斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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巨竜編

火の神、宿る

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 82-①

「はぁ……はぁ……や、やった!!」

 センノウを斬り捨てた武光は、深く息を吐いた。

「これでまめ太も元通りに…………なってへーーーん!?」

 センノウは倒したというのに、まめ太は元に戻らない、それどころかますます凶暴さを増して、ロイやリヴァル達に襲いかかっている。

「くくく……お、愚かなり人間!!」
「うぇぇっ!? お前……生きて……!?」

 武光とイットー・リョーダンによって肩口から袈裟懸けさがけに両断され、死んだと思われたセンノウが声を発した。

「はぁっ……はあっ……き、貴様は大きなあやまちを二つおかしておる……儂を殺したところで、あの竜にかけた死霊魔術は……と、解けぬ……むしろ制御が……き、効かなく……なった……」

 息も絶え絶えにセンノウは続ける。

「そ、そして……も、もう一つの……あ、過ちは……」

 口からゴボリと血泡けっほうを吹き出しながらも、センノウは笑った。

「この儂が…………魔王軍随一の死霊魔術師ネクロマンサーという事を失念した事よ!!」
「うおおおっ!?」
〔た、武光!?〕

 死に際のセンノウの肉体から光の玉が飛び出し、武光の体の中に吸い込まれた。

 82-②

 武光の体内に侵入したセンノウの魂は、武光の魂の在る場所へと向かっていた。

「ほぅ……あれじゃな?」

 センノウの視線の先に淡い光が見えてきた……武光の魂である。あれを破壊し、肉体を奪うのだ。

「貴様の魂、破壊し尽くして……ッッッ!?」

 センノウは思わず動きを止めた。何かが……いる。それも……途轍とてつもなく強大な何かだ。

 ……その何かが、センノウの存在に気付いた。

「あん? 何だてめえは? 邪魔だ邪魔だ、とっととせろ!!」

 失せろと言われて、ハイ分かりましたと出て行くわけにはゆかない。
 何せ戻るべき肉体はこの男に真っ二つにされて既に死んでいる……宿るべき肉体が無ければ、流石のセンノウと言えども、どうする事も出来ずに地縛霊に成り果て、消滅を待つしかないのだ。

「そうは行くものか!! 貴様……この儂を誰だと……」
「知るかバカヤロウ!!」
「あ、熱い!? 熱い熱い熱い熱い熱い……た、助けてくれぇぇぇぇぇっ!! ぐ……ぐわあああああああーーー!!」

 武光の肉体に入り込んだセンノウの魂は、塵も残さず《焼滅しょうめつ》した。

 82-③

〔武光!? おい、武光!?〕

 イットー・リョーダンは困惑した。

 センノウの魂が体内に侵入して “ばたーーーん!!” とぶっ倒れてしまった武光は、その後すぐに目を覚ましたものの、明らかに様子がおかしかった。

「……ったく、どいつもこいつも人ん家の庭で暴れ回りやがって。あの竜も骸骨も……両方ぶっ飛ばして黙らせてやるか!!」

 やはりおかしい、基本ヘタレでビビりの武光が、いつものように限界ギリギリまで追い詰められてヤケを起こす前に『いのちだいじに』ではなく『ガンガンいこうぜ』を選ぶはずがない。 

〔お……おい武光、何を言ってるんだ!? 相手はあの巨竜と王国軍最強の死神なんだぞ。逆立ちしたって君が勝てる相手じゃない!!〕

 まさか体内に侵入したセンノウの魂が武光の肉体を乗っ取ってしまったのか……いや、それならば、ロイはともかくまめ太までぶっ飛ばすとは言うのはおかしい。

 一体何がどうなって──

 イットーの思考はそこで中断された。武光が突如として、激しい戦闘を繰り広げているまめ太とロイの間に向かって走り出したのだ。

〔わーっ!? おいやめろ!! あんな所に飛び込んだら2秒で死ぬぞこのバカ!!〕

 武光に気付いたまめ太が地面を薙ぎ払うように尻尾を振るった。地面をガリガリとえぐりながら巨大な尻尾が武光に迫る。

〔逃げろ武光!!〕
「危ない武光殿!!」
「逃げるんだ武光君!!」

 討伐隊の面々は武光に向かって叫んだが……間に合わない!! 武光はまめ太の尻尾に擦り潰されて肉片と化した、誰もがそう思った…………だが!!

〔………んなぁぁぁっ!?〕

 武光は……まめ太の尻尾を片手で止めていた。

「あぁん? 何だこりゃあ……コイツ悪霊に取り憑かれてやがんのか。うーん……しゃあねぇ、助けてやるか……《清めの炎》!!」

 武光がまめ太に向かって右手をかざした瞬間、まめ太の巨体が一瞬で炎に包まれた。紅蓮の炎に包まれたまめ太が叫びを上げる。

「おおー、流石はリョエン兄さん!! あんな強力な火術を編み出して、武光さんに伝授してたなんてー!!」
「い、いや……違う」
「え……?」

 両手を地に着き、苦しそうにうめき声を上げるまめ太を見ながら、キサンは隣に立つリョエンに笑いかけたが、リョエンは首を左右に振った。

「あれは、私が教えた術なんかじゃない!!」
「そ、そんなー……じゃあ、あれは一体……?」

 困惑するキサン達の見つめる先で、まめ太は長い長い叫びを上げて倒れ伏した。ぐったりとしているが、センノウに怨霊の塊を植え付けられて、黒く染まっていた体は元の蒼色に戻っている。

「これでよし……っと!! よく頑張ったな!!」

 まめ太が元の状態に戻ったのを見た武光は、腕を組んで大きくうなずいた。

「さてと……次はてめぇだ!!」

 武光に指を差されたロイはゆっくりと地面に降り立った。武光を睨むその目には、憤怒ふんぬどころか憎悪と殺意すらこもっている。

〔お、おい……ヤバいぞ武光!! アイツめちゃくちゃ怒ってるぞ!?〕
「あと一歩……あと一歩で……死の領域から抜け出せたものを……貴様ァァァッッッ!!」

 いつもの武光であれば即逃亡、又は土下座している所だが、武光は逃亡するどころか不敵な笑みすら浮かべた。

「ガタガタうるせーよ!! てめーは、この《火神・ニーバング》様がボコってやんよ!!」
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