斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
37 / 180
用心棒編

魔将、現る

しおりを挟む

 37-①

「おおーい!!」

 武光が両断されたライチョウの亡骸なきがらを見下ろしていると、大通り脇の飯屋から店主のタスマが出て来た。

「タスマさん……?」
「とうとう……やったな!!」

 タスマは武光の両手を取った。目尻にはうっすらと涙がにじんでいる。

「良かった!! 本当に良かった!! これで……これで……」
「ええ、これで街に平和が──」
「……これで、この街は再び我々魔王軍のものだ!!」

「…………え?」

 武光は自分の耳を疑った。呆気あっけに取られている武光を見て、タスマが邪悪な笑みを浮かべる。

「ククク……馬鹿な人間共が勝手に潰し合ってくれたおかげで、我が軍はほぼ無傷で再びこの街を占領出来る」
「な、何を……何を言うてはるんですか!?」
「やれやれ……まだ分からないのか? タイラーファミリーと幻璽党の抗争は全てこの私が仕組んだ事だと言っているんだよ。この街がタイラーファミリーの手に落ちた時、魔王様より奪還を命じられた私は、タイラーファミリーを駆逐する為に、ある策を立てた。街外れの遺跡の一つに、宝石を入れた小さな宝箱を埋めてタイラーファミリーに発見させた後、幻璽党にその話を流したんだ。するとどうだ、欲に駆られた人間共がこの街に引き寄せられ、潰し合いを始めた……実に愚かで……醜く……滑稽こっけいだったよ!!」

 タスマは高らかに笑った。

「まぁ、引き寄せられた人間が多すぎて、ここまで抗争が長期化したのは誤算だったが……それもお前が今日終わらせてくれた。感謝するよ、本当に……ありがとう!! どうした……もしかして怒っているのか? 悔しかったら私を斬ってみろ!!」
「おう……タスマさんの身体から出て行ったらな」
「チッ……気付いていたのか」

 タスマの口から、黒いもやのようなものが出てきた。靄は空中で人の形に変化し、その正体を現した。体は赤黒く細身で、蝙蝠こうもりのような羽に、側頭部に羊のような角を持つ、その姿は正に悪魔であった。
 異界渡りの書の効力で、普通の人間には見えないものが見えるようになっていた武光は、タスマの身体の中に、何か異様なものが入り込んでいるのに、会話の途中で気付いていたのだ。

「無実の人間を斬らせて、さらなる絶望に叩き落としてやろうと思ったが……」
「さらなる絶望……? アホ抜かせ!! 誰が絶望なんかしとるかボケ!! 望み通り細切こまぎれにしたるから降りて来いやコラー!!」
「フン……私は頭脳労働専門なんだ。私の名は魔将コウカツ!! その狡知雷こうちいかづちの如しとたたえられし…… “ボカッ!!” ……ぐうっ!?」

 コウカツは額に石をぶつけられた。

「何が『その狡智雷の如し』じゃー!! ほんならこっちは、力はサ◯シャイン、テクニックはザ・◯ンジャ、スピードはプ◯ネットマン、残虐性はジ◯ンクマン、ボディの強じんさはス◯ゲーター、見た目は大人、頭脳は子供じゃー!! ええから降りて来いコラー!!」

「貴様……楽に “ガッ” 死ねると “ゴッ” 思うな “ボカッ”  ……ええい石を投げるのをやめろっ!? 三日後には我が配下の軍勢が到着する……貴様は我が軍勢で地獄に叩き落としてくれ “ゴスッ”  ……くっ!!」

 力で眼下の人間を抹殺する事は容易い……しかし策略を用いて自らの手を汚さずに勝つ事を己の美学とする魔将コウカツは、武光をその場に残して南に飛び去ってしまった。
 コウカツの姿が消えた後、武光はイットー・リョーダンに話しかけた。

「なぁ、イットー……」
〔……何だ?〕
「逃げたらあかんかな? 1ミリも勝てる気せんのやけど……」
〔あれだけ啖呵たんかを切った上に石まで投げつけておいてよくもまあ……〕
「いや、だって……素直に悔しがってアイツを喜ばせるんしゃくやんけ!!」
〔全く、君って奴は……今、君が逃げたらこの街の人達はどうなる?〕
「お前……それ言うんは卑怯やわ。そんな事言われても俺とミトの二人だけじゃどう考えても無理やて!!」
「二人だけじゃありませんよ!!」
「な……ナジミ!?」

 途方に暮れる武光の前に、四十人近い数の屈強な男達を引き連れて、ナジミが現れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...