斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
67 / 180
攻城編

死霊魔術師、襲来する

しおりを挟む

 67-①

「フム……少し狙いがずれておるか? 調整は完璧だと思ったんじゃが」
「な……何すんねんコラァ!!」

 武光がくさりの先から聞こえてくる声の主に向かって怒鳴りつけると、木々をかき分けながら大小二体の魔物が現れた。

 小さい方の魔物は、成人男性の胸くらいの身長と異様に大きな頭という、所謂いわゆるグレイタイプの宇宙人をしわくちゃにしたような魔物だった。

 そして、小さな魔物の背後に控えている大きな魔物だが、2m以上はあろうかという巨体は、頭のてっぺんからつま先まで、全身を鋼鉄の鎧に包まれ、背中に剣、槍、まさかり、金棒、鎌、長巻と……多数の武器を背負ったその姿は、まるで武蔵坊弁慶だった。ホッケーマスクのような仮面の下で、血走った双眸そうぼうがギラリと光る。

「お前ら……何者や!?」

 小さい方がニヤリと笑った。

わしの名は……センノウ、魔王軍一の《死霊魔術師ネクロマンサー》よ!! そして此奴こやつは儂の最新作にして最高傑作……ムカクじゃ!!」

 死霊魔術師と聞いて、武光は身構えた。

 ……そう言えばナジミから聞いた事がある。この世界の魔物の中には、死体の中に悪霊を入り込ませて、《屍傀儡しかばねくぐつ》を生み出し、自分の意のままに操るという、とんでもない罰当ばちあたりがいると。

「喜べ人間よ……お主、ムカクの記念すべき最初の犠牲者にしてやろう」
「い……いらんわボケ!! 何で魔王軍随一の死霊魔術師とやらが、城やなくて、こんな所で一人でうろついてんねん、アホか!!」
「ぐむむ……」

 武光の言葉に対し、センノウが一瞬、苦虫を噛み潰したような渋面じゅうめんを作ったのを武光は見逃さなかった。

「ははーん、さてはお前……ハブられたな?」
「な、何を抜かす!!」

 センノウは否定したが、武光の言った事は事実だった。
 種族によってまちまちだが、魔物といえど、大なり小なり仲間の死をいたむという感情は存在する。人間の屍だけでなく、時には自分達の仲間の屍をも道具としていじり、操る死霊魔術師ネクロマンサーは、魔物からも忌み嫌われる存在なのだ。

「わはははは、城に入るの拒否されてやんの!!」
「う、うるさいっ!! 儂のムカクが人間共の軍勢を蹴散らし、蹂躙じゅうりんするさまを見れば、奴らも儂の死霊魔術を認めざるを得んじゃろうて!! 貴様こそ……戦はとうに始まっておるのに、こんな所で何をしておるのじゃ!?」
「うっ……それは……」

 センノウの言葉に対し、武光が一瞬、苦虫を噛み潰したような渋面を作ったのをセンノウは見逃さなかった。

「ほほう、さては貴様……おくして逃げ出したな?」
「あああアホか!! そっ、そんなわけあるかー!!」
〔武光、隠せてない!! 全く動揺を隠せていないぞ!?〕
「まぁ、そんな事はどうでも良い……貴様はここでムカクの餌食になるのだからな。行けぃムカクよ、あの者を葬り去るのじゃ!!」
「くっ、出来るもんならやってみ──」

 武光がイットー・リョーダンを正眼に構えたその時だった。

「たぁぁぁーーーけぇぇぇーーーみぃぃぃーーーつぅぅぅーーーー!!」

 野生のイノシシ……もとい、ミトが 現れた!

「うらぁぁぁっ!!」
「おげぇっ!?」

 ミトの助走をつけたドロップキックが炸裂した。

「この……馬鹿ぁぁぁぁぁっ!!」
「おえええええ!?」

 ミトは、仰向あおむけに転倒した武光に馬乗りになり、胸ぐらを掴んで頭を激しく揺さぶった。

「痛でででで!! ちょっ……待てって!!」
「うるさーーーーーい!!」
「こ、こんにゃろっ!!」
「あんっ!?」

 武光は馬乗りになられた状態から、ミトの両脇に自分の両足をねじ込んで、TKシザースでミトをごろんとひっくり返し、体勢を入れ替えた。

「うがぁーーーーー!!」
「ちょっ、やめろや!! 暴れんな!! オイお前ら何、ぼーっとつっ立ってんねん、取り押えるの手伝えや!!」
「う、うむ…………って、何でじゃ!! ……ムカク!? 手伝わんでも良い!!」

 ここに来てようやくミトは二体の魔物の存在に気付いた。

「ハッ!? 魔物が何故ここに……まぁ良いわ。貴方達、自分の不運を呪いなさい。私は今、とっても虫の居所が悪いの!! ……覚悟しなさい!!」
「いや、そんな体勢ですごまれてものう……」
「ハッ!?」

 センノウに言われて、ミトは気付いた。

 自分が今、大股おおまた開きで、しかもまたぐらの下から顔を出した状態で転がされているという、マ◯スルリベンジャーばりのとんでもなく恥ずかしい体勢にされているという事に。

「わーっ!? ちょっ、武光離しなさい!!」
「……もう暴れへんか?」
「暴れない、暴れないから!!」
「……逃げた事も怒らへん?」
「ど、ドサクサにまぎれて……こ、コラ足を開こうとするなっ!! わ……分かったわよっ、ふ……不問に付しますっ!!」

 それを聞いた武光は拘束を解くと、素早く前回り受け身をしながらミトと距離を取った。

「よっしゃ……行くで!!」
「後で覚えておきなさいよ……!!」

 武光とミトは剣を構えると、センノウ達目掛けて突進した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...