斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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術士編

斬られ役、扉を叩く

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 50-①

 キサンの名前を出した途端とたん、リョエンがブチ切れた。

 家を追い出され、玄関前で戸惑っている武光達に、一人の女性が声をかけた。歳の頃は二十代後半くらいだろうか。長い髪を三つ編みにした理知的な雰囲気の女性だ。

「ええと……どちらさんですか?」
「私はサリヤ=バンガン、火術士として、ジューン・サンプ守備軍に加わっているわ」
「あっ、そうなんですか。はじめまして、俺、唐観武光って言います。で、こっちの貧乳がアスタトの巫女のナジミで、こっちの仮面のちんちくりんが監査武官のジャイナ=バトリッチです……うぼぁー!?」

 言い終わった瞬間、武光はナジミとミトに、ツープラトンのドロップキックを喰らわされた。仰向けに倒れた武光に容赦無いエルボードロップの追撃が襲いかかる!!

「もっとマシな……紹介の仕方は無いんですかっ!!」
「おげぇ!?」
「誰が……ちんちくりんよっっっ!!」
「おぶっ!?」
「「ハイっ!! サリヤさんも!!」」
「えっ!? リョっ、リョエンのぉぉぉ……意気地いくじ無しーーーっ!!」
「ぐはぁーーー!?」

 地獄のエルボードロップ三連発を喰らい悶絶もんぜつする武光を見て、サリヤは我に返った。

「ああっ!? つい二人の勢いに乗せられて……あなた大丈夫!?」

 武光に駆け寄ろうとしたサリヤを、ナジミが笑顔で制止した。

「大丈夫ですよサリヤさん、武光様は……斬られたりやられたりする演技がとーーーっても上手いんですからー」

 目が……目が笑ってない!! 何この巫女さん怖っ!! と言うか、巫女さんってあんなに激しく跳び蹴りしたり、容赦ようしゃ無く肘打ひじうちかましたりするものなの!?

 ……サリヤには、乾いた愛想あいそ笑いを浮かべる事しか出来なかった。
 ところで……と前置きして、今度はミトがサリヤに話しかけた。

「さっき言ってた『リョエンの意気地無し』ってどういう意味なの? それに、リョエンさんが怒り狂っている理由を知っているようでしたけれど」


「リョエンは……術が使えないの」


「ぅええええええええ!?」

 起き上がった武光は頓狂とんきょうな声を上げた。

「えっ!? ちょっと待って下さいよ、術使われへんってどういう事なんですか!?」

 武光に迫られて、サリヤは少し困った顔をした。

「うーん、『使えない』って言うのは少し語弊ごへいがあるかな……『びつかせてしまっている』と言った方が近いかもしれないわ」
「錆びつかせてしまっている……?」
「ボウシン家は昔から代々続く術士の家系でね、過去に何人もの偉大な術士を輩出はいしゅつしてきた名門なの、術士を目指す者ならその名を知らない者はいない程のね」
「へー」
「そんなボウシン家の中でもリョエンは素晴らしい才能を持っていたわ。並の術士なら、風術・地術・火術・水術のいわゆる《四術しじゅつ》の内、使える属性は、せいぜい一属性が関の山なのだけれど、リョエンは幼少の頃から火術と水術の二つの属性の術が使えた。それに……熟練の術士でも習得に2年はかかるような術をたった半年で習得したり、遂には弱冠10歳で王立の術士養成所の教導員試験を突破して、その養成所で教鞭きょうべんを取っていたわ……まさに天才、周囲の人間もボウシン家始まって以来の天才だと持てはやし、幼馴染おさななじみだった私も彼に憧れを抱いていたわ」

 そこまで言ったところで、サリヤは遠い目をした。

「でもね……妹のキサンちゃんが成長するにつれ、彼は変わってしまった」
「キサンさんが……?」
「キサンちゃんは……天才であるリョエンすら遥かに超えた超天才だったの。あの子は四属性の術が使える上に、リョエンですら習得に半年かかったような術をたったの三日で習得したり……天才を超える超天才、神童だった。それから……彼は変わってしまったわ。屋敷に引きこもるようになってしまって……」
「分かるわー、芝居の世界でもようおるんすわ、そういう奴」

 武光はサリヤの話にめちゃくちゃ共感していた。才能を持っている奴が、もっと凄い才能を持った奴を見て落ち込み、自信とやる気を無くして潰れていってしまう……『主役としてスポットライトを浴びたい!! 称賛しょうさんが欲しい!!』というタイプの奴がよくかかるアレだ。

 武光はどちらかというと『斬られ役だろうと何だろうと、芝居自体が楽しくて楽しくて仕方ないぜヒャッハーーーーー!!』というタイプなので、そういった事ではあまりヘコんだりはしないのだが。

「それからリョエンはずっと引きこもっていたんだけど、魔王軍の侵攻によって引きこもり続ける訳にも行かなくなった……術士の名門ボウシン家の長男としてこの街の防衛に駆り出されたの。でもね……長く引きこもっている内に、彼は火術も水術もほとんど使えなくなってしまっていたわ」 
「えっ、でも……俺らがトカゲ男に襲われてた時に、火をこう地面から……ゴォーッってやって、バーッてやって……」
「きっとそれは、彼があらかじめこっそり地中に仕掛けてあった火炎罠を作動させただけよ。今の彼の術は、ただの手品に過ぎないわ。街の皆はまだ気付いていないみたいだけど……こんな嘘はいつかバレてしまう。早く本当の事を皆に話した方が良いわ……今ならまだ間に合う、手品でも何でも、彼のおかげで敵を撃退出来たのには変わりないのだから、皆許してくれるはず。でも彼には……今の自分を認める勇気が無いのよ。だから、いつまでも術が使えるフリをして……」

 サリヤの話を聞いてミトは頷いた。

「さっきの『意気地無し』ってのはそういう事だったのね……」
「…………よっしゃ」

 深い深い溜息を吐いているサリヤを見て、武光はうん、と頷くと先程追い出されたばかりの玄関の前に立ち、ドンドンと激しく扉を叩いた。

「ちょっ、武光様!?」

「こんちわ---!! 佐◯急便ですーー!!」
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