武光の頭を蹴り上げようとしたが、蹴ろうとした瞬間、軸足を掴まれ引き倒された。
「ぐっ!?」
「ようやく二人っきりになれたなぁ……」
付き合いたてのカップルみたいな台詞を吐きながら、倒れていた武光が “ばっ” と勢い良く飛び起きた。
「なっ!? て、テメェ……生きて……!?」
当然ながら武光は死んではいない、斬られた芝居をしただけだ。地面に広がる赤黒い染みも血糊である。全てはライチョウの周囲から護衛を引き離す為の武光とミトの作戦だったのだ。
「19の頃から各地を転戦……刀を振るう事六十数戦……ただひたすらに斬られ続けてきた俺の演技を……ナメんなボケェェェェェ!!」
“すん”
袈裟斬り一閃、イットー・リョーダンの一撃によって、幻璽党の親玉、ライチョウの身体は文字通り真っ二つに両断された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる