斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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巨竜編

討伐隊、出陣する

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 76-①

 リヴァル戦士団の姿を見た武光は、ガチで泣きそうになった。

「ゔ……ヴァっさぁぁぁぁぁぁん!!」

 リヴァルに駆け寄り、その両手をヒシと握る。

「遅くなってすみません、武光殿……我々も同行させて頂きます!!」
「あ……ありがとう!! 来てくれてほんまにありがとう!!」
「何を水臭い、友達じゃないですか。それに……」
「それに?」
「上手く言えないのですが、あの巨竜が……私を待っているような気がするのです」
「あの竜が……?」
「全くー、リヴァルさんったら、言い出したら聞かないんですよー……って」

 武光とリヴァルの所にやって来たキサンは、武光の少し後ろに立つ男の存在に気付いた。

「兄さん……?」
「えっと……その……久しぶりだな、キサン」

 リョエンがキサンに話しかけた。その笑顔はどこかぎこちない。

「リョ……リョエン兄さん!!」

 キサンは目に涙を浮かべながらリョエンに抱きついた。

「兄さん……どうしてここに?」
「うん、色々あって今は武光君達と旅をしている。今まで……心配かけたな」
「もー、良いんですよーそんなことー、私達……兄妹じゃないですかー」

 リョエンはキサンの言葉に頷くと、涙を拭った。

「でも……兄さんが立ち直ってくれて本当に良かった」
「ああ、武光君のお陰だよ」
「そうなんですねー、武光さん……ありがとうございます」

 涙をぬぐい、深々と頭を下げたキサンに対して、武光は、はにかみながら、ぶんぶんと手を振った。

「いやー、そんな、俺は何もしてませんよー、先生には助けてもらってばっかりですし……だから顔上げて下さいよ、キサンさん!! …………あの、キサンさん?」

 武光は戸惑った。顔を上げたキサンは、何故かめちゃくちゃ不満気な顔をしている。

「えっと、あの……ごめんなさい、俺、何か失礼な事言いました?」
「どうしてですか……!!」
「えっ?」
「どうしてリョエン兄さんの事は “先生” って呼んで、私の事は “先生” って呼んでくれないんですかー!!」
「そこかー!! いや、だってリョエンさんには実際、火術とか教えてもらいましたし……」
「私だって、武光さん達とボゥ・インレで別れる前に、《とっておきのとんでもなく強力な術》を教えてあげたじゃないですかー!!」
「いやいやいやいや、あんなん分かりませんって」
「キサン、ちなみにその術は……どんな術なんだ?」

 リョエンに問われたキサンは得意げに答えた。

「まず最初に、 “ふんっ!!” って気合いを入れて “つあーっ!!” ってやって感覚を研ぎ澄ましたらー “ごばっ!!” ってなるからー、そこを “もがっ!!” としてー “てはーっ!!” ってなったらすかさず “はわーっ!!” としてー、 “しゃばば!!” 感が出てきた所を “ぎらぎら!!” な感じで “からからー!!” ってやって最終的に “にゃがー!!” ってなったのをー “ぐろろろろーーー!!” ってぶっ放すんですー!!」
「うん、さっぱり分からん」
「えー? 何でー!?」

 妹の壊滅的な説明力には、兄であるリョエンもガクリと肩を落とさざるを得ない。果たしてこの『とっておきのとんでもなく強力な術』とは如何いかなるものなのか。

「あれ、そう言えばヴァンプさんは?」
「ヴァンプなら……もうすぐ来ると思いますよ」

 リヴァルの言葉通り、しばらくすると、ヴァンプが広場に現われた。

 しかし様子がいつもと違う。ヴァンプはいつもは背中に背負っている大剣を、まだ出陣前だというのにさやから抜き、刀身を引きずりながら現われたのだ。
 ヴァンプの愛刀、吸命剣・崩山改の刀身は真っ赤に焼けた鉄のように赤熱化し、ゆらゆらと陽炎かげろうが立っている。

「……すまんな、残党狩りをしていたら遅くなった。だが、十分に力は蓄えた」
「ヴァンプさん……な、何なんすかその刀!? 何かエライ事なってますやん!?」
「……ああ、これか」

 その後、ヴァンプに『敵を斬り続け、刀身に蓄えた生命の力が限界を超えると大爆発を起こす』という、崩山の恐るべき特性を教えられた武光は、コソコソとヴァンプから離れた。

 そうこうしている内に、出陣のときを告げる鐘の音が鳴り響いた。

武光、リョエン、リヴァル戦士団の四人、そしてロイ=デストの巨竜討伐に志願した七人、それとミトとナジミは一か所に集まった。

「七人の巨竜討伐体か……ふっ……何か『七人の侍』みたいやな」

 巨竜討伐に志願した面々を見て武光がつぶやいた言葉にロイが小首を傾げた。

「七人の……何だそれは?」
「こっちの話や、気にすんな菊千代きくちよ
「誰が菊千代だ」
「わーっ!? お前すぐ刃物持ち出すのやめーや!! 引くわー」

 武光に言われて、ロイはしぶしぶ武器をおさめた。それを見た武光は、改めてぐるりと皆の顔を見回した。

「皆……志願してくれてほんまにありがとう。ほんなら……出陣する前に!! ちょっとだけ時間を下さい!!」

 そう言って武光は一人輪の中からスタスタと離れると、大空に向かって叫んだ。


「むっっっちゃくちゃ怖えぇーーーーー!! 行きたくねぇーーーーー!! …………よし!!」


 武光はうんと頷くと再び輪の中に戻った。

「ごめん、ちょっと腹の底に溜まってた恐怖を吐き出して来た。それじゃあ……本番行くか!!」

 出陣しようとする武光の背にナジミとミトが声をかけた。

「武光様……皆さん、お気をつけて!!」
「おう、俺は皆と絶対に帰って来る」

 振り返ったその目に、迷いや恐れは欠片かけらも無い。

「武光……ちゃんと帰って来なかったらタダじゃおかないから!! 処刑よ、処刑!!」
「帰って来ない時点で既に只事ただごとじゃない目にってるのに……追い討ちかけるとか、お前は鬼か……」
「う、ウルサイ!! とにかくちゃんと帰って来なさい!!」
「おう!! 二人共……祈りの儀式、やれるな?」
「任せて下さい!!」
「そうね、貴方風に言うなら……」

 ナジミとミトは顔を見合わせると、力強く言った。

「「へのつっぱりはいらんですよ!!」」

 言葉の意味は分からないがとにかく凄い自信だ。
 武光は二人の目を見て頷くと、再び前を向いた。

「よっしゃっっっ!! 行くぞーーー!!」

 武光達、七人の侍ならぬ『七人の巨竜討伐隊』は、ショバナンヒ砦から出陣した。
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