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術士編

術士、現る

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 49-①

 武刃団の次なる目的地である《ジューン・サンプ》はボゥ・インレの南東に位置しており、時計の文字盤で例えるならば、ちょうど2時と3時の間あたりに位置している港街である。

 魔王の軍勢に奪われたクラフ・コーナン城塞の周辺の街が次々と占領支配されてゆく中で、ジューン・サンプだけは、未だに頑強なる抵抗を続けていた。
 この、決して大きいわけでもなく、守備の兵も多いとは言えない港街が、今日に至るまで魔王軍の侵攻を跳ね除け続けられてきたのは、とある術士の活躍が大きいと噂されていた。

 そして……その噂の術士こそ、武光達が探しているリョエン=ボウシンその人である。
 正規軍に先んじてボゥ・インレを出発した武光一行はジューン・サンプの目と鼻の先までやって来たが、魔物の待ち伏せにい、戦闘に突入していた。

「くっ……次から次へと……っ!!」
「あわわ……武光様、姫様、またトカゲ男です!!」
「わーっ!? あかーん!! もうあかーん!!」
「泣き言を言う暇があったら1匹でも多く倒しなさい!!」
「そんな事言うたかてオカン……」
「誰がオカンですかっ!!」
「わーっ!? お二人共、またトカゲ男が来ましたぁぁぁっ!!」

 武光達は次々と現れる全身をうろこに覆われたトカゲ男……《リザードマン》に徐々に追い詰められ、包囲されつつあった。

「くそっ……こいつらどこからいてきとんねん!! 多すぎるやろ!?」

 武光は、殴りかかってきたリザードマンの拳を姿勢を低くしてかい潜りつつ、イットー・リョーダンによる抜き胴で敵を両断した。
 
「確かに……おかしいわ、敵の数が多すぎる」
「このままやとやられてまう!! ここは一点突破して逃げ──」


「危険だ!! そこから動かないで!!」


 どこからともなく男の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、突如としてリザードマン達の足下から炎が上がり、炎に包まれたリザードマン達はパニックを起こした。
 炎から逃れたリザードマン達が次々と逃げ出してゆく。

 リザードマン は にげだした!

「危ない所でした……怪我はありませんでしたか?」

 全てのリザードマンが撤退した事で、何とか危機を脱した武光達の前に、白のロングコートのような上着をまとい、手に30cm程の長さの杖を持った一人の男が現れた。

 歳の頃は三十前後だろうか、ボサボサの髪に、無精髭と丸眼鏡という風貌を見て、武光は『歳くった出来の悪いハ◯ーポッター』みたいだなと思った。

「あ、貴方は……?」
「自己紹介は後です、奴らが戻ってくる前に急いでここを離れましょう、ジューン・サンプに私の家があります、話はそこで」
「は、はい!!」

 どうやら敵ではないようだ。男に連れられ、武光達はジューン・サンプに入った。

 49-②

 武光達は、男の家の応接間らしき場所に通された。

 ちなみに、応接間『らしき』というのは……部屋の中は散らかり放題で、床には本が山積みになり、脱ぎ捨てられた衣服が散乱し、テーブルは、天板の面積の殆どをいかにも怪しげな謎の液体が入ったガラスの容器に占拠され、もはや何の部屋か分からないからだ。
 武光達が唖然あぜんとしていると、二階から先程の男が降りてきた。

「すみません、お待たせしました」

 とりあえず武光達は男に先程の礼を述べた。

「さっきは危ない所を助けてもらって、ありがとうございました!! 俺、唐観武光って言います!!」
「ナジミと申します、アスタトで巫女を勤めさせて頂いております」
「監査武官のジャイナ=バトリッチと申します」

 ぺこりと頭を下げた武光達に、男は笑顔で応えた。

「いえいえ、無事でなにより。私の名は……リョエン=ボウシン、術士として微力ながらこの街の防衛に加わって──」

「「「……キターーーーー!!」」」

 突然叫びを上げた三人に、リョエンは戸惑った。

「あ、あの……?」
「あっ、すみません。実は俺、リョエンさんを探してたんです!!」
「私を……ですか?」
「はい!! 俺、術を学びたくて……あっ、そや。キサンさんからの紹介状も……」

 それを聞いた途端、穏やかだったリョエンの顔つきが険しくなった。

「キサンって……キサン=ボウシンですか……?」
「え、ええ……リョエンさんの妹さんの……」
「……帰れ」
「えっ?」
「……帰れぇぇぇーーーっ!!」
「ええーっ!?」
「兄より優れた妹なぞ存在しねぇ!! キエエエエエーーー!!」
「おっ、お邪魔しましたーーーっ!!」

 怒り狂うリョエンを見て、武光達は逃げるように家を出た。

「あー、びっくりしたー」
「リョエンさん、一体どうしたんでしょう?」
「キサンさんの話をした途端に、ああなっちゃったけど……」

「あなた達……リョエンにキサンちゃんの話をしたの?」

 背後から、声をかけられた。武光達が振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
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