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攻城編
豪傑、大剣を振るう
しおりを挟む65-①
三百体近いケンタウロスの群れが、破壊神砲に向けて再び前進を開始した。
護衛部隊が弓を放つが、ケンタウロスの鋼の如き強靭な皮膚の前では深手を負わせる事が出来ない。
馬防柵の穴を防ぐべく槍隊が組んだ槍衾も三百ものケンタウロスが走り始めたら、その突進を止める事は出来ないだろう。リヴァルは後ろに控えるキサンに言った。
「キサン、ランドウォールで壁を!!」
「ハイ!! 地術・ランドウォー……って、どうしましょー!? ここの土は柔らか過ぎてダメですー!!」
それを聞いたリヴァルは、背後の破壊神砲の護衛部隊に叫んだ。
「私達が前に出て、時間を稼ぎます!! 皆さんは少しでも守りを厚くして下さい!!」
「……よし、行くぞ」
ヴァンプが背中に背負っていた片刃の大剣を皮鞘から抜き、構えた。
「……リヴァル、キサン、援護を頼む。ダントは後方から敵の動きを教えてくれ」
「ああ、援護は任せろ!!」
「ハイ、ガンガンいっちゃいましょー!!」
「お任せ下さい!!」
ヴァンプを先頭に、リヴァルとキサンが敵に突撃した。
ダントが離れた場所から敵陣を観察して脆い所を伝え、そこに向かって突撃したヴァンプが大剣を振るって敵陣を突き崩し、ヴァンプの突撃を逃れた敵をリヴァルが光を纏った剣で斬り捨て、二人の背後を取ろうとする敵をキサンが術で屠る。
リヴァル戦士団の息の合った連携攻撃が、ケンタウロス達の前進を阻む。ダントの指示で、ヴァンプが四度目の突撃をかけた。
「……おおおおおおおおおっ!!」
「グァァァァァ!!」
「ギェェェェェ!?」
「ウガァァァァ!?」
ヴァンプが次々と敵を斬り伏せてゆくが、ヴァンプの大剣はどれほど魔物を斬っても切れ味が落ちなかった。それどころか、敵を斬れば斬るほどに、その鋭さと破壊力を増してゆく。
これこそ、ヴァンプの愛剣、《吸命剣・崩山改》の持つ力であった。
吸命剣・崩山……世界に数本しか存在しないと言われている、生命を吸う魔剣の内の一振りである。
崩山は相手を斬る度に、相手の生命エネルギーを奪い、刀身に蓄える事で、斬れば斬る程その切れ味と破壊力を増してゆく。
……そうして極限まで力を蓄えたその時、崩山の一撃は、その名の通り山をも切り崩すと言われている。
但し……崩山は、敵を斬り続けて生命エネルギーを吸収しきれなくなったその瞬間に、溢れ出したエネルギーが大爆発を起こし、持ち主を跡形もなく消し飛ばすという、今まで幾人もの持ち主の生命を奪ってきた、主殺しの魔剣でもあった。
そしてその魔剣に、蓄積されたエネルギーを強制的に全て吐き出させる為の装置を取り付けたのがヴァンプの崩山『改』である。
「……あと二体、いや三体はいけるか……? ……ふんっっっ!!」
ヴァンプは、向かってくるケンタウロスを真っ正面から縦に両断した……刀身が僅かに振動を始める。
「……せいっっっ!!」
自分の頭を潰すべく水平に振り抜かれた戦斧を体勢を低くして躱しながら、カウンターの逆袈裟斬りでケンタウロスを斜めに断ち割る……振動が大きくなり、刀身から湯気が上り始めた。
「……ぬぉぉぉあああっ!!」
キサンを背後から襲おうとしていたケンタウロスを、背中から袈裟懸けに斬り伏せる……ますます振動は大きくなり、刀身が赤熱化を始めている。もうそろそろか。
「……リヴァル、キサン、敵から離れろ。アレをやる」
「分かった!!」
「はいはーい」
リヴァルとキサンが敵から離れたのを確認すると、ヴァンプは腰を深く落とし、崩山改を右肩に担ぐように構えた。
「……喰らえ、崩山……斬月波ッッッ!!」
敵の群れ目掛けて、ヴァンプは渾身の力で崩山改を水平に振り抜いた。
取り付けられた放出装置によって、崩山改から放出されたエネルギーが巨大な三日月型の光刃となって飛んでゆく。崩山斬月波の通った後には、ズタズタに引裂かれたケンタウロスの屍が三十体近くも転がっていた。
「……チッ、流石に素早い」
ヴァンプは思わず舌打ちした。
思った程の数を仕留められなかった。生命エネルギーを放出しきってしまった崩山の切れ味は、そこらの包丁よりも劣る……だからこそ、その状態でも敵を断ち切れるように、崩山は桁違いの重量を持つ大剣になっているのだが。
「ヴァンプ、前衛は私がやる!! あと少し……あと少しだけ踏ん張れ!!」
「……すまん、リヴァル」
「とうっ!!」
リヴァルが、地を蹴り跳躍した。まるで川の中の飛び石を渡るように、ケンタウロスの背から背へと、相手の背中を蹴って飛び移りながら、蹴りざまにケンタウロスを斬り捨ててゆく。
リヴァルは、その軽業師の如き鮮やかな動きでケンタウロスを翻弄した。
そして、リヴァルが十体目の敵を斬り捨てたその時だった。
“ドォォォォォォォォォン!!”
凄まじい爆音を轟かせ、破壊神砲の第二射が放たれた。
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