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用心棒編
魔将、現る
しおりを挟む37-①
「おおーい!!」
武光が両断されたライチョウの亡骸を見下ろしていると、大通り脇の飯屋から店主のタスマが出て来た。
「タスマさん……?」
「とうとう……やったな!!」
タスマは武光の両手を取った。目尻にはうっすらと涙が滲んでいる。
「良かった!! 本当に良かった!! これで……これで……」
「ええ、これで街に平和が──」
「……これで、この街は再び我々魔王軍のものだ!!」
「…………え?」
武光は自分の耳を疑った。呆気に取られている武光を見て、タスマが邪悪な笑みを浮かべる。
「ククク……馬鹿な人間共が勝手に潰し合ってくれたおかげで、我が軍はほぼ無傷で再びこの街を占領出来る」
「な、何を……何を言うてはるんですか!?」
「やれやれ……まだ分からないのか? タイラーファミリーと幻璽党の抗争は全てこの私が仕組んだ事だと言っているんだよ。この街がタイラーファミリーの手に落ちた時、魔王様より奪還を命じられた私は、タイラーファミリーを駆逐する為に、ある策を立てた。街外れの遺跡の一つに、宝石を入れた小さな宝箱を埋めてタイラーファミリーに発見させた後、幻璽党にその話を流したんだ。するとどうだ、欲に駆られた人間共がこの街に引き寄せられ、潰し合いを始めた……実に愚かで……醜く……滑稽だったよ!!」
タスマは高らかに笑った。
「まぁ、引き寄せられた人間が多すぎて、ここまで抗争が長期化したのは誤算だったが……それもお前が今日終わらせてくれた。感謝するよ、本当に……ありがとう!! どうした……もしかして怒っているのか? 悔しかったら私を斬ってみろ!!」
「おう……タスマさんの身体から出て行ったらな」
「チッ……気付いていたのか」
タスマの口から、黒い靄のようなものが出てきた。靄は空中で人の形に変化し、その正体を現した。体は赤黒く細身で、蝙蝠のような羽に、側頭部に羊のような角を持つ、その姿は正に悪魔であった。
異界渡りの書の効力で、普通の人間には見えないものが見えるようになっていた武光は、タスマの身体の中に、何か異様なものが入り込んでいるのに、会話の途中で気付いていたのだ。
「無実の人間を斬らせて、さらなる絶望に叩き落としてやろうと思ったが……」
「さらなる絶望……? アホ抜かせ!! 誰が絶望なんかしとるかボケ!! 望み通り細切れにしたるから降りて来いやコラー!!」
「フン……私は頭脳労働専門なんだ。私の名は魔将コウカツ!! その狡知雷の如しと讃えられし…… “ボカッ!!” ……ぐうっ!?」
コウカツは額に石をぶつけられた。
「何が『その狡智雷の如し』じゃー!! ほんならこっちは、力はサ◯シャイン、テクニックはザ・◯ンジャ、スピードはプ◯ネットマン、残虐性はジ◯ンクマン、ボディの強じんさはス◯ゲーター、見た目は大人、頭脳は子供じゃー!! ええから降りて来いコラー!!」
「貴様……楽に “ガッ” 死ねると “ゴッ” 思うな “ボカッ” ……ええい石を投げるのをやめろっ!? 三日後には我が配下の軍勢が到着する……貴様は我が軍勢で地獄に叩き落としてくれ “ゴスッ” ……くっ!!」
力で眼下の人間を抹殺する事は容易い……しかし策略を用いて自らの手を汚さずに勝つ事を己の美学とする魔将コウカツは、武光をその場に残して南に飛び去ってしまった。
コウカツの姿が消えた後、武光はイットー・リョーダンに話しかけた。
「なぁ、イットー……」
〔……何だ?〕
「逃げたらあかんかな? 1ミリも勝てる気せんのやけど……」
〔あれだけ啖呵を切った上に石まで投げつけておいてよくもまあ……〕
「いや、だって……素直に悔しがってアイツを喜ばせるん癪やんけ!!」
〔全く、君って奴は……今、君が逃げたらこの街の人達はどうなる?〕
「お前……それ言うんは卑怯やわ。そんな事言われても俺とミトの二人だけじゃどう考えても無理やて!!」
「二人だけじゃありませんよ!!」
「な……ナジミ!?」
途方に暮れる武光の前に、四十人近い数の屈強な男達を引き連れて、ナジミが現れた。
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