斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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巨竜編

巨竜、落涙する

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 79-①

 リヴァルの剣は、まめ太の弱点を斬り裂く寸前でピタリと止まった。

「どういう事です、武光殿!? 待てとは……?」
「まめ太はヴァっさんの事を……自分の主人やと思とる!!」
「私が……主人!? そんなまさか………何故そんな事が分かるのです!?」
「えーっと……そう言われると……何でやろ……うーん……あーっ!? そうか……異界渡りの書の力やわコレ!!」

 異界渡りの書に名を記した者に授けられる、『三つの特別な力』の一つ……『この世界の言葉を理解出来るようになる力』が突如として発動し、武光はまめ太の言葉を聞いたのだ。

「みんな……ちょっとだけ俺に時間をくれ!!」

 武光は恐る恐るまめ太に近付き、話しかけた。

【こらーーーお前、何で暴れ回るんや!?】

 武光以外には、武光が謎のうなり声や奇声を発しているようにしか聞こえなかったが、まめ太には、武光の《竜の言語》が伝わっていた。

【ごしゅじん むかえにきた うれしい!!】

 まめ太は立ち上がり、短くえた。

【ごしゅじん……ヴァっさんの事か?】

 武光がリヴァルを指差すと、まめ太は『くぅ』と鳴いた。それを聞いて武光は理解した。
 まめ太が物陰から飛び出したリヴァルを見た時、やたらめったら尻尾を左右に振り回して、天に向かって吠えていたのは……大好きなご主人が仕事から帰ってきた時のワンコと全く同じ反応だったのだ。

【えーっと、あの人はお前のご主人様やないで】
【ごしゅじん ちがう?】

 武光に言われて、まめ太はリヴァルをジーーーーーッと見た。

【ごしゅじんのにおい!! ごしゅじん!! ごしゅじんがむかえにきた!!】
【わーっ!? こ、コラっ尻尾を振り回すな!! 飛び跳ねるのも駆け回るのもダメっ!! ……めっ!!】

 武光に怒られて、まめ太は “どすん!!” と、おすわりをした。衝撃で地面が揺れる。

「武光殿……本当にあの巨竜と会話しているのか? す……凄い」

 リヴァルが驚嘆きょうたんしていると、武光に手招きされた。
 リヴァルはいつでも反撃出来るように身構えつつ、武光のすぐそばに立った。

【どうや……?】
【おなじかお……おなじこえ……でも……ごしゅじん……ちがう? ごしゅじんはどこ?】

 不安げに周囲を見回すまめ太に、武光は優しく声をかけた。

【よしよし……落ち着け、お前のごしゅじんの名前は……?】
【ごしゅじんのなまえは……アルト】

 まめ太から主人の名前を聞いた武光は、その名をリヴァルに聞いてみた。

「こいつの主人の名前らしいんやけど……ヴァっさん聞いた事ある?」
「武光殿、聞いた事あるも何も……それは、いにしえの勇者の名ですよ!!」
「って事は……こいつの主人はとっくの昔に……」

 真実を伝えるべきか武光が迷っていると、リヴァルがまめ太に話しかけた。

【待たせたな……ラゴウ、良い子にしていたか?】

「ヴァっさん……? いや、違う……? 誰や……これ?」

 武光は戸惑った。リヴァルが突如として竜の言語を話し始めたのだ。

【ごしゅじん!! ごしゅじん!! また いっしょにくらす!!】

 まめ太は尻尾を千切ちぎれんばかりに左右に振ったが、リヴァルは悲しげに首を左右に振った。

【それはできない……会いに来るのに時間がかかり過ぎた。私はもう……この世にはいないんだ】

 まめ太はリヴァルの目をジッと見つめた。そして、リヴァルの言っている事が真実である事を理解したまめ太は、ゆっくりと立ち上がると、天に向かって、悲しげに遠吠えをした。その目からは大粒の涙があふれている。

【ラゴウ……悲しまなくても良い。私の肉体は滅びたが、私の魂はいつもお前のそばにいる……おいで】

 リヴァルに手招きされたまめ太は、顔をリヴァルに近付けた。

【それにしても、こんなに大きくなって……もう、だっこは出来ないな】

 苦笑しながら、リヴァルはまめ太のあごの下を優しくでた。まめ太が、嬉しそうにのどを鳴らす。

【ふふ、お前は昔からあごの下が弱いなぁ。ラゴウ……お前は大きくなり過ぎた。どこか人のいない島を探して静かに暮らすんだ、良いな?】

 まめ太がグルルと短く応じたのを見たリヴァルは『よし』と頷いた。その直後、足元がふらついて倒れそうになったリヴァルを隣にいた武光は慌てて支えた。

「お、おい!? ヴァっさん、大丈夫か!?」
「た、武光殿……私は一体……?」
「へ? 覚えてへんのかいな?」
「ええ、何者かが私の肉体に入り込んだような感覚があったのですが……」
「そっか……ま、ええわ。まめ太はもう……暴れへん」

 巨竜討伐隊が見守る中、まめ太は新たな住処すみかを探して歩き始めた。
 武光はまめ太の背中に向かって叫んだ。

「元気で暮らせよーーーーー!!」

「くくく、そうは行くものか-----!!」

 何者かが、転移の術でまめ太の頭の上に現れた。

「あれは……っ!?」

 センノウが 現れた!
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