78 / 180
巨竜編
討伐隊、仕掛ける
しおりを挟む78-①
巨竜討伐隊の七人は瓦礫に身を隠しながら、まめ太に接近する事に成功した。
その距離およそ15m。
武光は目を凝らした。確かに、よく見ると、まめ太の顎の下の辺りが淡く光っている。武光は息を呑んだ。
「あれが弱点か……!!」
それにしてもデカい。仮にあの弱点を突いたとして本当に倒せるのだろうか。
「よし、貴様……行ってこい」
瓦礫に身を隠す武光にロイが言った。
「お……俺一人で!?」
「そうだ。大人数で近付くと気付かれるやもしれぬ。それに……もし奴が目を覚まして暴れ始めたら、貴様の出る幕はない。骨は拾ってやる……安心しろ」
「いやいやいや、安心出来るかっ!?」
「大丈夫です武光殿、万が一奴が目を覚ましたら……我々が全力で援護します!!」
「ヴァっさん……ええい……ままよ!!」
リヴァルの後押しを受けて、武光は意を決して一歩前に踏み出した。
大丈夫……俺は忍者(役)の経験も豊富や。大丈夫……絶対に行ける。
武光は自分にそう言い聞かせ、息を殺してジリジリと目標への距離を縮めてゆく……ここからまめ太のいる所までは、身を隠せる遮蔽物は何も無い。
(人に隠れて……)
全身から物凄い量の汗が噴き出す。まめ太はすぐそこにいるのに、とんでもなく遠い……まめ太までの距離、残り約10m。
(シュシュッと参上……)
一歩踏み出すごとに、自分の心臓の音で、まめ太が目を覚ましてしまうのではないかと思える程、心臓が激しく脈打つ……まめ太までの距離、残り約5m
(忍ぶどころか、暴れる……ゲェェェェェーッ!?)
まめ太が突然、ばちーんと目を開けた。しかも最悪な事に、武光はまめ太とバッチリ目が合ってしまった。
(あかーーーん!! ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ!! 見とるっ……めっちゃこっち見とるーーーーー!? こ……こうなったら……俺の演技力で誤魔化すしかあらへん!! 大丈夫や……俺は小さい頃からテレビで新喜劇を見て育ってきた……めだか師匠……俺に力をッッッ!!)
武光は決死の覚悟を決めた。
「…………んにゃ~~~」
「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ひーっ、全然あかーーーん!?」
武光は ねこのフリをした。
しかし まめ太にはきかなかった!!
巨竜まめ太が立ち上がり、咆哮を上げた。
「武光殿、こちらです!!」
武光を援護すべく、物陰から飛び出したリヴァルを見て、まめ太は尻尾を激しく左右に打ち付けると、再び天に向かって吼えた。
「ふふ……やはりしくじったか。まぁ良い、あの竜は……普通に殺す!!」
紫の外套を翻し、ロイがまめ太に肉薄する。
「フン!!」
まめ太はロイを踏み潰そうとしたが、ロイは地面に向けて風術をぶっ放す事で真上に飛翔し、踏みつけを回避した。屍山血河を構え、顎の下の弱点目掛けて、放たれた矢のように、一直線に翔んでゆく。
「ガアアアアアッ!!」
「ぬうっ!?」
ロイの一撃がまめ太の弱点を貫くかと思われた次の瞬間、ロイはまめ太の前肢による横殴りの一撃で、僅かに形を留めていた城壁に物凄い勢いで叩きつけられた。
「ぎゃーーーーー!? シュワルツェネッ太が死んだぁぁぁぁぁーーーーー!?」
武光は思わず叫んだが、舞い上がる土埃の中からロイは地獄の幽鬼の如く、ゆらりと立ち上がった。
ロイは壁に叩きつけられる寸前に、壁に向かって風術を放ち、激突の衝撃を相殺していたのだ。
「ククク……アーッハッハッハーーー!! 良いぞ……もっとだ……もっと私に死力を振り絞らせろ!!」
高らかに笑うロイを見て、武光は確信した。アイツ……絶対にアブないクスリやっとる!!
「ククク……行くぞ!!」
ロイが風術を駆使して飛び回り、再びまめ太に襲いかかる。ロイの一歩間違えば即、死に繋がるような闘いぶりを見たリヴァルが叫んだ。
「皆、ロイ将軍を援護するんだ!! 光術、退魔光弾!!」
ロイへの注意を逸らすべく、リヴァルが、右の掌から光弾を放った。光弾はまめ太の顔面を直撃したが、まめ太はそれをものともしない。
「くっ、ダメか!!」
攻撃を受けたまめ太はリヴァルをジッと見つめた。リヴァルは身構えたが、まめ太はリヴァルを無視して、再びロイに襲いかかった。
「あの竜……?」
リヴァル達から少し離れた位置からまめ太の動きを観察していたダントが叫ぶ。
「足首です!! あれだけの巨体です……あの巨体を支えている足首をやれば恐らく、奴は自らの体重を支えきれなくなって倒れ伏すはずです!! その隙を狙って弱点に攻撃するのです!!」
ダントのアドバイスにキサンが頷いた。
「ダントさん……分かりましたー!! 兄さん、私達は右足を!!」
「ああ!!」
「……武光、俺達は左足だ」
「分かりましたヴァンプさん!! ヴァっさんはトドメの一撃を!!」
「分かりました!!」
武光、ヴァンプ、キサン、リョエンは横一列に並んだ。
「ふっふっふー……いよいよ《とっておきのとんでもなく強力な術》を使う時がきましたかー!!」
そう言って、キサンは鉄扇をパチンと閉じると、扇の先端をまめ太の足首に向けた。
「キサン、私も研究の成果を披露しよう……テンガイ!!」
〔ガッテンショウチ!! アタタタタタタタタタタタ……ホァタァ!!〕
リョエンはテンガイの穂先をまめ太の足下に向け、ありったけの雷導針を撃ち込んだ。
「……この一撃に全てをかける!!」
ヴァンプはどっしりと腰を落として、赤熱化している崩山改を右脇に構えた。
「よっしゃ、みんな……行くで!!」
武光は息を深く吐き、精神を集中した。
「……レイ・オブ・デストラクション!!」
「雷術……大雷蛇!!」
「……崩山斬月波ッッッ!!」
「か……み……か……ぜ……波ーーーーー!!」
眩い光線、轟く雷、唸る光刃、そして微かな風がまめ太の両足首に襲いかかる。
ダントの読み通り、足首に攻撃を受けたまめ太は、長く尾を引くような叫びを上げて、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
「今や、ヴァっさん!!」
「ええ!! ……光術、斬魔輝刃!!」
リヴァルの剣が神々しい光を纏う。
「うおおおおおおおっ!!」
リヴァルは倒れたまめ太との距離を一気に詰めると、顎の下の弱点目掛けて剣を振り下ろそうとした…………だが!!
「んん!? なっ!? あ、あかーーーん!! ヴァっさんストーーーーーップ!!」
リヴァルの剣がまめ太の弱点を斬り裂く寸前、武光がリヴァルを制止した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる