81 / 180
巨竜編
討伐隊、駆ける
しおりを挟む81-①
センノウの放った怨霊の塊が、まめ太の胸部に吸い込まれたかと思うと、まめ太が苦しみ始めた。まめ太の蒼い巨躯が、まるで白い紙にインクをぶち撒けたかのように黒く染まってゆく。
【大丈夫かーーー!? おおーーーい!!】
武光の呼びかけにも、まめ太は応えない。まめ太の体が完全に黒く染まり、透き通った水晶のような頭部の角や、背中の鰭が赤黒い焔を纏う。
【まめ太ーーー!! 大丈夫か……って、ぎゃーーー!?】
間一髪、まめ太に踏み潰されそうになるのを武光は猛ダッシュで避けた。
【まめ太ーーー!! しっかりしろーーー!! まめ太ーーー!!】
必死に呼びかける武光を、センノウが嘲笑う。
「無駄じゃ無駄じゃ、あの竜はもはや儂の操り人形よ!! 行けい、まめ太よ……まめ太? ……まぁ良い、人間共を皆殺しにするのじゃ!!」
まめ太が空気を切り裂くような、凄まじい咆哮を上げた。
「くっそーーーあの野郎……もっぺんキャメルクラッチぶちかましたる!! 行くぞッ、イットー!!」
〔ああ!!〕
「邪魔はさせぬ……!!」
「おわーーー!?」
〔おわーーー!?〕
センノウのもとへ向かおうとした武光の足下にロイが火炎弾を撃ち込んだ。
「くくく……さぁ来い巨竜よ……私に死力を尽くさせろ!!」
死神は屍山血河を構えると、地面に向けて風術をぶっ放し、再度飛翔した。
「よっしゃ……今のうちじゃーーー!! センノウを……って、ひーーーっ!!」
またしても、武光の足下に空中から火炎弾が撃ち込まれた。
「邪魔はさせぬと言った!!」
高速で飛翔し、まめ太と闘いながらだと言うのに、ロイは武光がセンノウに接近する隙をまるで与えない。
やはりコイツは只者ではない、討伐隊の六人は息を呑んだ。
「ぐぬぬ……あかん、全然近付かれへん!!」
ロイに足止めを食らっている間に、自分が狙われると分かっているセンノウは武光達からどんどん離れてゆく。
怨霊玉の生成で魔力を消耗したのか、転移の術は使えないようだが、このまま奴に逃げられてしまっては、暴走するまめ太を止める術はない。
「武光殿、皆で力を合わせましょう!! あの死霊魔術師を逃してはなりません!!」
「応っ!! 行くぞぉぉぉぉぉーーー!!」
武光達は、センノウ目掛けて走り出した。ロイがすかさず空中から、武光達目掛けて火炎弾を放つ。
「水術……《噴水障壁》!!」
リョエンの水術によって地面から噴出した水の壁がロイの放った火炎弾を打ち消した。
「皆さん……今の内に!!」
「すんません……先生!!」
センノウとの距離、残り50m
「小賢しい!!」
まめ太の尻尾による横殴りの一撃を回避しつつ、ロイは武光達を切り裂こうと、屍山血河を振るって真空の刃を放った。
「地術……ランドウォール!!」
キサンの地術によって隆起した地面が、壁となって真空の刃を防ぐ。
「はいはーい、残念でしたー。みなさん……後は任せましたよー」
術を使う為の精神力を使い果たしたキサンはその場にペタンと座り込んだ。
センノウとの距離、残り30m
「おのれ……膾に刻んでくれる!!」
ロイが、先頭を走る武光目掛け、屍山血河を大上段に振りかぶりながら急降下してきた。
「そうは……」
「……させん!!」
リヴァルとヴァンプが剣と大剣を交差させて、振り下ろされた屍山血河を受け止め、ダントがロイに背後からしがみつく。
「離せ雑魚共が!!」
「くっ……なんて力だ!? 武光殿!!」
「……長くは抑えられん、行け!!」
「よっしゃっ!!」
センノウとの距離、残り10m
「くっ……貴様ら、邪魔をするなあああああっ!!」
ロイに必死にしがみつきながら、ダントが叫ぶ。
「唐観さーーーん!! センノウは北北東に向かって逃げています!! あと8mですよーーー!!」
「チッ!!」
ロイは、リヴァルとヴァンプに武器を押さえつけられ、ダントにしがみつかれて、背後を見る事が出来ないながらも、ダントの叫んだ方角に左手で火球を放った。地面に着弾した火球が大爆発を起こす。
「フン、監査武官よ……正確さが仇になったな……これであの異界人は塵に──」
「センノウーーー!! 覚悟しろコラぁぁぁぁぁ!!」
「何だと!?」
センノウが逃げていた方角は、北北東ではなく……北北西だった。
「貴様ぁぁぁっ!!」
ロイに肩越しに睨みつけられたダントは萎縮しながらも、少し硬ばった笑みを浮かべた。
「監査武官にあるまじき行為ですが……上官に嘘をつかせて頂きました」
センノウとの距離、残り1m!!
「うおおおおおっ!!」
〔喰らえええええっ!!〕
“すん”
イットー・リョーダンの一撃がセンノウを斬り裂いた!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる