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攻城編
死神、殺戮する
しおりを挟む64-①
破壊神砲から放たれた砲弾が、クラフ・コーナン城塞目掛け、光の尾を曳いて飛んでゆく。
数秒後、物凄い轟音がリヴァル達の所まで届いた……砲弾が着弾したのだ。
城塞上部が煙に包まれているのを見て、特別攻城部隊の兵士は歓声を上げたが、砲身の根元右側面にある砲手席に座っている特別攻城部隊の隊長はそれを窘めた。
「馬鹿野郎!! 浮かれるにはまだ早ええぞ!! 砲身の冷却と次弾の装填準備だ!! 測量兵、結界塔は……結界塔はどうなった!?」
煙が徐々に晴れてゆく。遠眼鏡で城塞の様子を観測していた測量兵が声を上げた。
「け……結界塔、健在!! ほ、砲弾は結界塔には命中していません!! 一番稜堡と五番稜堡の間の城門の上に着弾した模様です!!」
放たれた砲弾は一番稜堡と五番稜堡の間の城門の上の城壁をゴッソリと抉り取っていたものの、結界塔には命中していなかった。
「チッ……砲身の射角が浅過ぎたか!? 測量兵!! 再度の測量急げ!! 敵が来るぞおおおお!!」
隊長の言う通り、クラフ・コーナン城塞の北西門からリヴァル達のいる丘に向かって、敵軍が向かって来た。半人半馬の魔物、《ケンタウロス》の軍勢だ。その数、およそ六百。
攻城に加わっていた歩兵隊の一部が、ケンタウロスの軍団を止めようとしたが、ケンタウロスの軍団は、押し留めようとした歩兵隊を易々と突き崩し、砂塵を巻き上げ、凄まじい速度で一直線に向かって来る。
特別攻城部隊の護衛部隊百名は破壊神砲を守るべく、ずらりと並べられた馬防柵と逆茂木の後ろで矢をつがえた。
特別攻城部隊の隊長が護衛部隊に向かって叫ぶ。
「再照準は完了した、次は絶対に当たる!! 現在砲弾を装填中だ、何とか発射まで持ち堪えてくれ!!」
護衛部隊から鬨の声が上がった。全てを蹂躙する蹄の音がだんだんと近付いて来る。
ケンタウロス軍団の先頭が見えた。護衛部隊の隊長が弓隊に向かって右手を高く挙げて下知する。
「弓隊、斉射用意!! 放……なっ!?」
降り下ろされようとした手が止まった。馬防柵とケンタウロスの群れの間に、一人の影が現れたのだ。
紫の外套、鈍く輝く銀の鎧、そして……ギラリと輝く髑髏の仮面。
愛用の斧薙刀、《屍山血河》を携え、まるで散歩でもするかのような気楽さで、ふらりと現れたのは白銀の死神……ロイ=デスト将軍その人であった。
迫り来るケンタウロスの軍団を前に、無防備に突っ立っているロイを見て、リヴァルは思わず叫んだ。
「ロイ将軍!! 何をしているのです、そこは危険です!!」
ロイは横目でチラリとリヴァルを見たが、『つまらん事を言うな』と言わんばかりに、またすぐに正面を向いた。
ケンタウロスの軍団がロイの眼前まで迫る。その場にいた誰もが、ロイがケンタウロスの群れに無惨に踏み潰される光景を想像したが、その場にいた誰もが予想もしていなかった事が起きた。
“……ぼとり”
ロイが屍山血河を左から右に無造作に振るうと、ロイをその蹄にかけようとしていた先頭のケンタウロスの腰から上が、まるで元々、繋がってなどいなかったかのように、ぼとりと落ちたのだ。
それを見た後続のケンタウロス達が、ロイに襲い掛かったが、襲い掛かろうとしたケンタウロス達の上半身がぼとり……ぼとり……と次々に落ちてゆく。
敵も含め、その場にいた者達の中で、この異様な事態を正確に把握出来ていたのは、リヴァル戦士団の面々だけだった。
「……あの斬撃の速度……敵は斬られた事すら気付いていないだろう」
「それに……あの斧薙刀、振る度に真空の刃を飛ばしてますよー!?」
「どうやら、死神の異名は伊達ではないらしい」
敵は、襲い掛かろうとした時点で既に斬られていた。上半身を失ったケンタウロスの下半身が延々と逆茂木や馬防柵に突っ込んでは、屍の山を築いてゆく。
ロイが、さながら、木の枝を振り回してはしゃぐ少年のように、屍山血河を振り回して、悠然と敵の中を歩いてゆく。
敵の軍勢が、巨大な岩にぶつかった川の流れのように、二つに割れた。魔物の中でもかなり獰猛かつ凶暴だと言われるケンタウロス達が、目の前のたった一人の人間と戦う事を避けて……否、ケンタウロス達は避けられてなどいない、ロイの横を素通りしようとした敵は一体残らず両断された。
ロイの後ろで、動く者は…………いない。
敵も味方も恐怖した。あれが王国軍最強……あれが白銀の死神。
先程、歩兵隊を蹂躙したケンタウロスの突進はもはや完全に止まり、目の前で繰り広げられる、あまりにも一方的で凄惨過ぎる光景に、味方の兵にすら、気を失う者や、失禁する者まで出始めた。
「……もういい、貴様ら如きでは私に死力を振り絞らせる事は出来ん」
ロイが気怠げに、上空に向けて斬り落としたケンタウロスの首を放り投げ、火術で爆破した。それを合図に、ロイ麾下の騎馬隊が現れ、背後からケンタウロスの群れに牙を剥いた。
……それは、一匹の巨大な狼のようだった。ロイ麾下の第十三騎馬軍団が、敵軍の中を暴れ回っている。数の上では、ケンタウロス達はロイ達の何倍もいたが、彼らの前では、羊の群れに等しかった。
敵の数が恐るべき速度でみるみる減っていく。このまま行けば敵軍の壊滅……いや、殲滅も時間の問題かと思われたその時だった。
「撤退だ」
まだ三百近い敵が残っているというのに、突如として、ロイが撤退の命令を下した。第十三騎馬軍団が次々と戦場を離脱してゆく。
護衛部隊が困惑する中、ロイはスタスタと馬防柵の前までやって来た。
「リヴァル=シューエンはいるか?」
「はい、ここにいます」
リヴァルとロイが馬防柵を前にして向かいあった。
「リヴァル=シューエン……先に言っておく、文句があったら後で私の所に言いに来い」
「将軍……? 皆、柵から離れろっ!!」
白刃一閃、ロイの屍山血河が馬防柵を薙ぎ倒し、土煙を舞い上げた。そして、土煙が収まった時、そこにロイの姿は無かった。
ロイ達がいなくなり、再び迫り来るケンタウロスの群れを見て、護衛部隊が慌ただしく長槍で槍衾を組んで迎撃の構えを取る。
リヴァルは剣を抜いて構えた。
「ロイ将軍……分かりました。謹んで文句を言いに参上します!! 光術……斬魔輝刃!!」
リヴァルの剣が神々しい光を纏った。
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