斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)

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巨竜編(裏)

新兵、固まる

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 90-①

 ショウダにナジミ達を取り押さえるよう命じられた兵士達であったが、彼らは未だナジミ達に近付けずにいた。

 意識を取り戻したベン=エルノマエが、儀式をやめさせようとする兵士達からミト達を守るべく、地面から引っこ抜いた木を振り回して鬼の形相ぎょうそうで暴れているのだ。

「な……なんて奴だ」

 ショウダ軍の新米兵士、ラナイ=ミシンリイは愕然がくぜんとしていた。
 ラナイは怪しげな儀式を続ける巫女達を取り押さえようと勇んで突撃したものの、大男が振り回す木にぶち当たって吹き飛ばされてしまったのだった。
 その際、全身を地面に強く打ちつけてしまい、痛みで動けないラナイの視線の先では、先輩兵士達が次々とぶん投げられ、振り回される木にはじき飛ばされていた。

 とうとうショウダ将軍がしびれを切らして、味方に抜剣を命じた。兵士達が一斉に剣をさやから抜く。同時に、他の隊も援軍に駆け付けた。総勢で五十名近くだ。

「貴様らーーー!! これが最後の警告だ……今すぐその怪しげな儀式をやめろーっ!! やめぬと言うなら……貴様らを斬り捨てでもやめさせるぞーっ!!」
「くっ……止むを得ないわね……!!」

 ショウダ将軍の最後の警告に対し、仮面の監査武官は、舞いながら腰の剣をさやごと大男に投げ渡した。

「ベン……みんなバラしちゃいなさい!!」

 仮面の監査武官の放った言葉にラナイは固まった。み、全員みんな……解体バラす!? 何言ってんだあの仮面の女……めちゃくちゃ怖えーじゃねーか!!
 ラナイの視線の先では、巫女と仮面の監査武官が舞い続けている。
 かたくなに儀式を止めようとしない二人に対し、将軍も苦い顔をしている。

「くっ……あくまでやめぬか。あの勇敢なる者共の仲間達だ、手荒な真似はしたくなかったが……軍を預かる身としては、これ以上兵達に被害を出すわけにはいかぬ……致し方無し!! あの者達を斬り捨て──」
〔待てーーーい!! 待て待てーーーい!!〕

 イソウ将軍が突撃の命を下そうとしたその時、仮面の監査武官から大男に投げ渡された剣が声を発した。それに驚いた味方の動きが止まる。

〔この私が……目に入りませぬかっ!!〕

 いきなりそんな事言われても……剣なんか目に入れられるわけがない、大怪我する。
 ラナイは思わず周囲の味方と互いに顔を見合わせたものの、皆が皆、『何のこっちゃ!?』という顔をしている。

〔あっ、私としたことが……ベンさん、急いで私の擬装を外して下さい!! そうです、つかに巻いてる紐の結び目を解いて……あと、つばの所の覆いも外して下さ……痛だだだだだ!? 先に固定用の目釘を抜くんです!! ……ハイ、バッチリです!! ……って、はっ!?〕

 ラナイ達の冷めた視線に気付いた謎の剣は、コホンと咳払せきばらいをした。

〔えー、では改めまして……待てーい!!〕

 ラナイは……いや、その場にいた誰もが思った。(いや、待ってただろ!!)と。

〔お控えなさい!! この私……宝剣カヤ・ビラキが目に入りませぬか!!〕
「ま、まさか……あれは国王陛下がミト姫様の為に作らせたという宝剣か!?」
「は、初めて見た……なんというきらびやかさなんだ……」

 大男が高く掲げた豪華絢爛ごうかけんらんこしらえの剣を見て、兵士達の間にざわめきが広がってゆく。

「いや……待てよ、どうしてその宝剣カヤ・ビラキをあの仮面の女が持っているんだ?」
「ま……まさか!!」

 兵士達のざわめきが最高潮に達したその時、煌びやかなる宝剣は、よく通る声で高らかに言った!!

〔おひかえなさい!! このお方をどなたと心得ます!! 畏れ多くもアナザワルド王家第三王女、ミト=アナザワルド様にあらせられますよ!!〕

 仮面の監査武官が舞いながら仮面を投げ捨てる。仮面の下の素顔を見たショウダ将軍以下、その場にいた兵士達は言葉を失い、一瞬で固まった。

〔全員……頭が高いッッッ!! 控えなさーーーいっっっ!!〕

 90-②

 カヤに一喝されて、我に返った兵士達は大慌てで剣を鞘に納め、一斉にひざまずいた。

「ショウダ=イソウ!!」
「は……ハッ!!」

 ミトに呼びかけられたショウダが慌てて返事をする。

「クラフ・コーナン城塞奪還作戦の総大将の任、ご苦労様です。しかし……例えクラフ・コーナン城塞奪還作戦の総大将と言えど……私の邪魔立てをする事は許しません!!」
「し、しかし……」

 その時、第二広場に突如として人間大の巨大なアリが乱入してきた。その数、五匹。

「まずい!! み、皆の者、防御陣形を組み姫様をお守りするのだ!!」

 ショウダが慌てて指示を出すが、咄嗟とっさの事で行動が間に合わない。ミトに気を取られ、不意を突かれたショウダの兵士達は蹴散らされ、総崩れになりかけた。

「ああもうっ……仕方ないわね!! ベン、カヤを!!」
「はいっ!!」

 ミトはベンからカヤ・ビラキを受け取ると、巨大な蟻の群れの中に飛び込み、またたく間に五匹の巨大蟻を斬り捨てた。蟻達の甲殻は鉄製の鎧並みの硬度を誇っていたが、ミトは正確に甲殻と甲殻の隙間の柔らかい関節部分を切断し、巨大蟻を斬り伏せていた。
 ミトの天才的な剣の技量と、超が5つぐらい付くほどの希少金属であり、最強の硬度と最高の強靭さを併せ持つ、金属の中の金属、《皇帝鋼こうていはがね》の刀身を持つカヤ・ビラキの斬れ味が成せる業だった。兵士達から歓声が上がる。
 ミトはナジミの方を見た。やはり自分にはあの光は宿らない。ミトは小さく溜め息をくとナジミに向かって叫んだ。

「ナジミさん……あのバカを頼みます!! 皆の者……砦に侵入した敵を撃ち払うのです!! 私に続きなさい!!」
「ひ、姫様!? 危険です!! おやめ下さ……はうっっっ!?」

 制止しようとしたショウダにミトの膝による金的が炸裂した。股間を押さえ、目を白黒させながらうずくまるショウダを見て、その場にいた男達は全員、思わず内股になった。 

「ぜ、全員……姫様に続けーーーーーっ!!」

 ときの声を上げつつ、兵士達は駆け出したミトを慌てて追いかけた。
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